第六章・帰還・その一
気がつくと、八尋たちはアスファルトの路上に立っていました。
「うっ……と、わわわっ!」「おお~っ」
平衡感覚を失ってよろける風子。
八尋は転びました。
「いたたた……」
日暮れ時に歩と別れた磯鶴高校の校門前でした。
聞いていた通り、無事に元の世界へと戻れたようです。
「八尋、大丈夫~? 起きれる~?」
風子に引き起こしてもらっていると、校門にいた歩が駆け寄って手伝います。
「悪ぃ悪ぃ、帰る時の注意を忘れてた」
「眩暈で転ぶから気をつけろっていってたね~、お風呂で~」
風子は八尋のいない時にレクチャーを受けていたようです。
「八尋が嫌がって逃げるから~」
「そりゃ逃げるよ! 女湯なんかに入っ……そうだ、ぼくの体!」
八尋は慌てて自分の体をまさぐって、股間に子象さんの生存を確認します。
胸のささやかな双丘もなくなっていました。
「よかった、男に戻ってる……」
ホッとする八尋。
「勿体ない~」
「女の方が可愛いかったのになぁ」
「なんで二人ともそんなに残念そうなの⁉」
しかも慙愧に堪えない表情です。
「こっちでも女の子になってたら、学校行けなくなっちゃうよ!」
「そしたらヒモになって、わたしの部屋に隠れ住めばいいよ~」
いつでもどこでもお気楽極楽な風子です。
「同じ家だよ⁉ それなら自分の部屋でいいでしょ⁉」
「嫌ならうちの境内に犬小屋建ててやるよ」
歩の実家は神社です。
「もはや人間扱いですらない⁉」
「じゃあ部室小屋に住むか?」
穴だらけで冬は寒そうです。
「あそこイノシシ出るんじゃなかったっけ?」
しかもヌシ級の大物で、名前の頭にド〇とかつくやつです。
「戦え。倉庫にサーモンバットがある」
歩はバットで〇スイノシシを退散させた戦果を持っています。
「死んじゃうよ! ぼくが!」
ヒャッハーと叫びつつ撥ねられる世紀末しか思い浮かびません。
「危なくなったら業務用冷凍庫に籠れ」
「入ったら出られなくなるパターンだよね⁉ 朝に凍死体が見つかるやつだよね⁉」
男に戻れて心底よかったと思う八尋でした。
「いやマジな話。女になったらとかじゃなくて」
「冗談じゃなかった⁉」
「猟友会は忙しくて、なかなかきてくれねぇんだ」
「ひょっとしてあの部室小屋、危険地帯なんじゃない?」
「そうそう、イノシシは昼行性だけど夜も活動するから気ぃつけて帰ぇれよ」
「どう気をつければいいの⁉」
「いまからでもサーモンバット持ってくか?」
「それ持って歩いたらイノシシの前に警察がくるよ?」
「それいいね~。パトカーで送ってもらおうよ~」
「それ留置場行きだからね⁉ 親がくるまで帰れないからね⁉」
明朝に警察署から学校に直行なんて御免被りたいと心底願う八尋でした。




