1-5 稚拙な計画の実行
───その日は風の強い日だった。
俺は学校帰りに美容室を予約しており、帰りが遅くなってしまった。
「金髪でソフトリーゼントにできるなんて、最底辺の高校ならではだな!」
身長は既に181あったが、ソラ姉とは違って俺は童顔。
だからこそ舐められない武器が欲しかったのだ。
同時に、俺はツッパリだという意思表示でもある。
金髪ソフトリーゼント。
だが、こめかみの部分からななめ後ろ上方にたてている部分の髪一束分は真っ黒なまま。
それが左右両方にあるのだ。
それは例えるなら2本の鬼のツノのようであった。
(やっべー…これはかっこよすぎる)
俺は既にDQNを超えた異次元の道へ足を踏み入れていた。
そして気分よく家の玄関の戸に手をかけたときである。
…ドン!…ドタン!…ドン!
家の中から激しい物音が聞こえた。
(なんだこの音!?)
すると「きゃぁっ!!!!」とソラ姉の悲鳴にも似た声が響く。
その瞬間、最悪の予感が頭を埋め尽くす。
(まさか?親父がソラ姉を!?)
しかし頭を振り瞬時に考え直す。
(いやいや馬鹿か俺は!)
その予感があまりに下卑たものだったからだ。
もう親父は改心したはずだ。
今更そんな事が起こるわけがない。
いや、本当にそうか?
それは俺の願望の側面が強すぎるだけじゃないか?
いやいや、願望でもいい。
親父はもう悪いヤツじゃねえんだ!
そう思い込むために悪い方の予感は振り払い、俺は勢いよく戸を開け放ち、その音の元へ飛び出した。
…そして、俺の願いは容易く打ち砕かれた。
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男はこの日を待っていた。
天候は晴れ、ソラは洗濯物を干して学校に行った。
リュウは今日、学校が終わったあとに美容室の予約があるそうだ。帰りは遅くなる。
極めつけに風も非常に強い。
(ついに来た!今のところ理想的な状況だ。あとは洗濯物をうまく引っ掛けて…)
………罠は完成。
あとはソラの行動を待つばかりであった。
しかし。
どういうことか、ソラは帰ってきてそうそう昼寝をし始めてしまった。
(くそが!確かに時々昼寝をするときはあったが…よりによって今日か!)
このままソラを抱きかかえて落とすのはアリではある。
深夜に寝ている状態のソラを投げ落とすのとは全く状況が違うからだ。
深夜にマンションから落ちた場合、原因が不明すぎる。
しかし今の時間なら、抵抗さえされなければ…予定と同じ「洗濯物を取り込んでいる途中に足を滑らせた」という証言が通るはずである。
もちろん疑われるだろうが、その線の証拠は一切ない。
ということで既に『事故死』に出来る状況は完成している。
しかし抱きかかえた時に目覚められたら?間違いなく暴れられるだろう。そしてそのリスクが高すぎた。
(日を変えるか…?いや、リュウが帰ってくるギリギリまでチャンスであるのは変わらない)
男は待つことにした。
例えその瞬間が、リュウが帰ってくる5秒前だとしても問題はないのだ。
その瞬間を見られさえしなければいい。
逆にリュウが帰ってきてしまった場合は、その時点で諦めて日を変えればいいのだし。
(ソラを起こすことは…いや、今までしたことがない。そういう行動はやめておくべきか)
昼寝から起こして家事を急かすなど、俺が行うには不自然すぎる。
ソラに警戒心を持たれる可能性のある事はしないほうがいいだろうと思った男は、焦燥感に包まれつつもひたすら耐えて待ち続けた。
「うーん…ん…ん………んんっ?もうこんな時間!?」
ビクッとした。
ソファーで寝ていたソラがついに起きたようだ。
リュウはまだ帰ってきていない。
「洗濯物洗濯物!」
独り言を言いつつ素早く洗濯物を取り込み始めるソラ。
「あ~。あんなとこに引っ掛かっちゃってるや」
ドクン…!男の心臓が高鳴る。
(さあどう動く…?)
ソラは…
そのままバルコニーの手すりに登り始めた。
(来た!想定通り!リュウの気配もない!今だ!)
後はちょっと押すだけだ。
音をたてることも気にせず、ソラの元へ走る。
「…え?」
ソラがこちらを見た。
キョトンとしたまま何やら呆けている。
(クク!いいぞ!そのまま硬直しててくれよ!)
男はソラに向かってその手を伸ばした。
…しかし。
「わわ!?」
と一声、ソラはなんと手すりの上でジャンプをし男の手をヒラリと躱す。
そして手すりの上に片足で着地したあと、スルリとバルコニーへ降り立ち男に向かって叫んだ。
「なになになになに!?」
俊敏な動きとは裏腹に相当混乱はしているようだ。が…
(まずい。手すりから降りられてしまったこの状態から落とすことは難しすぎる)
失策だ。
完全に侮った。
運動馬鹿はリュウだけだと思っていたが、ソラの身のこなしも尋常ではなかった。
(ここで最悪なのは…殺されるところだったと思われることだ。ならば…!)
目的を勘違いさせるしかない。
(力づくでひんむいて…レイプしちまうか!)
殺人の失敗を悟った男は、作戦変更とばかりに獣と化した。