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金捨て人は金が欲しい  作者: アルコールは飲み物
第一章 プロローグ
7/9

1-7 幸せな日常

またもや俺たちの生活は劇的に変わってしまった。


そう、極貧生活が始まったのだ。


もはや財布を持つ必要など無くなる程に。


この時から、俺の硬派の辞書から財布の文字が消えた。




高校は即中退し、俺たちは働ける場所で働くことにした。


ただ、中卒の16歳では深夜も働けない。よって稼ぎはたかが知れている。


それなのに安いアパート等に引っ越しができなかったのが痛すぎた。


保証人がいない16歳の俺たちなんかに部屋を貸してくれるところはどうあがいても無かったのだ。


幸い、今のマンションには親父名義で家賃さえ振り込めば住み続けることができた。


賃貸契約の更新も郵送のみで可能なので金さえ稼げば一応問題はない…ないが…



(家賃が高すぎるだろ…!親父のヤツ、オフクロの保険金にものを言わせてバカ高いマンション借りやがって!)



しかも、俺たちは自分たちが暮らしていく上で、何に対してお金を払う必要があるかを全然把握していなかった。


とりあえず督促が来たもののうち、必須なもの以外で解約できるものは全て解約した。


それでもバカ高い家賃のせいで焼け石に水だったが。






残念ながら、もう娯楽で楽しむ余裕など完全に無くなった。


ご飯も贅沢はできない。


美容室などもってのほかだ。



(美容室…いきたい!)



仕方なく俺は金髪への脱色は諦めたが、自分でソフトリーゼントにカット練習できるいい機会だと開き直ることにした。



(バイトはせっかく金髪でも大丈夫だったのにな)



そう、俺のバイトは髪型自由な土木作業員。


お金を稼ぎつつ、肉体も鍛えられて一石二鳥なのだ。




ソラ姉はスーパーのレジ打ち。


どうやら職場の男性にやたらモテているらしいが…


俺としてはソラ姉が好きな相手であればどんな男だろうと異論はない。


ただ現状を考えると、出来れば超セレブを捕まえてほしいものだ。




今は日々の生活で精一杯だが、18歳になれば深夜勤務が可能になると聞いた。


それなら少し貯蓄ができると思う。


さらに20歳になれば、保証人なしでの契約が可能になるらしい。


つまり引っ越せる。


18歳から引っ越し資金を貯蓄をしていけば20歳になるころには貯まってるだろう。


安いアパート等に引っ越せば、今の家賃とおさらばだ。そこからは余裕ができるはず。



(とりあえずの目安が4年後かよ………)



はぁ…16歳の俺からすると何だか気が遠くなる目標だった。



(金…!金が欲しいーーー!)





ただそれでも………それでも、俺たちに対しての悪意は無くなったのだ。


日々働いてご飯を食べて寝るだけという生活。


何の生産性もないのだが、それはある意味幸せだった。






───支払いに追われる日々の流れは早く、あっという間に4年が過ぎた。



資金に余裕ができたころから俺は自分で髪を脱色するようにし、俺たる証である金髪を最優先で取り戻した。


いわゆるツノ(みたいな)部分を黒く残し、ムラなく金髪にする技術。


それに加え、ソフトリーゼントにするためのカットもセットも、今ではもはや自前で自由自在だ。


ツッパリは髪のセットが超上手でなくてはいけないのである。



ついに安いアパートに引っ越しも終え、日々の生活には多少の余裕ができてきた。


それまでいくつか掛け持ちしていた仕事も、俺は土木作業員、ソラ姉はスーパーのレジ打ちの一本に絞った。




所持金が足りなくならないかどうか常に心配する日々から、余った所持金を何に使うかを考える日々へ。



(まだ20歳なんだ。貯蓄なんてしてたまるか。給料日前に金は持たねえ。硬派だ)



───完全に単なるバカであった。





ただ、以前と比べてド安定の毎日。


そのおかげで、既に仕事後の一杯も覚えてしまった。




今は8月。


真夏の暑い日、土木作業で汗だくになって働いた後、風呂上がりにキンキンに冷えたビールをいただくのは至福の時なのだ。



今日も今日とて仕事を終え、安アパートに帰る。


風呂に入る前に、冷凍庫にジョッキとビールを入れておくのがポイントだ。


そして風呂に浸かり、何も考えない時間を楽しむ。


身体中がじんわりとして、何とも言えない気持ちよさだ。



そして風呂から上がったら!


