プロローグ
美しいモノが好きだ。
物心がついてからは何かに取り憑かれたかのように、自らの感じる「美」というモノの追及に人生を賭してきた。
綺麗なモノはいつまでも眺めていたい。
可愛いモノはいつまでも愛でたい。
優雅なメロディには浸っていたいし、心温まる物語には耽りたい、四季折々の景色を眺めるのも良い。
心の赴くままに感じる美を受け止めるのが自分の生まれた意味だと思っている。
「あーしあわせ」
夏の暑い日差しの中、平日の朝っぱらから木々に囲まれた湖のど真ん中で2人乗りのアヒルボートを1人で漕ぎながら景色を眺める。
周りには人っ子一人いない中、遠くで木々の葉が揺れる音と風の音色だけが聞こえてくる。
まるで自分が世界から切り離されて、この湖の世界に閉じ込められたみたいに思えてくる。
実に美しくて癒される。実にイイ。
「あ~・・・」
日差しに炙られながらも流れていく雲を見送り、たまに吹く湖で冷やされた風が体を冷やしてくれる。
少しすると心地良い睡魔が襲ってくるのは避けられないことである。
”バチャバチャバチャバチャ!”
近くで水飛沫があがる音が聞こえて目が覚めた。
ぼんやりした目でじっと見つめると何が音を立てているのかはっきりする。
「・・・鳥?」
でかい鳥がいた。水面から出てる体で2mぐらいの。
白鳥?鶴?っていうかこの大きさで鳥?
”バチャバチャ・・・バチャ?”
気がつけば目と目が合っていた。
でかいが美しい鳥である。
少々でかすぎる気もするが、美しければいいのではないだろうか?
首のラインが蠱惑的な曲線を描き、真っ白でふさふさの羽は新雪を思わせる。
円らな瞳がキュートであり、所々に見える黒色が美しいアクセントになっている。
頭部に赤色の模様がある。・・・鶴、なのだろうか?
――――――スイーッ
じろじろと見ていたからか、何か興味を持つものでもあったのか、向こうから此方に近寄ってきた。
あらためて見ても美しい、心が洗われるような、なんというか神々しいオーラを持った鶴である。
いつまでも見ていたい。この光景を心のアルバムに焼き付けなければ。
「・・・・・・」
どれだけ見つめ合っていたのだろうか、美しい鶴だけにうっとりとくだらない事を考えながら、またしても抗えない睡魔に身を任せたのであった。
そして俺は次に目が覚めたとき、それはそれは綺麗な鶴になっていたのだった。