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ワクワク

 数十分ほど経っただろうか。馬車が速度を緩めて止まった。


 御者と、別の男が話している声が聞こえる。


「積荷はなんだ?」


「お納めする農作物です。」


「そうか。いつもご苦労。通ってよし!」


 そしてギィっと重い音がひびく。扉が開いたような音だ。


 そして再び馬車は進む。


 ガタガタと、今までとはちがう音を立てて馬車が揺れる。石畳の上を歩いている?


 しばらくすると、あたりがガヤガヤとしてきた。街に入ったのか、どうなのか、潜む木箱の外から伝わる異国の雰囲気と賑わいに気分が上がる。


 馬車が止まってから隙を見て抜け出そうーーーと思っていたのに、ワクワクが抑えきれなくなってしまった。


 優しく木箱を少しだけ押し上げ、外を伺う。


 そこで視界に飛び込んできたのはーーー紛れもなく異世界だった。


 石畳の道の脇に屋台が並び、老若男女、多くの人々が行き交い交流する風景。その衣服や店頭に並ぶ食料、建物の造り、そしてなによりその雰囲気から、文化レベルが大きく異なるということがわかる。千年は遅れているのではないだろうか。いやが応にも、新しい人生への期待が高まる。


 辛抱たまらず、木箱から這い出て、往来の死角から降りた。幸い誰にも見つからなかったようだ。


 そして、馬車が遠くへ行って見えなくなるまで見送ってから歩き出した。


 ーーー街には活気があった。


「おおい!そこのマダム!寄ってきなよ!」


「あたしかしら?」


「おっと顔見てびっくり!マダムなんて歳じゃねぇじゃねぇか!ウチの娘くらいかぁ?」


「やぁだぁ!うまいねぇ〜あたしもう40よぉ?」


 屋台からは店主達の争うような客引きの声が聞こえてきて、それに足を止めては冷やかしを楽しむ女性たち。商品は山盛り、取引は旺盛、人々は笑顔、いい街だ。


 そんな市場の様子を、笑顔を浮かべながらキョロキョロと歩く10歳の男の子。大人たちからは、田舎からやってきて、都会の賑わいに心躍らせる天使に見えるんじゃないだろうか?けど心の中はそうじゃないーーー


 ーーー例えばあの、甲斐甲斐しく声を出す可愛らしい看板娘を攫ったらどうだ。身代金をふっけかけて脅す。金が目当てじゃない。娘の客寄せしてる姿を後ろから微笑んで眺めてるあの親父が、絶望に歪む顔をただただ見てみたい!あるいは、時たま歩いて行く馬車の、手綱を切って、馬の尻を蹴って、暴走させたらこの通りはどんな騒ぎになるだろう!嗚呼想像すると何かが出そうだーーー


 こうして俺の頭は、これから自分がすることができる悪事の想像で一杯だった。周りからはそんな風には見えないだろうな、という背徳感が、なおさら俺の脳髄を痺れさせる。じゅるりーーーおっとヨダレが!


 ーーー悪への憧れ。


 普通の男児は第二次性徴をむかえる前に、その気持ちに整理をつけるのだろう。ただ憧れの熱が冷めたり、精神が成熟することで悪に魅力を感じなくなったりして、現実に順応していく。中にはそのまま憧れ続け人生をドロップアウトしていく人間もいるが、ドロップアウトした先もまた現実であって、ヤ◯ザの世界にもルールがあって、結局はそういった世界なりの現実に埋没していく。


 ただ俺は、その時期を通らなかった。


 通らせてもらえなかった。


 ーーーお前は()()()()()()()()ーーー


 呪いのような、父親の言葉がよぎるが、頭を振って追い出す。


 俺はもう自由なんだ。しかも普通の自由じゃない。ここは異世界で、しかも俺には時を止める能力がある。それだけで無敵なような気もしたが、一応、異世界転移にはお約束の『鑑定眼』だってある。


 さぁ、なにから、しでかしてやろうーーー


 そんなことを考えていると、気づけば広場に出ていた。


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