0恋 恋愛の神様は恋愛を学び直します
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0恋
恋愛の神様は恋愛を学び直します
怠惰。自堕落。不健康。
人間の恋愛を司る神『恋神』は、人の住む世界とは次元が全く異なる場所。通称『神の住まう世界』の一角でダラダラと過ごしていた。
「うおっ。この新作『神ポテチ』めっちゃ美味いな! お前も食うかぁ? レミニアラ」
「いえ結構です。不健康そうなので」
恋神の秘書を務めているレミニアラは、恋神からの申し出を即却下した。
「それより恋神様。早く仕事してください。このままだと、無職神に改名しますよ」
「そんな権限……ないでしょ〜」
恋神はポテチの袋は手放すことなく、寝る姿勢を変えた。やる気がないのだ。仕事を。人間の恋愛を司る気がさらさらないのだ。
「なんだかなー。やる気出ないんだよ。だって、俺たち神は人間と違って恋愛感情ってのがない。人間は栄えるために恋情、欲情、発情が必須だが神は必要ないからなぁ」
「つまり、恋する人間の気持ちがわからないから仕事したくないと?」
「しょうもないからなぁ。恋愛なんて。所詮下等生物の無駄な要素だ」
「うむうむ。今の言葉。しかと聞かせてもらったよ。恋神……」
恋神とレミニアラの会話に突如として上から入り込んできたのは……。
「さ、最高神様⁉︎」
すぐさまレミニアラが片膝をつけ、頭を下げる。遅れて恋神もそれと同じ姿勢になった。
「よいよいそんなに堅苦しくしなくても。それより、人間の恋愛を司る神である君が、そんな心とは。しかも、心だけならばまだしも、それが仕事に影響を及ぼしているとなると……」
完全にヤバイ雰囲気。役職を与えられる神はとてつもなく優秀な神。故にこんな些細な気持ちと言葉程度でクビにされては、恋神の心は保たない。
なんとか弁明しようと頭を上げたところで、最高神の話は続いた。
「勉強し直しだな」
「ちゃちゃちゃ、チャンスをください! しっかりと、テキパキと、バリバリと仕事をこなしますので! だからクビだけは……」
クビにされると思った恋神は慌てて今の状況が好転することをただ願い口を走らせた。
「ん? 違う違う。君が優秀な神であることはワシにはわかる。ただ……」
パリッと、最高神の足元からとてもスナック的な音がした。
恋神とレミニアラがゆっくり最高神の足元を見ると、先ほどまで恋神が食べていた新作神ポテチが1枚。どうやら恋神が落とした1枚を最高神が踏んだらしい。
「ひええええええ‼︎‼︎ お、おいレミニアラ」
「ん?」
「だ、ダメじゃないかお菓子を床に落としちゃ。それ、さっき俺が君に渡したやつだろー?」
慌てて秘書のせいにしようと悪巧みする。だがレミニアラはそれに対して……。
「何をおっしゃいますか。そんな最高神様の足裏と対極みたいな物質、私は口にしません。ポテチの油で舌が変な方向に滑ってしまいましたか?」
何故かめちゃくちゃ嬉しそうな表情を浮かべながらそう返した。
「『こ、この野郎主人を全く立てようとしやがらねぇ‼︎』」
「まぁいい。話の続きだが、別に君をクビにしようなどとは考えておらん。が、仕事をする上でもう少し人間のことを知った方がいいだろう。特に恋愛感情の類いは、我々の知らないところが多いからな」
「なるほど。それで勉強し直せと」
ホッとして、少し体を丸めたが、最高神の話はまだ終わってない。
「よって、君は人間界に行って、人間と生活を共にし、ちゃんと恋愛を知ってきなさい」
「へ? ちょ、待ってください最高神様! 生粋の神であるこの私が、今更人間と生活を共にできるわけがありま……」
恋神の話半ばでレミニアラが自分の言葉を割り込ませる。
「最高神様。そのお考え……グッジョブです」
「おい!」
「よーし秘書もそれを推すのなら尚更だ。細かい決まりなどは行ってから説明する。とりあえず、人間の言葉で言うところの……善は急げってやつだ。行ってきなさい!」
ポンっと。軽く最高神に恋神は肩を押され、倒れた。倒れた先は……。
「いでっ………え、」
すでに人間界。どこかのアパートの一室の、畳の上だった。
こうして、人間の恋愛を司る神。恋神の、人間界での生活が始まった。
「………それより、この菓子。ちと、油が多すぎるな。不健康そうだ。製造廃止にしよう」
「ベリーグッジョブです。全て廃棄処分といたしましょう」
読んでいただき、ありがとうございました。