第三章・魔の海で釣りをしよう・その三
日が傾いてきました。
端的にいうとハゼ釣りにはキリがなく、釣っても釣ってもあとからあとから湧いて出ます。
マハゼやサビハゼはもちろん、シロギスやイソギンポ、果てはカエルウオまで釣れました。
堤防際の小魚が勢ぞろいです。
しかし最初のうちこそ同じ場所でいくらでも釣れたハゼたちも、数時間後には密度が薄くなってきました。
ここから先は入れ食いという訳には行きません。
『日が暮れたらまずい。ちょいと急ぐぞ』
「暮れたらどうなるの?」
『寝る』
「誰が?」
八尋はお昼過ぎまで寝ていたので、眠気はありません。
『ハゼに決まってんだろ。あいつら昼行性なんだ』
「あっ、そーゆー事……」
八尋はてっきり、釣りに飽きた風子が居眠りでも始めるのかと思っていました。
『ハゼは暖けぇ浅場の魚で、夜になると釣れねぇ。他の小魚も生態はそう変わらねぇから、そうなりゃ釣りは朝までおあずけだ』
シロギスなら夜釣りも可能ですが、食性が鈍ってヒットが格段に難しくなります。
「魔海って悪樓を全滅させないと消えないんだよね? 放っておくとどうなるの?」
『これ以上は広がったりしねぇと思う。でもこの街は皇都の台所らしいからなぁ。もし明日になっても終わらねぇと…………』
「終わらないと、どうなるの?」
『魚市場が開けねぇ。漁船の魚やイカが夏場の熱気で腐っちまう』
弥祖皇国は冷蔵庫がほとんど普及していません。
「大変だあ!」
バイオテロどころの騒ぎではありません。
経済的損失も莫大なものになります。
『なぁに、もうすぐ夕マヅメだ。数が少なくなったとはいえ、まだ爆釣タイムが終わった訳じゃねぇ』
「そういえば日暮れ時が一番釣れるっていってたね」
『そーゆーこった! だからガンガン行こうぜ!』
『盛り上がってるところを悪いんですけど……』
小夜理が口を挟みます。
『これだけ釣ってるのに、魔海の規模がほとんど小さくなっていません。まさかとは思いますが……』
『大物が潜んでるってか?』
歩の目つきが変わりました。
『丁度いいや。そろそろハゼにも飽きてきたとこだ。はてさてナニがいるのやら。カサゴかカレイか、はたまたマゴチか……』
「怖い魚だったら嫌だなあ……」