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02 気がつくと宴に参加していた私

冒険者と言えば酒盛りだと思う……

蜂蜜酒とエール、あと何だろう?

 ランドさんたちが拠点にしている町はまだ遠いらしく、私たちはひとまずひとつ前に通過した村に戻ることにした。


 先程の倒したオークトロールには討伐依頼が出ていたからだ。オークトロールだけじゃなく引き連れていたオークも数体倒している。


 それを思い出したのはプリム。笛を吹きながら楽しそうに踊っていた彼女が、いきなり叫んだのでびっくりした。


「あーーーーーーーーー!」


「ど、どど、どうしたプリム」


 めちゃくちゃ動揺したのはウェスさん。びくっとしたウェスさんのところから若干の血飛沫が。ふふふ。これは失敗しましたね。

 私は心のメモに刻んでおく。ウェスさんは以外と小心者。


「それ!そのオークトロール」


 ランドさんがザクザクと解体していたオークトロールを指差して「それそれそれ」と騒いでいる。ランドさんは手をとめて、ぽかんとプリムを眺めた。他のオークを解体していたリードさんとウェスさんも手をとめている。


「討伐依頼出てたーーーー」


「ああ、そう言えば」


 リードさんがポンっと手を打った。




 魔物はすぐに血抜きして解体しないと、いい素材も肉もとれない。

 もちろん、荷物袋に入る分は限られているので、オークトロールみたいな巨体でかつ肉も食べられるような魔物は近くの町や村に寄贈することもある。町人や村人に取りに来てもらって、代わりに宿代をただにしてもらったり。とか。


 今回は貴重な素材と道中の食料にするだけの肉をとってあとは処分するつもりだったのだけど。ここでプリムが討伐依頼のことを思い出したので、ひとつ前の村に戻ることとなった。

