えんぴつだけで、人の心は表せない。
「暇そうだね。 色々訊きたいけど、いい?」
部室でこちらにこう話しかけてきた、制服にカメラをぶら下げた、長い髪で釣り目の女子。
この人は、僕の在籍している新聞部の先輩である。
普段は気が強く、感情の起伏の激しい人だ。
二人きりになっていた僕と先輩。
彼女はこの際だから、と言わんばかりに、向かい合うようにして椅子を用意していた。
僕が先輩の目の前の椅子に座ると、彼女はどこからかメモ帳とボールペンを取り出した。
その顔はいつにもまして真剣で、いつ鋭い質問をされてもおかしくなかった。
「趣味は?」
「ネットの動画を観ることです」
最初に訊かれたのは、名前や年齢ではなく、好物だった。
僕の大まかな情報は、彼女にとっては既知の事なので、不思議ではないのだが。
「ネットの動画ねぇ……。 具体的には?」
「リアクションを入れた、ゲームのプレイ動画……とか」
彼女が知らない前提で、あえてカテゴリを言わず、動画の内容について大まかに話した。
「実況、じゃなくて?」
「……はい」
確認してきたのに対して嘘はつけなかった。
その後も先輩からの質問が続き、気付けば空は橙色に染まっていた。
「最後に、この学校、及びこの新聞部について一言」
「穏やかな学校の、やってて意外と楽しい部活……です」
コメントを要求された僕は、背筋を固くしながら話した。
先輩は若干首を縦に振っていたが、それを見て、『これでいいのか』と戸惑った。
「やってて意外と、か……。 お疲れ様。 悪いね、君を巻き込んでしまって」
メモを取りながら話していた先輩だったが、それが終わってからの顔には、笑みが浮かんでいた。
「折角だし、帰りも一緒でいようか?」
「……はい」
それからの提案には驚きもしたが、素直に受け入れた。
僕の通う「なみき野高校」は、山を切り開いた土地の中に作られた「なみき野団地」の近くにある私立高校で、僕だけではなく、彼女も普段はその団地で暮らしているという。
建物までは同じではなかったが。
「のど、乾いてたでしょ?」
途中で彼女が、店の前の自販機で立ち止まり、僕にその場で買った水を渡してくれた。
左手から、軽く僕の右手へとトスするように。
それからの会話も弾み、楽しく帰る事が出来た。
しかし、この様子は、別の部員に隠し撮りされていた―――――。