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金捨て人は金が欲しい  作者: アルコールは飲み物
第一章 プロローグ
9/9

1-9 リュウの最期

路地に飛び込んだ俺は、とりあえず「おいおっさん!」と大声を出そうとしたが、不意にヒョロ男がポケットを押し当ててきた。



(何のつもりだ?)



あまりにも自然なゆったりとした動きに反応ができない。


その行動を疑問に思った時、腹部に強烈な熱さを覚えた。



(あっつ!何が起きた!?)



見ると、腹にナイフが刺さっていた。根元まで深々と。




(…え?)



つい右手で腹を触るが既に血がやばい。




(血がやばいって何だ?…いやいやその前にまじかよ。これまずいんじゃないの?)



余りの事態に頭がよく回らない。


そこへヒョロ男の声が頭上から聞こえた。



「ククク…棚ぼたごちそうさん」



俺はそこで初めてヒョロ男の顔を近くで見ることができた。



(………?)



この顔の感じは、どこかで見たような覚えがあった。



(………っ!!………ま、まさか…これ、親父か!?)



デブでは無くなってはいたが、さすがにこの距離でまじまじと顔を見れば分かる。間違いなく親父だ。



「分かるかリュウ。俺だ。お前のおかげで今後も俺は安泰だよ」



そんな事を言う親父は、至福の極みにいるような恍惚とした表情を浮かべていた。


何を言っているのか意味が分からなかったが、とりあえず1つ俺は方針を固めた。


…もうソラ姉は呼べない。



最初は大声を出して相手をびびらせれば牽制になると思った。


ソラ姉は俺の大声に気が付いたら間違いなくこっちに来てしまうだろうが、牽制が成功していればそれでも問題は無かった。


普通に俺が勝てただろうから。



しかし…状況が変わり過ぎた。


はっきり言って腹からの出血がやばい。初体験の出血量だ。


これがどの程度危険な状態なのか分からないのだ。



(完全に劣勢というか、俺…死ぬかも?)



今の状況でソラ姉が来てしまうことは、非常にまずいことに思えた。


来てしまっても、これを見たソラ姉が逃げて通報してくれれば問題はないんだが…



(ソラ姉はきっと…逃げない)



これは確信だった。


俺がこのまま何とかできるならソラ姉を呼ぶ必要はないし、万が一負けるならソラ姉を呼ぶのはまずい。


つまりどちらにしろソラ姉は不要だ。


それなら、俺がこのまま何とかすればいい。


腹への一撃は確かにやばいが…まだしばらくは持ちそうな感じがする。勘だが。




ていうかこの親父、見るとポケットに穴を空けてやがった。


ポケットに手を入れていると思いきや、そのままナイフを握りこんでいたのだ。




(なんちゅう小細工だよ…!こうなったら、まずは時間稼ぎだ。ソラ姉が遠ざかったところで倒す事にしよう)



どうするかは決まった。


とりあえず親父のナイフの持ち手を左手で抑える。そして右手でナイフを押さえた。


刺されたままぐりん!ってされないようにだ。あれやられたら何かやばそうだし。



とにかくこれで親父は捕まえた。


死んでも逃がす気はない。



(俺の握力はチンパンジー並だぜ!)



ゴリラ並とはさすがに言えない。


あれには勝てない。


というか、これだけ余計な事を考えられる時点でこの程度では自分は死なないであろう事を予感した。


病院直行は確定だろうが、いける!



「ぐ……お、親父。冥土のみやげに聞かせてくれよ。どうしてこんなことを…?」



ちょっと演技臭かったかもしれないが、時間稼ぎのために俺はそう聞いてみた。



「どうしてだと?当然だ。金だよ。お前たちに保険がかけられていることはさすがに知ってるだろう?」



何やら気分がいいのか親父は話し出した。


保険?そういや昔、保険に加入させられたな。



「たかが…たかが金のために?人を殺すのかよ?自分の子を?」



昨夜ソラ姉に向かってあれだけ金が大事と言っていた俺が何を言ってるんだろう?


いや、あれはその場のノリだ。


そういうことにしておこう。



「たかが金か。所詮ガキだな。何も分かってねえ。金は大前提なんだよ。金がなきゃ何やっても楽しくねえもんだ」



くっ…!まさに昨夜俺が思った事だよそれ!


親父は俺か?


しかし俺にはこのセリフがある。



「金なんて…なくても幸せになれるはずだ…!」



もちろんソラ姉のパクリだ。


ソラ姉に感謝である。



「フン。この場で議論する意味はねえ」



親父は続ける。



「ただな、お前の強さは異常だ。当然ソラを狙ってたんだが…お前を先に殺せるなら俺としても大歓迎ってやつよ」



なるほど。


そうなるとこの先…親父に金がなくなったとき、またソラ姉が狙われる可能性があるってことか?


それだけは防ぎたい。



放置しておくだけでは、今後もソラ姉と俺の生命を脅かす存在になり続けることが確定した今、もはや親父は生かしておきたくない。


よし、殺そう。


そう思った俺は親父のナイフの持ち手を握りつぶすかのごとく、左手に渾身の力を込めた。



「いつっ!」



親父の手からナイフが手放された。



…よし。


そして右手で腹に刺さっているナイフの柄を掴み。


一気に抜き取って親父を切りつける…はずが血でぬるぬると滑ってしまい抜き取れない。



(まじかよ!?)