 現金と言うなかれ。お金は大事なのだ。




「ではでは、解体した肉は村人さんに運んでもらうとして。結界でも張っときましょうか」


 私はいそいそとランドさんのところに向かった。


「結界?別にいらねぇんじゃねぇの」


 ウェスさんが茶々を入れる。


「そうねー。私たち、いつもそのまま置いていってたわ」


 ニーナさんも不思議な顔をしている。

 はて?私は結界を張るのが常識だと思ってました。


「でも、そのままだと血の臭いで動物や魔物が寄りますし。肉も傷んじゃいますよ」


「え?でしたらチェスカが結界を張った肉は傷まないのですか?」


「ええ、だってそんな感じの結界を張りますから」


 質問してきたリードさんに答えながら、パパっと結界を張る。


 オークトロールとオークの肉塊の周囲四辺にニワトコの木でできたピンを差して心で念じながら魔力を流して。よし完成だ。

 ピンを起点に四角い正方形の白く光る壁ができた。


「まじかよ……」


 ウェスさんは見えるのか。流石、天才魔術師だ。


「ん?何か変わったか?」


 逆に何も気づかないのがランドさん。流石、魔術0の人だ。


「面白ーい。こんな結界、初めて見たぁ♪」


 プリムが結界の縁をツンツンしている。

 あ、ニーナさんも一緒になってやり始めた。

 ウェスさんは難しい顔で結界を見て、ぶつぶつ何か言ってる。


 続けてウェスさんのところに向かい、オークのほうにも同じような結界を張る。

 ぷぷっ、やっぱりウェスさんオークの解体ちょっぴり失敗してる。


「流石に永久にとかは無理ですけれど、半日くらいなら持ちます。村へは1刻くらいで戻れましたよね」


「あ、ああ……」


 呆然とした感じのウェスさんに、私は少しだけ気を良くした。だって、いつも意地悪だからね。

 その時、私は気づかなかったのだけど、リードさんがじっと私の顔を見ていた……らしい。






「おや、あんたら。どうしたね?何か忘れ物かい?」


 酒場の親父さんが不思議な顔で聞いてきた。

 そうよね。まだ3刻まえに出発したばかりだったもの。


「いやぁ、それがさ。それ、そこのオークトロールの依頼書。偶然、通りがかったら遭遇してさ。討伐しちゃったんだよね」


 はははと笑いながらランドさんがゴトンとオークトロールの生首をカウンターの上に置いた。はずみでギュルンと黄色みがかった眼球が親父さんの前に現れて、視線が合う。


「ひっ」


「あ、ランド。カウンターが汚れますよ」


 いや、リードさん心配するのはそこじゃない。


 親父さんは思いっきり青ざめていたけれど、オークトロールの討伐は嬉しかったのだろう。大分ひきつり笑いになっていたけれど喜んでくれた。


「お、おおお。ありがとう。ありがとう。これは早速、村長にも伝えて謝礼も用意せねば」


「それでですね。オークトロールの肉を村人で回収して欲しいのです。私たちも同行しますし、ここから1刻くらいの場所ですから」


「なんと!?肉までよろしいので」


 リードさんの申し出に親父さんは更に驚いていた。


 オークトロールの肉は実は高級品だったりする。オークは猪に近い肉質でトロールは人に近いとされていて食べない。筋肉質すぎて美味しくもないのだとか。

 そして、オークトロールはオークともトロールとも別種で赤身の肉は牛に近く、とても美味しいのだ。

量もとれるが討伐の難しい魔物なので高価なものとされている。いわゆる珍味というやつだ。魔物なだけに、滋養強壮効果もある。

 そりゃそうか、オークトロールやオークの肝は薬になるものね。効果はもちろんオークトロールのが高い。魔物の生態はとても不思議だ。


「構いません。オークトロールだけでなくオークも数体いましたし、私たちもそんなに荷は持って歩けませんからね。その代わり今晩の宿泊をお願いしてもいいでしょうか?」


「勿論です!それじゃあ、今から村長のところに行ってきます!!おーい、おおーい。ベラ。ちょっと店を空けるぞー」


 言うが早いか、親父さんは店を飛び出していった。

 元気だなぁ。


「ええー?いいけど…ってもう出てったのかい。仕方ないねぇ」


 カウンターの後ろの厨房から出てきたのが女将さんだ。


村で唯一の酒場は宿屋と食事どころも兼任していることが多い。ここのご飯は美味しかったから晩御飯が楽しみだ。


「うわぁ。生首っ」


 女将さんの悲鳴が響く。しまった。プリムが笑い転げている。


 あ~あ、オークトロールの首、出しっぱなしだった。






 オークトロールとオークを運ぶには荷車が2台必要だった。道中は村の若手6人に村長さんや親父さんまでついていて賑やかだ。ランドさんたちが解体を終えていたので親父さんは大喜びしてた。こういった作業は大体、親父さんと若手の仕事になっちゃうんだって。

 あと男の人たちがこぞってニーナさんにデレデレなのも面白かった。分かるなぁ。ニーナさん美人だものね。



 私もこっそり乗り換えた荷車に結界を張り直す。ウェスさんは呆れていたけれど、肉は鮮度がいいほうが美味しいよね。

 熟成肉だってきちんと下処理やしかるべきところに入れないと駄目なのだ。間違っても常温放置、駄目絶対!

 結界は魔力の少ない人には見えないから、村人にはバレてないし。美味しいもののためなら、多少のサービスくらいします。




 そのまま、肉は村の各家庭や酒場の厨房に持ち込まれ、夜は村の広場で大宴会になった。

 真ん中で櫓を組んで炎をつける。キャンプファイヤーだ。これ。


「うふふふふふ。楽しいねーーー」


 こうなると踊り子プリムの独壇場だ。

 酒が回った皆は陽気だし、プリムの笛も絶好調でほんのり魔力も乗ってしまったのだろう。

 赤い顔で踊り狂う人続出……。草妖精って怖い。


「あらぁ。これ美味しい」


「いい食べっぷりだねぇ」


「このタレが絶妙ねー。女将さん、これどうやって作ってますの?」


 臨時で作られた炊き出し場では女将さんとニーナさんが料理談義してる。

 タレと塩の串焼きに揚げた芋。お酒のジョッキもここから各自、持っていくようになっていた。


 その近くではウェスさんが船こいでる。蜂蜜酒の樽にもたれるようにして、顔も真っ赤だ。お酒弱いのかな?


「うはははははー。勝ったぁ!」

 

 ぐいっと木のジョッキを勢いよくあおったのはランドさん。

 こちらも顔はかなり赤い。勝ち誇ったように笑うと、リードさんもジョッキに口をつける。


「いーや、まだ、まだぁ。……んぐ、んっぐ」


 タンっと音を立ててジョッキを置くと、二人でしばらくにらみ合い同時に笑い始めた。さっと空のジョッキを村の女の人が取り替える。なんだろうこれ?うん。酔っぱらいのテンションって分からない。


 中央の方ではさっきからランドさんとリードさんが飲み対決していていて、周りは死屍累々。あの二人は生き残りなのか。あの一帯、お酒臭そうで嫌だなぁ。それにしても、リードさんは酔うと話し方が変わるのね。ちょっとくだけてる気がする。


 う?あれって村長さんと親父さんじゃない?酔いつぶれの塊に何かがいたが、私は見ないふりをした。


 私はというと、さっきまではニーナさんの側で私もお肉食べていたのだけれど、もう入らないし。お酒は弱すぎるから普段は飲まない。一応、16歳だし成人してるんだけどもねぇ。なんとなくまだ早いって思っちゃうのは何でだろう?


 どうしようかなぁ?と少し悩んで、ちょっと早いけれど部屋に引っ込むことした。明日の準備とか荷物の整理をしておこうと思って。


「あれ?チェス部屋に戻るの?」


 いつの間にかそばにプリムがいた。


「うん。ちょっと疲れちゃって。プリムはどうしたの?」


「プリムは休憩かなー。一緒に踊ってたおじちゃんたち動かなくなっちゃってさ」


 ニカーって笑ってるけども、プリムの踊っていた辺りでは、ぐったりと倒れている数人の村人が……


「うわぁ」


「戻るならリードの兄ちゃんに伝えておくね」


「ありがとう。よろしくね」


 私は笑ってプリムにお礼を言うと広場をあとにした。

 あの子の手に持っていたの蜂蜜酒だけども……。

 いやいや、草妖精は見た目通りの年齢じゃないし。下手をするとプリムがパーティで一番の年長者ってこともある。


 深くは考えまい。

オークの上位種はオークキングです。オークは群れを作り強いものに従う習性があるのでオークトロールと一緒に出てきてました。酒場の親父は村長に続く村の権力者ですね。こき使われてるけども。

チェスカの成人うんぬんの辺りが紛らわしいと思ったので変更しました。

この世界の成人は15歳で主人公は16歳です。

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