出会い
土砂降りの貴船神社。
鞍馬寺から山を越えてくると、そこは別世界。
海外で二年半働いた後、日本についてもっと知りたくなった私は帰国後、自転車で日本縦断の旅の途中だった。
毎日70㎞近く自転車を漕いでいた私は、体力には自信があった。
軽い登山や寺院巡り、お城見学、私より足腰が強い人なんていなかった。
ショーツにパタゴニアのカッパを着た背の高い外国人男性が颯爽に私を抜かしていった。私より速い奴?!
貴船神社の雰囲気素敵だな。お腹すいたな。ご飯屋さんは全部高くて、街に戻ってから食べようと思った。
駅までのバス停にたどり着くと、私より速い外国人がいた。
隣しか空いてなかったので、そこに座ると、彼が言った。
「スミマセン、エキハドコデスカ。」
「ここから2㎞くらいあるそうなので、10分後に来るバスに乗った方がいいよ」と、英語で答えた。
なんとなく彼のことが気になりながら、無言でバスに乗り、無言で電車に乗った。ずっと一人で自転車旅をしていたから、一人は慣れっこだった。
向かい合わせの席に座ると、彼が笑顔で手を差し出した。
「スティーヴン、You?」
「ハナ。よろしく」
寒いねとか、お腹がすいたねとか言った。
スティーヴンはスノーボードインストラクターで、この冬はニセコで働いていたそう。私もニセコで働いていた。共通の友だちもいて、そこから話が盛り上がった。
ニセコに来る前は何をしていたとか、子どもの時の話とか、いろいろな話をした。
電車を降りて、山頭火のラーメンを食べた。冷えた体に染みた。
私はそのあと高校の修学旅行ぶりの清水寺へ行く予定だった。
スティーヴンに清水寺に行ったか聞くと、今日が京都最終日だと言うのに行っていないと言う。清水寺で、日本人の「清水の舞台から飛び降りる」気持ちを教えたり、地主神社でおみくじ引いたり、音羽の滝で寿命を延ばしたりした。
デートのようなデートじゃないような、初めてのような初めてじゃないような、楽しくてもう少し長くいたいと願っていた。
一日中の雨で私たちのレインコートはびしょ濡れだった。スターバックスが大好きな私は、
「スターバックス!」というと、
「行きたい?」というので大きく頷いて雨宿りすることにした。
彼はホットココアを飲んでいて、コーヒーは飲まないことは後から知った。
芸子さんを見に行ったけど、見れなくて、
私たちは居酒屋にご飯を食べに行くことにした。
今日初めて会った人と一日中一緒にいた。
話は尽きなくて、お酒も入り私は彼に少し触れたい気持ちだったが、
彼からはそんな気は微塵も感じなかった。
私は明日大阪に行き、自転車の旅を続ける。
彼は友だちと東京まで車を運転し、北海道へ帰る。
お店を出て、これで終わりかと思った私は、なんとなくこれで終わりにしたくなくて、
「facebookある?」と聞いて友達になった。
その夜「今日はありがとう。楽しかった。」と連絡してくれたのは彼だった。
私はゲストハウスの二段ベッドで一人微笑んで携帯を握りしめた。