冷凍庫で凍りそうな程に冷やしたビールを!


火照った体にジョッキで一気に流し込む!



ごきゅごきゅごきゅ……!!



得も言えぬ爽快なのど越し。


水分を極限に欲する体に、金色の神秘の液体が隅々まで染み渡っていく。



「ぷっはぁーーー!生き返るぅーーー!」



香ばしい麦のかほりが鼻腔を抜ける。


生きていて良かったとさえ思える瞬間である。



(やばいな、こんな事ではあっという間にジジイだ。光陰矢の如し…)



硬派なツッパリ道をひた走る事が理想とはいえ、このまま一人身なのはさすがに勿体ない。


そう、彼女とかいうものを作ることには憧れる。



(そろそろ経験することを考えてもいいのかもしれん。恋ってやつを…!)



しかしだ。


そのためには大金が必要とのこと。


俺はジョッキを片手に用意した枝豆をつまみつつ、思考を加速させる。



同僚の話では、いい女と出会うためにはキャバクラというお店に行く必要があり、そこでは湯水のようにお金を使ってしまうそうだ。


さらに、そこで運よく恋が出来たとしてもだ。


自分が好きになった相手も同様にこちらを好きになる確率はどれほどのものだろう?


人類の男の数は35億人らしい。


えーと、俺が好きになる相手は1人だから…


もちろん、相手も1人しか好きにならないとして…



(え?35億分の1?)



まて。俺が10人の女を好きになればいい。すると確率は10倍だ。



(…いやいやそれは硬派じゃない)



では相手の女性が10人の男を好きになるような相手だとどうだろう?


これも確率は10倍になるな!


35億人を愛せる女なら両想いの確率100パーセントか!



(…いやいやアホか俺は。そんな女嫌だ)




とりあえず、その高いハードルを越え彼女ができたとしてもだ。


彼女に対してはメシはおごって当然。衣服はプレゼントして当然。


俺からしたらまったくもって必要性の見いだせない高価なアクセサリーまで貢ぐ必要があるそうだ。



軍資金が必要だな。


恋ってやつのために…!



(となると…ここはギャンブルか?20歳になったことだしスロットや馬券で一山当てて…)



俺は、スロットでビギナーズラックにものを言わせ、777を揃えまくる場面を想像した。


1万円がまず10万円になる。


俺は次に、競馬で俺が予想した馬が1着でゴールした場面を想像した。


10万円が100万円になる。


俺はさらに、競艇で俺が予想した艇が1着でゴールした場面を想像した。


100万円が300万円になる。



(おお!簡単じゃねーか!)



300万円あれば5回くらい恋できるのでは!?


5回恋すれば両想いの確率は7億分の1である。



(だぁーーーはっはっは!何とかなりそうだ!)



俺は早くも恋をする事の想像を超え、恋人が出来て一緒に過ごしているところを妄想していた。


そこへ玄関の戸が開く。


ガチャ!




