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金捨て人は金が欲しい  作者: アルコールは飲み物
第一章 プロローグ
3/9

1-3 つかの間の団欒

それからの親父はこれまでの態度が嘘のようにおとなしくなった。



「もうリュウには勝てねえ。勝てねえなら俺にとって暴力は楽しめねえからやらねえ。仲良くやっていこうぜ」



そんな事を言いながら肩をすくめる親父。


俺でウサ晴らしどころか、逆に痛めつけられるならもうそんな事はしないということだろう。



…ただ、当然だが。


当初、俺はだからといってこれまでの事を水に流す気はなかった。


復讐としてこちらから手を出すような事はしないが、仲良くするのは別問題だ。


ソラ姉も同じスタンスだった。




しかし…3年間。




酒のつまみを作るついでと言いながら俺たちの料理を作ってくれたり。


学校が休みの日に「話題になってるし見てきたらどうだ?」と二人分の映画のチケットをくれたり。


最初は『自分のことのついで』的な好意から始まり、次に『自分が混ざらない』事を前提とした好意。


俺たちが受け取りやすい好意で、徐々に距離を縮めようと努力してくれたのだ。




俺たちの生活は劇的に良くなった。




俺の親父は…

敵対していないのであれば、高級な高層マンションに住まわせてくれて、美味しいご飯も食べさせてくれる存在だったのだ。


俺の年頃が好きそうな漫画やゲームも買って来てくれる。

特にゲームは熱中し、遊ぶ相手もいない俺は同年代の誰よりもやり込んでしまった自覚がある。

まあ友達がいないので比較できていないけども。


生活しやすいように家具・家電も勢ぞろいだ。

親父がいなかったらこんな生活はできない。


安易に妥協したつもりは無かったが、永遠に親父からの好意を受け取らないわけにもいかず、一緒に何かをすることが多くなっていった…





「りゅうってば!案外チョロイよねー?」



相変わらずソラ姉が茶化してくる。



「いーのいーの!来るものは拒まないことにしてんだ俺は!それでこそ硬派!…ていうかソラ姉も同じじゃない?」


「ふふーん?アタシはこう見えて油断してないんだよ?」


「え?まじで?俺完全に油断してた」


「りゅうはそれでいいと思うよ!バカじゃないのはりゅうじゃないし!」


「そう?まあそれでいいならいいか!硬派の辞書に頭脳の文字は無い!」



バカであると自覚している俺は、ソラ姉の言葉にとても納得したのであった。



「…それ、悪い事を否定するときに使うやつだよ?頭脳を否定してどうすんの」






───親父は相変わらず仕事はしていなかったが、その分時間は腐るほどあったのだろう。


お小遣いを餌にお祭りに連れ出されたり。


車を出せるという事を餌に旅行に付き合わされたり。


まあむしろ大歓迎だったが。



何も考えずに楽しめる『娯楽』というものに初めて触れた俺たちにとって、それらは抗いがたい魅力だったのだ。


娯楽はすごい。

俺にとって、それまで娯楽に近かったものと言えば「衣食住」に関わるものであり、例えばたくさんの、もしくはおいしいご飯。

例えば清潔な、もしくは新しい服。

例えば暖かい布団、毎日のお風呂。


生きるための必須要素にプラスされただけのものだった。

しかし本当の娯楽は違っていたのだ。


生きるために何のプラスにもならない、時間だけを浪費する何の生産性も無いサービス。

ただ、人を楽しませる事だけに特化されている。


読んでも人生に役に立ちそうにないバトル漫画。

しかし死ぬほど面白い。


やっても人生に役に立ちそうにないロールプレイングゲーム。

なのに寝る間も惜しんで続けてしまう。


遊園地のジェットコースターなど最たるものだろう。

プラス要素が皆無なサービスの数々は、途轍もなく楽しかった。



親父は、娯楽以外にも色々気を遣ってくれた。


冬にも寒くないように、いろんなタイプの洋服を買うなんて信じられなかった。

洋服はどれだけ汚れているか、いつ洗ったかでしか選んでいなかったのに、どれを着てどれと合わせればかっこいいかで迷うという贅沢すぎる時間。


これまで学校を休みすぎて受けられていなかった健康診断にも行かされた。

背中のタバコを押し当てられた火傷跡について聞かれてしまったが、今更わざわざ問題にすることもない。


医者に「連れと一緒に根性焼きした」と言ったら苦笑いでスルーされた。




それになんと言っても高校だ。



中卒で働くとしか思っていなかったから、「まさか俺たちが高校に行けるなんて!」と、ソラ姉と一緒に心から感激したものだ。


二人そろって偏差値最底辺の私立しか選べなかったが、夢のようだった。ここなら合格確実だし。


何かあったときのために保険にも加入させてくれた。


相変わらず友達はいなかったが、これからは違う!


万全の状態で、俺たちの高校ライフが始まろうとしていたのだ。





───単細胞な俺は……親父からの悪意の可能性など既に忘却の彼方だった。






無事高校に受かり高校1年になったソラ姉は、おそらく一般的に美人と言われる女性に育ったんだと思う。



俺から見たらソラ姉は『家族としての姉』としか思えなかったし、異性として見ようものなら吐き気がするわけだが…


可愛いというよりは綺麗系。


髪を胸まで伸ばし、さらっさらのストレートロング。


高1にして162の高身長、スラリと長い脚はモデルのような美脚だ。






そんなソラ姉(女)と、暴力ゴリラの俺(男)。


比べるべくもない。


いくら他の女性と比べたら強気なソラ姉といえど、高校1年の女子だ。


とても大人の男性の本気の腕力にはかなわない。




…3年前、俺に腕力で負けた時から。


親父の矛先はソラ姉に向いていたのだ。




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