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静寂の予感  作者: 美真陽
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白い冬


久子は窓際のお気に入りのペールピンクのいすに座ったまま、眠るように息を引き取っていた。それを知ったのは、あの秋の日から三年が経とうという頃だった。

彼女は息を引き取る前に自分の生涯を思い返していたに違いない。

娘や孫娘のことを思い、胸を痛めたことだろう。そして、孤独から開放される安堵と、とうとう一人きりになる私の孤独を思ってちょっと涙したのに違いない。

本当の意味での新しい命の誕生はあるのだろうか。そして、私達が生まれてきた意味はあるのだろうか。

政府は遺伝子のプログラムを換える技術を人に用いることで、新たな生命を生み出すことを決定したはずだったのに。体細胞からクローンを作る技術が安定してクローンの作製に希望を託すことができるといっても、保管している体細胞にも限りがある。クローンの作製はいつまで続けられるのだろうか。

アルバムに写る子供達の笑顔は、ぞっとするほど自分達と変わらなかった。

クローン達による、同じような世界がだらだら続く。

変化に乏しく、進歩の無い世界が続くことになるのだろうか。

久子は、薄れ行く意識の中で、クローン達の未来が明るいものであるように祈っていたと思う。

クローン人間の作製で、しいばらくは子供たちの声が町にあふれるであろう。けれどそれは、人類誕生から何万年も続いた物と、同じものとなるのだろうか。

私達の選択は正しかったのだろうか。

「おばあちゃん、あのね。」

そう言って屈託の無い笑顔で近づいてきたひろみを、ぎゅっと抱きしめ、

「ごめんね。ごめんね。」

と繰り返す。その様子にユミは驚いて駆け寄ってくる。

私にとって、ユミの行動はもはやプログラムされたものではない。

「かわいい娘と孫。私の決断によって生まれた二人は、確かに私の娘と孫だ。」

「この二人のために一秒でも、長く生きなければ。」

「本当の生命が誕生するその日まで、生き続けなければ。」

窓の外には、今年初めての雪がちらちらと降り始めていた。やがて雪が降り積り、あたりは静けさに包まれていくだろう。

このまま、時が過ぎてクローンも誕生しなくなった時、本当の静けさが訪れるのだろうか

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