「ただい…あーーー!また先に1人で晩酌始めちゃってるーーー!」


「ブツブツ…そこで俺は肩に手を回し………ん?お、あ、ソラ姉おかえり」


「なーに1人で鼻の下伸ばしてたの?エッチな事でも考えてた?」


「硬派な事しか考えておらぬ」


「語尾おかしい!あやしい!」


「ここっこここれは硬派語である」


「ニワトリみたい」



まずい。ソラ姉の気をそらさねば。



「あ!風呂前にソラ姉も一杯やるか?」


「あー…うん、報告したいことがあるからもらおっかな」



ふう。何かが危なかったが助かったようだ。


ジョッキを用意し、勢いよくビールを注ぎ入れる。


泡が多めなのがソラ姉の好みだ。


俺とは一生理解し合えない部分である。



「じゃ、乾杯しよっか!」


「今日は何に乾杯するんだ?」



乾杯の時に題目を毎回決めるのは俺たちのセオリーだ。



「ふふーん♪今日はね、アタシに彼氏ができたことにかんぱーい!」


「かんぱ……はぁぁぁー!?」



何てことだ。


ソラ姉についに彼氏というものが出来たのか。


先を越されてしまったらしい。


俺はどうやら硬派すぎたようだ。



「報告したいことってそれかよ」


「うん!めでたいでしょ?」



ビールの泡でヒゲをつくったドヤ顔が何とも微笑ましかった。



「まあな。そんで相手はどこの御曹司?」


「農家の御曹司」



…は?ジョッキを傾ける手が止まる。



「…まじ?」


「まじ」


「おいいいい!何でもっと金持ちを狙わないんだよ!ソラ姉選びたい放題でしょ?」



バンっ!とテーブルをたたいて大げさに俺は言ってみた。


枝豆がお皿からこぼれる。



「仕方ないでしょー!アタシが好きになるかどうかが重要なんだし」



グビグビとビールを飲みつつこぼれた枝豆をパクつき、サラリと答えるソラ姉。



「まさか…ソラ姉は金が嫌いなのか?」


「うんにゃもちろん大好き」



そうだろう。


金が無い幼少期に始まり、金が有り余る中学時代を経て、金が無いバイト生活をしている今。


俺は思い知った。金の力を。


金が嫌いなやつなどいない。



「じゃあ金持ちはそれだけで魅力的ってことじゃん!」


「でもさー。お金たくさんあってもアタシ達は持て余すだけじゃない?悪い人に狙われたりして不幸を呼ぶだけな気がする」



俺たちはバカなんだからと言いたいのだろう。どうせ金を使いこなせないと。…しかしだ!


給料日がはるか遠いのに、所持金が0円に近づく恐怖を俺は知ったのだ。


この恐怖は保護されている幼少期には絶対味わえないものだ。


自分の稼いだ金のみで生きて行かなくてはいけない。


その状況でだ。収入の目途がはるか先なのに所持金が0円になったとき、人は恐怖し絶望するのだ。



それを知った今、俺は以前の俺とは違う!



「だっはっは!よく考えてみろソラ姉?0円より1万円の方が明らかにいいだろ?それなら1万円より2万円!10万円より20万円!100万円より1億円ってことだ」


「そーなのかなー?でも相手が1億持っててもなー………それよりフィーリング?一緒に居て幸せを感じるかどうかが何よりも大事なんだよ?」



はあ?何を言ってんだソラ姉は。


一緒に居て幸せを感じるかだと?


まず金がなきゃ何をやっても幸せを感じられないだろう?


そこまで思った俺は閃いた。



「分かったぞ…!ソラ姉は単純に金持ちが嫌いなんじゃ!?」


「いやいや…別にお金をたくさん持ってることを否定的に見てるわけじゃないんだよ?」


「じゃあ農家って!まず金に関しては魅力ゼロでしょ?」


「りゅう!農家をなめんな!農家にあやまれ!」



ドン!とテーブルに空になったジョッキを置き、2本目を冷蔵庫から取り出すソラ姉。


…飲むの早すぎない?



「え…もしや農家の金持ち様?ホントに御曹司だったとか!?」


「んーん、貧乏農家」


「……………」


「……………」


「………………………ソラ姉、考え直せ」


「やだーーー!………だってリュウ、いい?」



俺にずいっと顔を近づけつつ、ソラ姉が続ける。



「アタシはね、お父さんがいて贅沢な暮らしをしてたあの頃よりも、超貧乏だけどりゅうと二人で暮らした日々の方が圧倒的に幸せ感じたんだよ?」


「それって俺と二人で暮らした日々にお金があればもっと幸せってことじゃね?」


「お金なんてなくていい!なくても幸せになれるもん!お金がどうしても欲しいときはさ、ちょっと節約して頑張って働けばいいだけでしょ?」


「うーん…」



ソラ姉の相手にケチをつけるつもりはない。


しかし、そこはひとまず置いておきたい。


とりあえずお金に関しては無いよりあるほうがいいってだけの主張がここまで否定されるとは思わなかった。



「…あーあ、りゅうのアホー!祝福してくれないなんて!もうこの話おしまい!お風呂入ってくるー」



ソラ姉はドン!とテーブルに空になったジョッキを置いて風呂に向かっていった。


…だから飲むの早すぎない?



「だって俺たちの生活向上のチャンスが!」


「しーらない!」


「…」



どうやら拗ねられてしまったようだ。


まあ金持ち狙えっていうのは軽い冗談だし、もちろん農家ってことにも何の問題もない。


むしろ相手の男が無職だろうと、ソラ姉が好きならそれでいいのだ。


俺が何か言える立場でもないしな。




そうだ。機嫌直しとお祝いを兼ねたプレゼントでも買ってやるとするか。


ちょうど明日は給料日だ。


そう思って、俺は晩飯でも用意するかと動き始めた。


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