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「……つまり、君も下手って事か」
「へ、ッ……たな奴は、兵士としてこうして前線で戦ったり、描いている最中の術師を護衛したりする……まあ、私は、確かに下手だ」
ガリガリと近くに落ちていた石で地面に少年騎士が絵を描き始める。
「…………もしかしてドラゴン?」
「……そうだ」
「じゃあ、俺も」
そう言い、千歳も手頃な石で土を削る。
「……? これは……なん、だ?」
「ドラゴンだよ」
地面に二匹の不恰好なドラゴン(のような何か)が生まれた。それはドラゴンと呼ぶにはあまりに格好悪くて、弱そうで、すぐに倒れてしまいそうな情けない姿をしていた。
「……まあ、絵が描けるだけが全てじゃない」
そう自身に言い聞かせるように慰める少年騎士に、千歳は思わず吹き出すように笑った。戦場で、何故こんな中学生のような会話をしているのだろう。千歳が笑うと、少年騎士も釣られて笑い出し、年相応の表情になった。
「ふふ……そうだ、これに魔力を加えてみないか」
「どうやるんだ?」
「どうって、説明は難しいが……魔術絵の場合は、こう動いたら強いだろうな、っていうのを想像するんだ。とりあえずやってみろ」
足りない魔力は補ってやる。と言われ、千歳は目の前の弱そうなドラゴンを見つめる。
「そうだなぁ……まずは光の速さで飛ぶだろ? そんでこの二匹はあの敵の兵士達をこの強力な腕と脚と尻尾で薙ぎ倒すんだ。そうしてあの、でっ……かいドラゴンに猛烈なタックルをお見舞いしてやって! そうしてバランスを崩した所で追い討ちを掛けるように」そこで千歳は言葉を止め、少年騎士を見ながら殴る仕草をする。
それを見て楽しそうに「どこが腕で足で尻尾なのか分からないから、きっと対処がしにくいだろうな」と少年騎士は笑った。
その瞬間。
あまりに強い光に二人は目を細めた。激しい雷音が耳をつん裂き、強風に煽られ後ろに体勢を崩す。そして次に目を開けた時、二人が描いたままの姿のドラゴンが、頭上を飛び去っていった。地面に描いたドラゴンの絵は白い光を放っている。
あの雷音は二匹のドラゴンの鳴き声なのだと理解し、少年騎士は信じられないと言った表情で呟いた。
「……嘘だろ?」
二人が描いたまんまの姿で、ドラゴン(?)が暴れ狂っている。
腕(?)や脚(?)や尻尾(???)で敵兵を薙ぎ倒し、目に見えて戦況がひっくり返っていく。
そうして飛んできた敵陣のドラゴンを発見すると、二体のドラゴンはゴォッというような音が聞こえそうなほどの速さで突撃していく。
「つえー……」
「まさか、そんなあり得ない……いや……あり得ない、事は無いのか?」
あまりの強い衝撃に、敵陣のドラゴンは大きくよろめき呻き声を上げた。ドラゴンの猛攻は止まらない。腕を大きく振り上げ、目にも止まらぬ速さでパンチを繰り出す。
「そこが腕だったのか」
思わず描いた本人でさえそう呟いた。
強烈なパンチを食らったドラゴンは一際大きな鳴き声を上げる。二体のドラゴンに挟み撃ちにされ、鱗が剥がれ落ち、目に見えて形が歪んでいく。
そうして最後の一撃を受けるとグラリ、と空中で体を大きく傾け、ドロリと形を失いボタボタと崩れ落ちた。
その間、時間が止まっていたように感じた。
しばらくすると二人が描いたドラゴンも形を崩し姿を消す。千歳と少年騎士は顔を見合わせた。
「勝った、のか……?」
「勝った……っぽいね……?」
戦況がひっくり返った、と分かった兵士達が一斉に歓喜の声を上げ、お祭り騒ぎになる。
呆然と顔を見合わせていた二人も、周りの様子を見て、勝った事理解した。