3分間の激闘・2
激闘が再び開始されました。
今回の敵も己自身。 思い込みはいけない。
休日のお昼時。
日本のどこにでも居そうな、とてもモブい男性が湯気をあげながらキッチンに立っていた。
目的は明確。
「適当に選んだカップ焼きそばだけど、これを指定通りの時間で湯切りしてみせるっ!!」
そのとても力強く宣言した言葉通り。
彼は何の運命のイタズラか、カップ麺の類で指定の時間を逃してしまう人生なのだ。
10回お湯を入れれば、その内7回・8回は時間を忘れて麺を伸ばしてしまう。
だからこそ「今度こそは!」とその都度気合いを入れるのだが、やはり時間が過ぎてしまう。
「今日はスーパーで適当に選んだ塩味のカップ焼きそばだが、今度こそ時間通りに!!」
ほら、この通り。
結果だけ言ってはつまらないので、時間を待っている間の男性の頭を覗いてみよう。
~~~~~~
かやくのいれ忘れ無し、ふたの上にタレ袋を置いたのも確認……ヨシ!
今度こそメーカーが指定する時間の通りにしてやる。
今回の俺は今までの俺じゃない!
……根拠はないけど、きっと大丈夫!
焼きそば……と言うと基本は5つに別れるか?
1つめは家庭の焼きそば。 ○ちゃんをはじめとする、家庭用の炒めるだけで作れる中華そばの焼きそば麺。 何を具にして焼くのかが、家庭の味。
2つめは、飲食店の焼きそば。 B級グルメで有名になったアレらを出すところとか、ラーメン屋や中華料理屋で出すのとか。
3つめは祭の屋台で売ってる焼きそば。 目の前を通るとソースの焼けた香りが卑怯なんだよなぁ。 強すぎる。
4つめは海の家で出す焼きそば。 祭の屋台とあまり変わらないかもしれないが、海無し県の人は馴染みが薄いし別扱い。
最後の5つめは、カップ焼きそば。 正直これだけ特別枠にしたい。 だって基本的に使われる麺が違うっぽいじゃん。 中華そばの玉子麺じゃないじゃん。
しかもどっかで聞いたけど、湯戻しして湯切りした、ただのカップそば。 ソースとかタレでそれっぽくしただけ。 焼いてすらいない。
焼きそばと言えば~で思い付きそうなのはこれくらいか?
多分どの焼きそばを生まれてから初めて食ったかで、変わるんだろうな。
ちなみに俺は1。 思い浮かぶのはもちろん男らしい具無しの、青のりだけかけたヤツ!
これを周りのやつに訊いてみたら、どんな環境で育ったかが、ある程度予測できるかもな。
…………はは、ブーメランだ。 ヤベェよ、訊いて回るのはやめとこ。
……カップ焼きそば、早く食いたいなぁ。
っと、カップ焼きそばでアレを思い出したな。
謎のカップ焼きそばヒーロー。
敵はケトル何とかって奴だったけど、意味分からなかったよな。
ケトルってなんだよって。
でも今時分からない日本人はそう居ないってのには、いま思えば驚きだな。
電気ケトル。 電気ヤカンじゃ駄目、通じないってな。
んでその焼きそばヒーローものっぽいCMが馬鹿ウケして、グッズ展開までして、果てにはゲーム化だぞ? なんじゃそりゃ!? だよな。
…………このネタ、今の若者に使ったらほとんど通じないんだろうな。
もし言って、反応されたのが嬉しくて当時の事を話せば、恐らく懐古主義だの「年寄りの昔は良かったが始まった」だの言われるんだろうな。
俺も若いはずなんだけどなぁ。 ジェネレーションギャップは恐い。
あー、やめやめ。 なんかメシを待ってる空気じゃねーや。
ぼんやりするネタの切り替えだ。
いつか家用の焼きそばを買った際に、どんな具を入れようかな?
これこれ。 こっちの方が気も楽だし、楽しくなるな。
えー、とにかくキャベツと豚コマはテッパン。
他にはどうするか?
玉ねぎは良いな。 火を通した玉ねぎは甘くて旨味もある。
ピーマン? パス。 近所だと袋販売だから絶対に使いきれず残る。
長ネギ? これも有りか。 玉ねぎと被ってる気もするが……まあヨシ!
海苔? ……良いかもな。 焼きうどんにはかつお節。 だったら焼きそばに海苔をかけても面白そうだ。
いいな、なんかのってきたぞ?
