表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/39

第二章・魔の海へ行こう・その二

 目が覚めると水の中にいました。

 あわててもがく八尋やひろ

「ぷはぁっ!」

 水面に出ると周囲は薄暗く、時化しけまれて再び水中へとひきずり込まれました。

 小さな体がぐるぐると回転し、もうどっちが上でどっちが下かもわかりません。

 息()ぎしようとした時に海水を飲んだのか、口の中が塩辛くなりました。

『…………海⁉』

 八尋は青くなりました。

 ついさっきまで学校の校門前にいたはずで、堤防から落ちた記憶はありません。

『そんな事より早く海面に出ないとおぼれる……⁉』

 人間の体は海水より軽いので、息つぎで肺に空気が残っているなら浮きやすいはず。

 こんな時はうつ伏せに浮いて救助を待つ【背浮き】と呼ばれる対処法があって、暴れず動かず浮き上がる方法が効果的とされています。

 でもそんな知識のない八尋は、ついもがいてしまいました。

 体が沈む感覚に恐怖して、本能的に手足をバタつかせたのが致命的。

 そもそも八尋はカナヅチなのです。

「がぼっ……!」

 口から空気が吐き出されました。

 あとは肺に残ったわずかな酸素しかありません。

 だんだん気が遠くなって、全身から力が抜けて行きます。

『ぼく、死ぬのかな……?』

 薄れる意識の中、周囲が明るくなるのを感じました。

 いよいよお迎えがきたようです。

 そして八尋は死神の姿を見ました。

 いえ、死神ではありません。

 たくましい両翼を広げた、大きな大きな黒い龍です。

 腕をつかまれて、その胸に背中から抱え込まれました。

 黒龍は八尋を抱いたまま、強烈な力でぐいぐいと海中を突き進みます。

 海面に出た時、八尋にはもう深呼吸をする余力すら残っていませんでした。

 力を失った口から、海水がだらだらと流れ出します。

「息をしとらんな……フンッ!」

 黒龍が八尋の胴体をギュッとめ上げると、口からガボッと海水が吐き出されました。

「げばぁっ! がぼっ……ごほっ……」

 肋骨が折れるかと思いましたが、喉に詰まっていた水が抜けて呼吸が楽になりました。

「引き上げるぞ! 索条ろおぷ引けーっ!」

「あいさー! そーれっ!」

 頭の上から複数の男性の声が聞こえます。

 視界がぼやけてよく見えませんが、すぐそばに船があるらしいと気づきました。

 八尋を包む浅黒い肌に、力強い鼓動こどうを感じます。

 分厚く、硬く、そして打ちたてのはがねのような、熱い筋肉の脈動みゃくどうでした。

 冷えきった血肉が、灼熱の筋肉で温められて行きます。

『助かった……?』

 八尋は恩人の顔を見ようとしましたが、視界と意識がぼやけて、よく見えません。

 気管を痛めて声も出ません。

『ダメだ、お礼はあとでいおう……』

 優しく温かい筋肉の海に包まれて安心したのか、八尋はぼやけた意識を完全に手放しました。

 体の異変に気づく事なく……。

「参ったな。わらべとはいえ裸の女性にょしょうを抱くなど初めてだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