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静寂の予感  作者: 美真陽
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晩秋

文子の息子夫婦は、彼女の死と同時に廃棄された。そして、三人でよくおしゃべりをした文子の家も壊された。白い壁にこげ茶の柱、山荘風の文子の家は、ガーデニングが趣味だった彼女の手によって四季折々の草花に彩られていた。ちょうど今の季節、文子の庭には秋になるとみごとな金木犀の花が咲き乱れていた。その甘い香りに包まれて、玄関までのアプローチを歩く時には、何度も大きく深呼吸したくなるほどだった。そして、モスグリーンのソファにゆったり腰掛けて、シナモンの効いたお手製のパンプキンパイにバニラアイスを添えてもてなしてくれた文子。今はそんな思い出の家は跡形も無く、緑の芝生の平地が広がるだけになってしまった。

アンドロイドであった文子の息子夫婦と同様に、私達の娘達も、私達がいなくなったら、やはり廃棄されてしまう。

私達はあれこれ話しながら、AIの助けを借りながら性格、容姿を選んで娘たちを発注した。彼女たちが届いてから、生活に潤いができ子供としてアンドロイドを選んだことに後悔することはなかった。実際本当に子供を持ったようだと久子と話したことが何度もあった。

アンドロイドであっても、私と久子は「娘が廃棄処分になるのは、かわいそうだ。たとえクローンでも、人がいれば廃棄処分にならずに済むだろう。」と考えた。久子の孫も、ひろみと同様にクローンだった。

自分達の幼い頃をなぞるように、そっくりの成長を遂げていく彼女達。

久子と私は何度も、自分達の選択が誤っていたのではないかと話し合ってきた。

そして今日、クローンに関する新しい法案が政府から発表される。

二人は以前から、必ず一緒に聞こうと決めていた。

政府は私達のような寂しい思いをする国民の心情を組んで、私達が思いもつかないような、すばらしい法案を発表するに違いない。そう信じていた。

けれど、その内容は絶望的なものだった。

政府の発表は、クローンを人間として認めないと決定しただけであった。

オリジナルが生きている間だけは、クローンもオリジナルと同様に人権を認める。しかし、オリジナルの死とともにクローンはクローンセンターに送られ、各々の能力に応じて労働に従事するか、科学の発展のために利用されることが決定された。

「愛情を持って接してきたアンドロイドの廃棄処分を避けるため、クローンの作製に同意したのに。」

「クローンにまで酷い運命を背わせることになったということね。」

「私達も、結局は文子たちのようになるのね。」

久子と私は呆然と手を取り合って嘆いた。

アール・グレイのミルクティーはすっかりさめていた。

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