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終章・その一

八尋やひろ様……八尋様……」

 遠くから玉網媛たまみひめの声が聞こえます。

『そういえば川釣りはまだやった事ないなあ。どんな魚が釣れるか楽しみ……』

「八尋様っ‼」

 目を開けると、玉網媛の青ざめた顔が見えました。

「……玉網……さん?」

 起き上がって周囲を見渡すと、ひのき風呂や、神社にあるような祭壇さいだんがありました。

「八尋様が水の中で目を覚まさず、失敗したかと思いました……」

 どうやら睡眠中に召喚されて、眠ったまま顕現けんげんしてしまったようです。

「ここ、どこ?」

蕃神ばんしん様の召喚にもちいる祭儀室です」

 前回は玉髄ぎょくずい直下の海中に現れたので、八尋にとって初めての召喚設備でした。

「召喚……?」

 視線を下に向けると、一糸(まと)わぬ素っ裸でした。

 見慣れた姉のものと同じ、ささやかな双丘もあります。

 もちろん子象さんはいません。

「ぼく……また女の子になっちゃったの?」

わたくし自ら儀式を行っても、男子おのこのままの召喚にはいたりませんでした。おそらく八尋様の体質によるものでしょう」

 八尋の性別については、宝利命ほうりのみことから話を聞いています。

 その時は耳を疑った玉網媛でしたが、こうして女の子な八尋を目の前にしても、到底信じられるものではありません。

「まあ帰れば男に戻れるし、いいんだけど……」

「戻れるのですか? それは重畳ちょうじょう……」

 玉網媛は着ていた千早ちはや(巫女さんが神楽舞に使う羽織はおり)を脱いで、八尋の肩にかけました。

れておりますが、いまはこれを」

「あ、ありがとう……」

 玉網媛は全身びしょ濡れでした。

 八尋を浴槽から引き上げた時に濡れたのでしょう。

 真っ白な巫女服に、素肌がけて見えます。

「わあっ! ご、ごめんなさい!」

 慌てて後ろを向く八尋。

 風子のような貧弱幼児体形ならともかく、美人の女体は刺激が強すぎます。

 しかも胸元がはだけて、布地にはうっすらと薄紅うすべに色の突起物が……。

「……どうかいたしましたか?」

「いやぼく、男だからね?」

「いまは女性にょしょうではありませんか」

 皇室おうしつは母系社会で、現代日本とは貞操観念やエロ基準が異なる上、普段から女官さんたちに着替えや入浴を手伝わていせるので、玉網媛は裸に対する抵抗感がうすいのです。

 しかし八尋には、それだけでは納得できない違和感がありました。

「やっぱりぼく、子供に見られてるんだ……」

 美女に異性として認識されないのは、思春期の健康的男子にはショックな体験です。

「ところで釣り研究部のみんなは?」

「おりません。八尋様だけです」

「ええっ⁉ まさか、ぼくだけで釣りするの⁉」

 経験者とはいえ悪樓あくる釣りは一度やったきりで、一人でやれる自信なんてありません。

「いえ、此度こたびは少々事情が異なります。八尋様にしかお願いできない由々《ゆゆ》しき事態が発生いたしました」

「ぼくしかできない……?」

「別室にてお着替えをご用意いたしました。どうぞこちらへ」

 借りた千早で体を隠しつつ祭儀場を出ると、隣は脱衣場になっていて、かごに折りたたまれた巫女服が入っていました。

「アジュールブルーのはかま!」

 巫女服の袴が、標準色の白から瑠璃るり色に変更されていした。

「風子様にお聞きして、ご用意いたしました」

 蕃神の服装は二度目の召喚から好みの色を選択できる制度があって、歩と小夜理のモスグリーンやブルーグレーの袴は、二人が初めて召喚された時に選んだものです。

 歩はバンダナキャップ風の手ぬぐいに、魚の骨をモチーフにした染め抜きまで注文しているので、選択の幅は広く、かなり融通が利くようです。

「……ところでこれ、どうやって着ればいいの?」

 八尋は和服の着つけなんて知りません。

「お手伝いいたしましょう」

「ええっ⁉ いや駄目だよ! 女の人に裸なんて見せられな……」

 すでに散々見られたあとですが、八尋は全力で抵抗しました

「ええい、まだるっこしい! こうなったら無理矢理にでも着せてくれるわ!」

 ついにというか、やはりというか、玉網媛がブチ切れました。

 八尋は力ずくで全身の水気をき取られ、力ずくで着替えさせられてしまいます。

「きゃ~~~~~~~~っ‼」

 玉網媛の目は座っていました。

 いえ血走っていました。

 皇族おうぞくは気が短いのです。

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