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16話

「おい、ティア!!!俺様ひとり置いてくんじゃねーよ!!!」


「クレド……、ごめん。」


妖精王と魔王という世界のツートップの間に取り残されたクレドは自分を置いていったユースティアナに嫌味のひとつでも言ってやろうと思ったのだが、素直に謝られるとそんな気も起きない。


「いや、別にいけどよ……。ていうかお前魔王様と久しぶりに会えるって楽しみにしてたのにもういいのかよ?ミネルバ学長ならわかってくれるだろ?」


確かに、ユースティアナとクロノスの事をよく知るミネルバなら2人が久しぶりに会うのを止めてまで研究をしようとはしないだろう。

しかしこれはユースティアナの問題だった。


ずっと昔から知っている大切な人、……大好きな人。

まだ幼く、暴力に震えるしかなかった自分を救い出し、大嫌いだった名前を素敵なものに変えてくれた。


いつからだろうか、クロノスに抱きしめられて安心ではなく気恥しさを感じるようになったのは……。


嬉しいのに恥ずかしくて、くっついていたいのに逃げたくなる。


「多分……びょう、き?」


どくどくと早まる鼓動に熱くなる顔。

でも病院では問題なかった。

普通の病気じゃないならこれはなんなんだろう……?


「は!!?びょ、病気って!!おま、大丈夫なのかよ!!?」


「ミネルバなら、わかる……かな?」


「病気なら学長より病院だろっ!!!」


ぎゃーぎゃーと騒ぎながらも自分を心配してくれる友人に思わず胸が暖かくなる。


「クレド……優しい、ね。」


「ばっっ!!!!俺様は優しくなんてねーよっっっ、バーーーーカっっっ!!!!!!」


昔の自分くらいしか身長のないクレドにそう言って微笑むと顔を俯かせてしまった。

でも黄土色の髪から覗く耳は真っ赤に染まっており、それが照れ隠しだとわかる。



そもそもクレドと出会ったのはまさにユースティアナが学園に入学した時。

同年代の中でも一際小さかったユースティアナをからかう同級生達からクレドが守ってくれたことが始まりだった。


自分と同じくらい小さいのに、自分とは違い自身に溢れて堂々としているクレドに勇気をもらった。

後にユースティアナをからかってきた同級生達とは授業を通して仲直りをし、今ではすっかり友達だが、クレドは未だに一番仲のいい親友だ。


ユースティアナがクレドの身長を抜かした時は悔しそうに絶交だなんて言われたけど、次の日には、


「絶好取り消しだからなっっ!!!ティアが俺様より大きくなるなんて生意気だけど……、今度は俺様がどうしようもない時はお前が助けろよっっっ!!!!…………悪かった……。」


と、顔を真っ赤に染めて言われ、思わず笑ってしまった。



当時のことを思い出してクスクス笑っていると隣のクレドがむすっとした表情になる。


「なんだよ……。」


「なんでも、ない……。クレドと友達で、よかった。」


「……っ!俺様も、ティアが友達で、よかった…………。」


消え入るように、でもしっかりとそう言ってくれたクレドに嬉しくなる。



自分も、街も人も大き変わった……。

来たばかりの時は人だからとか、魔王の子供だからとかで嫌な思いをしたことも少なくなかった。

しかし、クロノスとハインリヒたちが何においても優先して取り組んだ意識改革のおかげで、最近はむしろみんなが優しくなった。


たった少しの意識の違いで手のひらを返したほかの人をほんの少し怖いと思ったが、きっとこれが社会で生きるということなのだ。



魔王城で自分を無条件で受け入れてくれる人や、完全に守られた状況ではきっと知ることは出来なかった。


学べば学ぶほど、自分がいかに力がないかを知ることになった。

きっとクロノスは自分の助けなんて必要としないだろう。


それでも、少しでも胸を張ってクロノスの隣を歩めるように努力を怠りたくない。



「クレド……。あのね、アパルクライスへの留学、行ってみない……?」


「は?おま……そんなん魔王様に頼めば1発なんじゃねーの?」


「自分の、力で進みたい、から……。」


「ふーん。ま、俺様はいいぜ!元々行きたかったし。」


ニヤリと笑って拳を突き出してくるクレドに、自分も手を握って突き合わせる。




「よく来たねユースティアナ!!と、クレド。君たちならすぐに来てくれると信じていたよ!!!」


相変わらずテンションの高いミネルバにユースティアナは苦笑いをする。


「俺様はついでですか……。」


「そんなことは無いよ!君がそばにいるとユースティアナの魔力が安定するし、何より色の変化を見るのにいいサンプルになる!!」


魔族との交流が進み、魔族以外でも魔力の色が見えるようになる技術が開発された。


もちろんその研究の第一人者はミネルバとハインリヒで、クロノスとカプリコーンが協力者となっている。


その研究と称してたまにユースティアナも魔力を見せるためだけに度々学長室に足を運んでは、ミネルバと他愛もない話をしているのだが…。


「ねぇ、ミネルバ……。」


「ん?なんだい?」


「最近ね、心臓が、きゅって痛くなる時があるの……。」


そう切り出すと、ミネルバは動きを止めて真剣な顔でユースティアナを見る。


「……病院には行ったのかね?」


「行った、けど……問題ない、って……。」


「ふーむ……。どういう時に痛むかはわかるかい?」


「クロに、会った時、とか……。」


しょぼんとしたユースティアナがそう言うと、ミネルバは真剣な表情を崩してふっと優しく笑う。


「それは病院に行っても治らない病気だよ!!」


「な!!それじゃあ、ティアはどうなるんですか!!?」


心配そうにティアを見ていたクレドが叫び、ユースティアナも心配そうな顔をする。



「安心したまえ!!それは恋の病だろう。治せるのは魔王だけだ!!なんなら魔王を押し倒して自分のものにしてしまえばいいっ!!真白の魔力を持つユースティアナと世界最強の個体魔王との子供なんてものすごく興味のそそられる研究内容じゃあないかっっっ!!!!!!応援するぞ!!!!」



「こ、い……?」


想像していなかった答えに思わず聞き返す。

だが、ユースティアナにはもっと気になることがあった。


「子供って、私と、クロの間にも……できる、の?」


生殖活動を必要としない魔族と人や亜人との間に子供を作る方法をユースティアナはまだ知らなかった。


というよりもクロノスが全力で阻止していた。

うちの子にそんな知識はまだいらぬ、というのが彼の主張だった。



「ああ、できるぞ。ただユースティアナはまだ幼いからもう少し大人になってからだな。」


「お、とな……。」


自分は、いつまで子供でいればいいのだろうか……。

いつになれば大人としてクロノスを支えることができるのだろうか……。



「……大人って言うのがなんなのかわかんねーけど。とりあえず今は出来ることやってこうぜ!!」


肩を落とすユースティアナの背中を思いっきり叩くと、クレドはにっと自信に満ちた笑顔を浮かべる。




「ミネルバ学長!!俺様とティアをアパルクライスの留学させてくれ!!!!」

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