しかもその隙を突き、親父がもう片方のポケットに入れたままになっている手を近づけてきている。



(…なぜポケットに入れたまま?)



そう疑問に思ったのもつかの間、親父が叫んだ。



「このバケモノが!いい加減ラクになれや!」



…しまった。


完全に計算外だった。


この親父…両手にナイフを握りこんでやがった。



ザクリ。



俺の腹に本日2度目の異物が侵入する。


─と思いきや。




ザクリ。

ザクリザクリ。

ザクリザクリザクリザクリザクリザクリザクリザクリ。



2度目どころではなかった。


ナイフが無情にも何度も何度も俺の腹を往復する。



刺され、抜かれ。


刺され、抜かれ。



刺され、抜かれ。


刺され、抜かれ。




(え?え?え?)



ナイフの動きに固まったように見入ってしまう。




(これ、現実だよな?)



現実だと告げるかのように視界のナイフが止まらない。



(お、おい、ちょ、ちょ、待ってくれ)



やめ…


言葉を発しようとしたら、それは言葉にならず、代わりにごぷごぷと口から血が溢れだしてきた。



腹にナイフが刺さる。



「ぐぷ」



腹が切り裂かれる。



「ごぽ…!」



腹がえぐられる。



「あ゛っ…!あ゛ぁ…」



ビタビタと何か大事なものが腹から落ちていった気がした。


痛いどころではない。


脳が痺れるような感覚が俺を襲う。


そして急激に狭くなる視界。


白いもやにつつまれているかのようだ。



(やばい…これは…鉄パイプで殴られた時と同じ…意識飛ぶ時のアレだ)



しかし今飛んだら…




死。


確実な死を感じた。


するりと身体の力が抜けていく。




───死ぬ。





そこでふと頭の中にソラ姉の言葉が響いた。



『お金たくさんあっても私達は持て余すだけじゃない?悪い人に狙われたりして不幸を呼ぶだけな気がする』



…その通りだったよ。


大金が手に入るって理由でクソ親父に狙われちまってこんなザマだ。




でも、ソラ姉…ソラ姉!


ソラ姉だけは!




一瞬の覚醒。


相手の腕を掴む左手はそのままに、右手で掴んだナイフを腹から抜く。


ズッ…!


先ほどより簡単に抜けた理由は、すでに腹が全面ズタズタだったからに過ぎない。


おそらく、もう俺にあまり力は残っていない。


なら…!



俺は渾身の力を、その刹那のみ、そしてこれで最後でいいとばかりに絞り出し…一閃した。


親父の頸動脈に向けて。


親父の首筋がスパッっと切り裂かれた。



「え………あ………」



親父の絶望がかすかに聞こえる。



そして俺たちは同時に倒れた。






俺の視界に再度白いもやがかかり始める。



わずかに残った意識の中で自分の状態を探ると、腹から内臓が飛び出てしまっていた。



(こりゃ死んだな。こうなると心残りは…)



親父を仕留めたかどうか、だ。


何とか目だけを動かして親父を見ると、首から盛大に出血し倒れている姿が見えた。


──よかった。


あれは助からないだろう。既に俺の腹からの出血量に近い血が流れ出ている。


間もなく死ぬと思われた。


親父さえいなければ、ソラ姉は幸せになれるはずだ。



心残りが消え安堵した瞬間、身体がふわりと浮かび上がる浮遊感に包まれた。



(おお!なんか気持ちがいいくらいだ)



痛みはもう感じない。


いや、痛みだけではない。


視覚、聴覚、嗅覚等の五感全てが痺れているような不思議な感覚だ。




そんな薄れゆく意識の中、響いてきたのはまたもやソラ姉の言葉だった。



『超貧乏だけどりゅうと二人で暮らした日々の方が圧倒的に幸せ感じたんだよ?』



───ソラ姉、その通りだよな。幸せは日常にあったみたいだ。



『お金なんてなくていい!なくても幸せになれるもん!』



───俺も本当はそう思ってたよ。俺はそれでいいけど、ソラ姉もそれでいいのか?って思っただけなんだ。



『一緒に居て幸せを感じるかどうかが何よりも大事なんだよ?』



───うん。俺ももし生まれ変わったら…次はそういう相手に巡り会いたい。お金なんて無くても幸せだってお互いに言い合える相手に。



『りゅうのアホー!祝福してくれないなんて!』



───違うよソラ姉。心から祝福してたよ。ちゃんと言えばよかったよね。プレゼント買ってあげられなくてごめん。






そう。


お金は幸せを彩る要素の1つに過ぎないんだ。


なら俺は。


お金なんてなくても幸せだって本心で言える方がいいな。


お金なんて…どうしても欲しいときはさ、ちょっと節約して頑張って働けばいいだけなのだ。


なくてもどうってことない。


なくてもいいんだ。



願わくば、次の人生はそう思えるような人生に。




そこまで思ったところで、俺は死んだ。










───≪称号『金捨て人1』を取得しました≫


≪金捨て人1の取得により、ユニークスキル『四次元財布0』、スキル『金力状態確認』を取得しました≫


≪四次元財布0の取得により、所持金250000円が金力25に変換されました≫


≪ユニークスキル『四次元財布0』に『金力状態確認』が統合され、『四次元財布1』になりました≫




謎の声が響いたが、俺の意識は既になかった。

第一章終わりでやっと転移しましたw

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