終章・その五
「……今日からこのA組で勉強する事になった稲庭八尋くんだ。みんな仲よくやってくれ」
一時限目を控えたHR。
新しい学校の新しい教室の教壇で、八尋は新しいクラスメイトたちの晒し者になっていました。
当然ながら教室には知った顔が一人もいません。
風子は別のクラスに編入されました。
八尋はなんだか独りぼっちになった気がして、恐怖と緊張でプルプルと震え出してしまいまず。
「ほら、自己紹介」
中年で黒縁眼鏡の先生に発言を促されます。
「ぼ、ぼく……稲庭八尋です……。横浜から引っ越して……」
思わず小声になってしまいました。
なにかいおうとするほどパニックになって、目の前のクラスメイトたちの顔すら見えていません。
恐怖でパニックになりかけたその時、教室の扉がガラリと開きました。
「すみません! 家の手伝いで遅くなりました!」
現れたのは小夜理でした。
「渕沼か。親御さんから連絡あったし遅刻扱いにはしないが、最近ちょっと多くないか? まあいい、早く座れ」
「はい」
教壇の前を横切る小夜理。
ふと目が合いました。
ニッコリと笑みを返されます。
「……………………」
席に向かう小夜理を眺めていると、だんだん周りが見えてきました。
男女共学校なので、クラスメイトの半数は男子です。
さらにその半分はガッチリムッキリしていました。
この学校は農家や漁家の子が多く、力仕事で鍛え抜かれているのです。
よく見ると女子も肌が浅黒く、体格のよい生徒が多いと気づきました。
そして八尋は筋肉が大好きです。
なんだかテンションが上がってきました。
「ぼく…………ぼくの名前は稲庭八尋です! 横浜からきました!」
八尋の緊張は、筋肉が全て吹き飛ばしてくれたようです。
クラスが歓声で包まれました。
「キャーッ!」
「ちっちゃくて可愛いっ!」
「女子かと思った」
「モフモフしたいー!」
「学園祭はメイド喫茶に決まりだな」
「ミス磯鶴候補にダークホース出現か……」
一部に不穏な発言が混ざっていますが、八尋の耳には届いていません。
体格のよい女子たちがヒートアップしています。
あとでモフる気マンマンです。
実をいうと八尋の悩みは、男性恐怖症以外は全く解決していません。
それを思い知ったのは、次の休み時間でした。




