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転生!

 




 目覚めると、あたり一面真っ白な世界だった。


 どこを見ても焦点が合わない。


 天井も床も、なんの物質も存在しない、それでいて不安な気持ちが一切湧かない、

 母胎のような無の世界。


 ーーー真面目な男、翔平よ。聞こえますかーーー


 そこで頭に直接声が響いた。


「誰だ?」


 ーーー神ですーーー


 端的な答えだ。


 ーーーあなたは非常に真面目で、生まれてからただの一つの罪も犯さなかった。それなのにたった54年で事故死させてしまうなんてーーー


 やはり私は死んだのか。


 享年54歳なら取り立てて短命でもないと思うが。


 ーーー本来ならもっと長生きしていただく予定だったのです。生まれてからたったの一つの罪も犯さない高潔な人間など100年に1人いるかいないかですからーーー


 まぁ、私は真面目だったからな。


 ーーーなのであなたにはもう一度人生をやり直すチャンスを与えたいーーー


 ……なんだって?それって……


「異世界転生、とやらか?」


 ーーーよくご存知ですねーーー


「それは剣と魔法のファンタジー的なやつなのか?魔族も獣族もいて、中世ヨーロッパの文化レベルの街並み広がる世界で、これから私は望んだチート能力を手に入れて、好きに生きていいということだな?」


 ーーーな、なぜそこまで物分かりがいいのかはわかりませんが、そうですーーー


 その言葉に、私の脳はガツンと揺らされた。


 この感情は、私が死んでしまったことへのーーー絶望?


 違う世界に送られてしまう、ということへのーーー不安?


 違う。


 これは、そう、歓喜。


 ーーー最高だ。


 まじめに会社勤めをして30年、人には言えない私の趣味がライトノベルだった。


 真面目だと思われている間は、ライトノベルなどを読んでいるとは周りに知られるわけにもいかなかった。


 それでもこっそりと読んでは、自分がファンタジーの世界でのびのびと無双することを夢想していた。


「さいこうだっ!!!!!!」


 真面目で、口数が少なく、取り乱さない、そんな私が、いや、俺が、何十年かぶりに、大声ではしゃいだ。


「チートチートチートぉ!!!!!おい!転生先で何をやろうが、天罰なんておりないよな!???」


 ーーーーは、はい。自由に人生を楽しんでいただくための転生ですからーーーー


 素晴らしい。


 ならばやることは一つ。


 とにかく、『悪事』だ。


 ライトノベルを、とりわけ異世界転生モノを読んでいて、不満だったことがある。


 それは、主人公が正義だということ。


 とんでもない能力があるにもかかわらず、やれ奴隷保護や、世界救済や、そんなことばっかり。


 ーーー違うだろ、もっと好き勝手するべきだろ。そう心の底では思っていた。


 もっとも、これは俺自身、トラックに轢かれる直前まで気づかなかった欲望だ。


 あの瞬間、プツンと切れたんだ。


 ―――俺は、悪人になりたい。


 遅れてきた反抗期。


 破壊衝動。


 悪に憧れる少年の心。


 もう俺を誰も止めることはできない。


「まず鑑定眼をくれ」


 ーーー話が早すぎます!ーーー


 あたりまえだ。俺の中には、もうプランがガッツリあるんだから。


「あとこれが重要だからしっかり頼むぞ」


 自分がにやけまくっているのがわかる。今まで抑圧していた欲望、リビドー、性欲がドピュドピュ溢れ出している。


「時間を止める能力をよこせ」


 ーーーはい?ーーー


「時間を自由に止める能力だよ!もちろん時間を止めてる間は、俺だけが自由に動けるようにしろよ!?その間他の人間の記憶は一切なし!あ、人間っつってもあれだぞ!?魔族と獣族は除外ーとかつまんねー揚げ足取るなよ!?俺以外の存在は全部だからな!?」


 ーーーわ、わかりましーーー


「しゃー!!!!興奮してきたー!!!俺あのジャンル好きなんだよー!!!」


 ーーーあのジャンル?ーーー


「うっひょーーー!うおぉぉぉぉ!ドピュー!」


 ーーーなんですかその叫び声!ーーー


「あとあれだ!間違ってもこんなクソジジイのまま転生させるなよ!?ゴリゴリのショタで頼む!!!10歳ぐらいがいいな!!!天使のような顔で!!」


 ーーーそれはどうしてですか!?ーーー


「女の子の警戒を解くために決まってるだろうがよー!!!ただの手のかかる男の子だと思って優しく接してたら、いつのまにかボ◯ンなお姉さんはめくるめく官能のせかいへ……あんたあの名作AVも観たことないの?シリーズ全部持ってるけど貸そうか?」


 ーーーな、何を言ってるかさっぱりーーー


 AVだってこっそり見てた。あのセクシーなファンタジーも、全て実現させてやる。


「あー!もう抑えきれない!この人生!真面目に生きすぎたんだ!可愛くもない嫁もらって一回も浮気もしないで!くそみたいな人生だったよ!中身はこんなに腐ってるのに!勘違いしてくれてありがとう神さまぁ!」


 ーーーやっぱりやめようかなーーー


 ふざけるな。


「それは絶対許さねぇからな!!!???さぁ今すぐ俺を転生させろ!!!早く!!!余計なこと考えるな!!!ほら早く!!」


 ーーーわ、わかりましたから!はい!ーーー


 俺の体は光に包まれた。




 ◆




 ーーー絶対失敗しました……まさかあんな人間だなんて……異世界がめちゃくちゃにされたらどうしましょう……ーーー





 ーーー……こっそり制限をつけときますか……ーーー

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