6話
一応閲覧注意でございます。
クロノスがこちらに来てから早5日。毎日のように来ていたユースティアナがまだ来ない。いつもこのくらいの時間になったらこの遊び場に来て、辺りが暗くなってきたら帰っていく。そんなルーティーンができていたのに、
「まだ来ぬな……。」
こちらに来たばかりのころは、一人でぼおっとしていて何も感じなかったのだがユースティアナと毎日会っていたためか今日はいつもより寂しい。
「また、泣いてはいないだろうか。」
初めて会ったときにクロノスを優しいと言って見せた愛しい幼子。
「さて、探しに行くか、待つべきか…。」
天下の魔王様にここまで心配をかけるとはユースティアナはその辺のサキュバスよりも質が悪い、と喉の奥で笑い小さな友人を探すためにこちらの世界に来て初めて遊び場を離れたのだ。
ユースティアナを探しに出て早速問題に直面した。
「ユースティアナの家がわからぬ。」
人間に聞くか?いや、初日に嫌と言うほどわかっただろう、この世界でも余は嫌われるようだ。
では空を飛んで探すか?論外だ、目立ったら亜人の国のように攻撃されるやもしれぬ。
ユースティアナの魔力をたどる?しかし、彼女にはほとんど魔力がなかった…。
「しかし、それしかないだろう……。」
そう呟いて、微弱なユースティアナの魔力を探す。
清廉な、どこまでも白く淡く透明な彼女の魔力は心地がいい。
「ふむ。見つけた。」
しばらく探り、ようやく見つけた微弱な友の気配に、
「余を迎えに行かせるとは、ユースティアナはやはりサキュバスよりも質が悪いな。」
機嫌よく歩き出したクロノスは、その種族の出生の独自性ゆえにユースティアナ、いや、遊佐姫愛羅が陥っている危機を正確に理解していなかったのだ。
ユースティアナの魔力をたどってやってきたのは高くそびえたつ摩天楼。
クロノスのいた世界では、城ほどの大きさがなければ建物全体を支えることはできないし、鉄筋コンクリートがないので強度にどうしても問題が出てくる。それをカバーするために魔法を使うのだが、そんな贅沢なことができるのはそれこそ城か、国の有力貴族くらいだ。
だというのにユースティアナはその摩天楼の一室にとらわれている。
「なんと、ユースティアナはどこぞの貴族であったか……。」
あのぼさぼさの散切り頭ではさすがに正室や側室の子ではないだろう。おそらくその貴族が平民に手を出して生まれた庶子か、夫ではない男に股をひらいてもうけた不義の子であろう。
そうあたりをつけたクロノスは踵を返し遊び場に戻る。
あの子の将来に魔族との接点などと言う汚点を残してはならぬと思ったからだ。サバトを疑われたでは将来彼女の婚姻にも障害が出るだろうと思ったクロノスなりの気遣いの結果だった。
しかしそのせいで寒空の下、マンションのベランダから、
「く、ろ、、……。」
立ち去るクロノスの姿を見つけた遊佐姫愛羅が必死に、
「たす、たすけて……くろぉっ!」
助けを求める声に、クロノスは気づくことができなかった。
自分を虐げる大人たちがやっと眠りについたようで甲高い声が聞こえなくなった。そんな時、マンションの下にあの黒い服を着たクロノスを見つけた。
なぜクロがここにいるの?そんなことを思うより早くその人に向けて手を伸ばして助けを求める。
あの優しい人のそばがいい。あの陽だまりのような優しいクロとお気に入りの木の下で他愛のない話がしたい。助けてと叫びたいのに、昨日の夜から一滴も水を飲んでいないユースティアナの喉からはか細い声しか出てこない。
きっと昨日の男の行動のせいで今日一日はベランダに出されたままだろう。
夜の間にすっかりと冷えてしまった自分の体を抱きしめる。
耐えるのだ。もしかしたらまたクロが自分を探しに来てくれるかもしれない。自分を……見つけてくれるかもしれない…。
「クロ…会いたい。」
虐待してくる母親を思っても、自分をいじめてくるクラスメイト達を思っても涙なんか出ないのに、たった数日共にすごしたクロノスを思うと涙があふれだすのだ。
「どうか、早くクロに会える、ように…ここから出して、もらえますように…。」
ユースティアナは誰に祈るでもなく、ただただそう願ったのだ。
うわあああああ!!!!!
早く助けてやれよぉぉおおお!!!!!!
自分で書いときながら心が痛くなる(´;ω;`)