次にシナチクも良さそうだ。 あのコリコリした歯応えを、焼きそばに入れてみたらどうなるか、興味がわくな。
だったらナルトも良いんじゃないか? シナチクと同じく、名脇役仲間だ。 ラーメンみたいで賑やかになる。 良いじゃないか、良いじゃないか。
こうならばいっそ、ラーメン繋がりで豚コマから変えて、大奮発の焼豚を入れるのも手だな。
その味に併せて、醤油ベースのタレをかけるのも――――。
――――これ、汁の無いラーメンじゃん!!!
なんだよ俺はっ!
今日の俺はカップ焼きそばじゃなくて、ラーメンが食いたかったのか!?
なあ俺、どんな思考をしたらこうなるよ!!?
俺の妄想は、湯を入れてから3分くらいでこうなるの? ねえ!?
……………3分?
うわっ、3分をちょっと過ぎたばかりじゃん!!
やったぜ俺、今日は勝利だ!!!
~~~~~~
3分の経過に気付き、男性は喜び勇んで湯切りを済ませる。
そのまま流れで、添付された袋の中身を全部カップ焼きそばへ開けて、箸でかき混ぜる。
その手つきは中々に手慣れていて、彼の食生活が察せられる。
「よし、勝利の一口目を頂こうか!」
滅多に無い時間通りの麺を味わおうと、そりゃあもう気合いを入れる男性。
「いただきます!」
いつもの席へ座り、いつもの座卓で、いつもとちょっと違う食事にテンションが上がる。
「これが時間通りの麺……久しぶりだなぁ」
箸でつまみ上げた麺を口にせず、しつこく眺める。
正直ウザい。
「では一口目、行きます!」
早く食え。
見ている者がいたら、そう言っただろう。
しばらくニヤニヤ嬉しそうにした後、ようやく一口行ったと思ったら、顔がどんどん歪んでいく。
「これが時間通りの麺? 失敗時と変わらない……いや、それよりコシが無いぞ?」
どうやら異常があった様子。
この男性の宣言どおり3分だ。 なのにどんな異常が有るのだろうか?
とりあえず原因を探るため、ゴミ箱からカップ焼きそばのビニールを探し当てて、眺める。
こんな時に一般人が見るのは、作り方案内の図。
「問題無いよな? かやくなんかの小袋を入れて、お湯を注いで、時間で湯切りして、残りの小袋を入れてまぜる。 間違ってない」
ここで見付からなければ、とりあえず全体をざっと眺めてみる。
すると、思いがけない所で思いがけない物を見たのだろう。 男性の顔が驚愕で染められた。
「待ち時間が3分じゃねえ!! これは1分の塩焼きそばだ!!!」
なんと待ち過ぎだった!!
3分のカップ麺やカップ焼きそばを多く食べてきた彼が陥った罠! 確認せず適当に選んで買ったのが、仇になった!
…………いや、驚くほどじゃないな。 いつも通りだ。
ただ、いつもは3分の所を2倍前後の時間で食べていたから、規定よりおよそ3倍は放置した物を食べてこなかった。
「またかよ!! また失敗したんかよ、チクショーーーー!!!」
男性の慟哭は近所迷惑兼トラブルの可能性として通報され、警官の訪問を受けるまで続いた。
今回の妄想部分は、およそ1500文字でまとめました。
1分で500文字読めると言う標準を頼り、書く際に表示される使用文字数を信じて。
だがしかし、妄想部分だけを読めば3分だが、全体では2700文字オーバー。 つまり5分以上。 全体を読んでしまえば、3分のカップ麺なら待ち時間を過ぎてしまう。
5分のでもちょい過ぎる訳で、待ち時間で読むには適さない作品です。 罠にはご注意を(にちゃあ顔)
キーワード通りに予想できるオチ。
塩焼きそばで、ありがちであろう失敗……そして悲しみ。
だからこそ、どんなカップ麺やカップ焼きそばであろうと、湯を入れてからの待ち時間は毎回気を付けなければならない。
思い込みは敵。 カップ麺は大体3分なんだから、これも3分だろうなぁ。
これで慎重にならず、悔しい思いをした者は沢山いるだろう。
すげーよ、カップ塩焼きそば。
かなり前は、お湯を入れて90秒でカップ塩焼きそばが!
ってだけで驚愕ものだったのに、今や60秒。 1分。
だからと言って1分のに慣れると、カップ塩焼きそばにも3分の物が存在していて、今度はそれが罠となる。
慣れから来る思い込みは、敵だ(涙)