出来損ないΩの恋愛事情
さらりとお読み下さい
亜麻色の綺麗な髪、少し垂れ目の浅田陽菜、Ω。
黒髪に綺麗な顔をした一目でαだと分かる倉田薫。
そんな二人に手を引かれ、まるで小判鮫の様にいつも二人の後ろを歩く平凡な私、佐藤冬美。β
物心つく前からずっと私達一緒だった。それは私達が高校生になっても続いていた。いつかこの二人は結ばれるのだろうと私は思い、いつも後ろから幸せそうな二人を眺めていた。
薫はいつも陽菜を一番に考え、優先していた。私は二の次で、何故この二人と一緒にいるのだろうと何度も思った。だけど、陽菜の事を相談にくる薫を私は突き離せなかった。陽菜を想い、守り、陽菜で笑う薫を私はいつも目に焼き付けていた。薫が幸せならなんでも良い。私は幸せな薫を見ているだけで十分だ。そんな些細な幸せは突然として壊れた。
陽菜に運命の番が現れた。
運命の番の男と腕を組み、私と薫に紹介しに来た時、薫は唯々人形の様に動かなかった。
そこから転げ落ちる様に薫は憔悴していった。運命の番に割り込むなんて出来ない。そして陽菜は頸を噛ませ、運命の番にしかフェロモンが感じなくなっていた。
薫のご両親に頼まれ、私は薫の部屋の前に座り込み声をかけ続けた。一ヵ月、毎日の様に薫の部屋の扉に背を向けて喋る私を、薫は遂に扉を開けて抱きしめてきた。離さないとばかりに強く私を抱きしめ、嗚咽まじりで離れて行かないでと泣く薫を私は頭を撫で抱きしめ返した。
「大丈夫、薫。薫にも運命の番がきっと現れるから」
「……そんなもの要らない。陽菜が全てだったんだ……冬美……冬美は俺から離れていかないよな?……俺にはもう冬美しかいないんだ……」
チリチリと薫の言葉が心を焼く。大丈夫、私は慣れっこだから。いつか薫にも運命の番が現れるから。それまでの間、側にいるから。そして私は今日も嘘をつき続ける。
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薫が少しずつ立ち直りはじめ、学校に行ける様になった頃、冬の季節はずれの転校生がクラスにやってきた。白に近い銀色のふわふわした髪の毛に、グレーの瞳、美の結集だと思う程の端正な顔立ちの二階堂冬夜。それだけじゃ無い、この人は私でも分かる特別なαの匂いがする。αの中でも最も優秀なαの匂い。
βはαやΩの匂いが分からないのに、βの私に匂いが分かったのは、本当は私が出来損ないのΩだったから。
フェロモンも無い、匂いも少ししか分からない、だから私は自分の運命の番が分からない。両親しか知らない、陽菜にも薫にも秘密にしてβと嘘をつき続けてきた。近くにいる薫も私をβと疑わない程だ。
二階堂冬夜は挨拶もせず、ツカツカと私の席まで来て私の腕を掴んだ。グレーの瞳からは嫉妬心丸出しで、私は訳がわからなかった。そして腕を掴まれ引きずられる様にして屋上まで連れてこられた。そして首筋辺りを何度も嗅がれる。
「おい!!何でチョーカーをしてないんだ!!お前Ωだろ!!無防備にいつでも噛んで下さいってフェロモン流しやがって!!」
「なんで……何でわかったの!?私にはフェロモンなんて無い筈なのに!!」
「馬鹿か!?クラス中お前のフェロモンでいっぱいだったぞ!!あんな所にいたら頭がおかしくなる!!」
「だから私にはフェロモンなんて無い!!他の誰かと間違えてるんじゃないの!?」
「あぁ、糞!!今もフェロモン垂れ流しやがって!!間違いなくお前の匂いだ!!」
「……嘘だ……だって薫も他のαも誰も気付かないのに……」
「冬美!!大丈夫か!?おい、お前!!冬美から離れろ!!」
息を切らして私達を追ってきた薫が、二階堂冬夜から私を引き離そうと腕を強く握り引っ張られ、痛みで顔を顰めると、二階堂冬夜は直ぐに私から離れた。
「おい……そいつお前の女か?」
「違う。でも冬美は俺のだ」
ああ、またチリチリと心が焼ける痛みがする。私は繋ぎでしかない。薫が好きになる人が現れるまでの繋ぎ。いい、それでいいのだ。出来損ないのΩなんて、誰も愛さない。きっと運命の番も私に気づいてくれない。
「そいつに、んな顔させてんじゃねえよ!!」
バキッ!!
二階堂冬夜が薫を思い切り殴り飛ばした。何故?薫は壁に叩きつけられ胸ぐらを掴まれている。
「こいつはお前の玩具じゃねえんだよ!!自分の女でも無いくせに、こいつを物みたく扱うな!!」
匂いがする。心の底から怒ってる匂いだ。どうして私はこの人の匂いが分かるのだろう。どうしてこんなに泣きたくなるのだろう。
「薫から手を離して」
「嫌だ。気に食わないんだよ、こいつの匂い。悪臭だ」
「手を離せ。冬美が俺から離れないって約束してくれたんだ」
「糞が!!もういい!!」
二階堂冬夜が手を離し、一瞬だけ私に顔を近づけて耳元で囁いた。首にチョーカーをつけないと頸を噛むぞと。
「ねえ、冬美……彼奴誰?冬美まで俺を置いていくの?」
「知らないっ……」
パンッと音がして、右頬に痛みを感じるのが遅い様な気がした。薫が私の頬を叩いたのだ。薫は笑ってさっきの二階堂冬夜のことをあれこれ聞いてくる。
「ねえ、冬美。おかしいよね?平凡な冬美がいきなりあのαに絡まれるなんて。冬美の近くにいるαは俺だけでいいのに。なのに何で隠すの?」
「隠してない!!私も今日初めて会ったし、それは薫が一番分かってるでしょ!?」
叩かれた頬が痛く涙が今にも溢れんばかりになる。薫はハッとして涙を流しながら謝ってくる。まるで幼子が母親から引き離さんばかりの勢いで抱きついてくる。私が陽菜だったら薫は頬を叩いたりしなかっただろう。そんな事を思い、またチリチリと心が焼ける。
「もういい……もういいよ……薫」
「すまない!!殴るつもりなんて無かったんだ!!冬美はこんな事で離れていかないよな!?」
「薫……変わっちゃったね……」
薫と私はこれからどうなるのだろうか。あの二階堂冬夜は私の頸を噛むと言っていたが、本当だろうか。これから私に起きる事はこの時はまだ考えもしなかった。
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