01 胡蝶の鶴
――――――――スイーッ
空には雲一つない晴天が広がっている。
――――――――スイーッ
木々のさざめきと鳥の囀りが耳に心地よい。
――――――――スイーッ
先ほどから現実逃避気味に羽ばたいてるせいで水飛沫があがり、湖には小さな虹が顔を見せていた。コンニチワ。
「こんにちわじゃねーんだよなあ・・・」
「・・・んー?」
心地良く微睡んでいると、ふと足元が冷たく感じ、目を覚ましてみればあらびっくり、気が付くと湖に単身浮かんでいた。
そう”浮かんで”いたのだ。
「うおおおおっ!?」
アヒルボートどこ行った!?っと思いながら手足を動かすと慣れ親しんだ感覚と違う反応が返ってくる。
そして水面をバチャバチャと叩く音も聞こえてくる。
何が起こったのか分からぬまま、されど羽ばたいた推進力で体が進み、しばらく同じことを繰り返した後。
「ふっさふさの羽毛だなあ」
そんなことを考えていた。
首が長いって便利だね、水面に映る美鶴におもわずうっとり。
頭の赤いアクセントが映えますねハハ。
「もしかして夢の中か?」
胡蝶の夢というものをご存じだろうか?
なぜか鶴になってしまったけど、胡蝶の鶴とでもいえばいいのか。
鶴なのにしゃべれているし、これは夢の中で間違いない。
顔を洗えば起きるだろうと水の中に頭を突っ込むが、お魚さんとコンニチワするだけで目が覚める気配はない。
「どうすりゃいいんだ」
寝て起きたら鶴になっていた。
もう一度寝れば起きたときに戻っているのではないか、そう思うもさっきまで熟睡していたせいで眠気などこない。
誰かに助けを求めるか?
とりあえず人がいるところまで行って、事情を説明する。
すみません寝て起きたら鶴になってしまったんですが、どうすればいいでしょう?
お願いします助けてください鶴だけに恩返ししますから!
「完全にホラーだろ・・・」
俺なら突然出会った鶴にそんなこと言われたら二、三日寝込む。
見てはいけませんよというか目を合わせてもいけないと思うだろう。
でもそうとしか言いようがない。なんて伝えれば助けてもらえるか。
どれだけの時間考えていたのだろうか、考えても考えても答えはでない。
気が付けば日が沈み、どうすれば如何に美しい「鶴のポーズ」ができるか練習していた。
その夜は湖でもう一泊した。