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「この異世界にはハンバーガーが無いという言い回し、もしかして私と同じ地球からの転生者なんですか?」

「あぁ申し遅れましたね、マリッサさん。僕の名はジュリアス・クライン、前世ではごく普通の大学生でしたが今は公爵をやっております。地球からの異世界転生者同士、仲良くしましょう!」

「えっとマリッサ・アンジュールです。よろしくお願いします……」


 スッと差し出されたしなやかな手を何となく自然の流れで握り返すと、ほんのりと温かな温もりが感じられました。私と似たような前世を持つ方が、この異世界に居たとは。しかもこの辺りの貴族の中では最も輝いているとされている独身男性のジュリアス・クライン公爵がまさかの転生者設定、びっくりです。


 すると私達の会話を一旦遮るように、『コン、コン、コン』とノックの音が響きます。


「失礼します、マリッサ様。薬を飲む前に、軽いものをとられた方が良いとのことです」

「ありがとうございます、すみません。倒れてしまった上に心配おかけして」

「いえ、我が館の当主もかつてアンジュール家にお世話になっておりましたので。今宵はゆっくり、お休みされるようにと」


 目眩から回復したばかりの私を気遣って、メイドさんがお水と薬、蜂蜜湯とスコーンを持って来てくださいました。救命の知識があるということから、クラインさんはそのまま医務室に残留しても良いみたいです。


 無言で蜂蜜湯とスコーンを頂き空腹を満たしていると、思うところがあるのかクラインさんがポツポツと先程の途切れた会話の続きをし始めました。


「蜂蜜湯とスコーン、美味しいですか? 欲しがっていたハンバーガーではありませんが」

「えぇ、さっきはハンバーガーが食べたいなんて、寝ぼけて言ってしまいましたけど。この異世界には概念のない食べ物ですし、地球の食べ物は忘れるようにしないと」

「しかし前世を覚えている人間が、これからもずっと、ずっと、それこそ終生【死を迎えるその日】まで。地球時代の思い出を切り捨てて、生きていけるでしょうか? 少なくとも僕には出来なかった」


 つまりクラインさんは、この異世界で超完璧公爵様というポジションにありながら、地球時代のことを忘れられないということなのでしょう。何不自由なく暮らしていると思いきや、人って心の中までは分からないものです。


「私の前世の記憶って、限定のハンバーガーを買いに行ってその帰りに交通事故に遭うところで、パッタリ途切れているんです。最初はただの悪夢かと思ったんですけど、本当に起きた出来事みたいで。きっと前世への未練の象徴がハンバーガーなんだと思います」

「ふむ、その未練。一緒に解消しませんか? 僕もね、時折無性に地球の食べ物が恋しくなるんです。地球にいた頃はハンバーガーに、それほど興味なかったのに。幸い、ハンバーグやパンの類はこの異世界にもあります。あとは自分達でハンバーガーを作って、勇気を出して食べればいい。食べてみませんか、一緒に……次のお休みに僕の屋敷で」


 その時のクラインさんの瞳は、とても孤独で寂しそうで。そしてきっと私も前世を思い出している時は、同じような瞳をしているのだと気づいてしまって。


「私で良ければ、是非ご一緒させてください」


 と二つ返事で、ハンバーガー試食という名のお屋敷デートを承諾してしまうのでした。


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