15話
「クロ…っ!!」
「ユースティアナ。」
アコルハイトの入り口付近に去年新しく建てられた建物の前で一人の少女と背の高い男が互いに抱きしめあい
、男が少女を抱き上げる。
「ずいぶんと大きくなったな。見違えるようだよ。」
「ん!もう、大人、だよ。」
「おいおい!ティアっ!お前まーた魔王様に抱き上げてもらってんのかよっ!」
男と少女、もといクロノスとユースティアナのそばに真っ黒の服を着て、頭の両サイドから小さな角の生えた少年がむすっとした表情で突っ立っている。
「っ!!クロ……っ、子供じゃない、もう、14歳だよ!下ろしてっ。」
「む、そ、そうか……。ユースティアナももうそんな歳か……。」
しょぼんとしたクロノスは渋々自分の養い子を下ろしてやる。
昔の身長がクロノスの腰あたりまでしかなく常に自分について回っていた子供はもうおらず、依然として小さいが身長はずいぶんと伸び今ではクロノスの胸下あたりまで伸びている。
「そうそう!!魔王様に抱き上げてもらうのはこの俺様なんだからなっっ!!ティアはもう大人なんだから俺様にゆずれよっ!」
ふんっ!とふんぞり返り見上げてくる少年。
その目はキラキラと輝き魔王を見上げている。
「む、クレドか……。」
「は、はい魔王様っっ!!クレド・マッカレーです!貴方様のお役に立てるように学園で日々勉強しておりますっっ!!!」
「そうか……。おぬしのような亜人の子が悪の根源と恐れられた余にそのように言ってくれるとは、世界は変わるものだな。」
ぽすっとクレドの頭に手を置きわしゃわしゃと撫でる。
すると頭につけていた角がぐらぐらとゆれた。どうやら付け角だったようだ。
その様子にむすっとしたのはユースティアナだった。
ぎゅっとクロノスの腰に抱き着く。
「クロは、クレドのじゃないっ!」
「な、なんだよ!!お前のでもないだろっ!!」
「私の家族、だもんっ!!」
魔族と恐れられた自分が人のユースティアナと亜人、ハーフフットのクレドに受け入れられ懐かれ、それを周りにいる者たちにも当たり前のように受け入れられている。
「クロノスっっ!!!いったい何をやっているんですか…。早く太守館に向かいますよ。………ああ、ユースティアナ、先ほどミネルバが探していましたよ。どうやらあなたの魔力についてまだ話があるようですよ。」
街の中からすたすたと歩いてきたのは美しいハイエルフの男、妖精王ハインリヒだった。
どうやら今日行われる会談にその相手であるクロノスがなかなか来ないのでわざわざ迎えに来たようだ。
「はい、リッヒ…。クレド、クロは私の、家族だから…。じゃあね、クロ……。」
そう言うとクロノスとハインリヒに手を振ってユースティアナは学園のほうに走って行った。
「そしたら、俺もこれで失礼いたします。………おい!ティア、俺様を置いていくなよ!!」
クレドもぺこりとお辞儀をしてユースティアナを追いかけていった。
「ずいぶんと、魔族に対する認識も改められましたね。」
「そうだな……。だが、相変わらず人間側の動きが怪しい……。気は抜けんな……。」
二人で太守館に向かいながらアコルハイトの街中を見渡す。
三年前、ユースティアナとともに初めてこの都にやってきたときには考えられなかったことだ。
魔族と亜人の間で結ばれた技術提携はうまくいき、定期的に交流ができるようにと定期便を出し、一日三度国の公共機関として転送陣を発動させることが決まった。
一度に大量の人が移動できるうえに、その魔力供給を担うのは魔力の多い魔族側の者たちで亜人側には不利益なことが少ないためにすぐに取り入れられ、魔都ベルムトートと首都アコルハイトに転送陣が設置された。
また、近々防衛都市アパルクライスにも設置される予定である。
「……人間と言えば、最近アゴニエトル砂漠で頻繁に人間の商隊が確認されている。だが、その商隊がどこかの都に入った記録がない。」
「………偵察部隊か。」
「お恐らくな。だが、不思議なことに誘拐自体は数が減っている。……戦争をするつもりなら奴隷の首輪で言うことを聞かせた亜人を多くそろえると思っていたのですがねぇ。」
眉間のしわを深くして難しい顔でそう言った。
嫌な予感がふつふつと湧いてくる。何か良くないことが起こりそうな予感。
「全く、せっかくユースティアナらが心安くあれると思った矢先に……面倒だな。」
「だが、私たちがやるしかないでしょう。」
「そう、だな……。」
もし、もしも最悪の事態が起こったとしたら…、自分はユースティアナや自分を慕う者たちを巣くうことができるのであろうか。
知り合いが増え、周りに受け入れられれば受け入れられるほどそういった不安が頭をもたげてくる。
ふと目に入った劇場のポスターに、魔王を題材にした劇のポスターが目に入った。
人々に忌み嫌われた忌子であるクロノス。その身に宿す大きすぎる力のせいで誰の理解も得られずにひとり孤独に生きている。
そんなある日世界に災厄が訪れる。
死の神ライデントートの復活だ。
人々は逃げまどい、ついに一人の青年が立ち向かった。
勇者と呼ばれたその青年はたった一人死の神に立ち向かったがその奮闘むなしく負けそうになった時、クロノスが現れ青年を助けるのだ。
だれもかれもが恐れて唯の一人も勇者である青年とともに戦うものはいなかったのに、人々に蔑まれ忌み虐げられてきたクロノスだけがその命を賭して勇者とともに死の神に立ち向かい、ついに勝利を収める。
しかし称賛を受けるのは勇者ばかりでだれもクロノスを褒めようとしない。
それでもクロノスは嬉しそうに笑って、またたった一人で生きていくのだ。
劇の中のクロノスは勇敢な男で、ライデントートが復活したときに迷わず立ち向かっていった。
果たして自分に同じことができるだろうか……。
例えば、人が我々ではどうしようもない武器を使用したとき、自分は迷わず命をささげられるだろうか。
きっと迷ってしまう。自分にはそんな勇気はない。
今回の亜人との協力だって、ユースティアナの為にやったにすぎない。
きっと自分はヒーローにはなれない。
いつだって逃げることを考えてしまう。
「クロノス?どうしたんですか?」
「……いや、なんでもない……。」
黙り込んだクロノスをハインリヒが訝し気に見つめる。
そしてその視線の先のポスターに気付いたようで納得したように頷いた。
「ああ、この話ですか……。最近魔王を題材にした作品が増えましたね。正直、私は好きじゃない。あなたなら、勇者の助けと言わずたった一人憎まれ役を買ってでも戦うでしょう?」
「……買いかぶりすぎだ。余はきっと逃げ出すよ。」
苦笑いを浮かべるクロノスにハインリヒは呆れた表情を浮かべる。
「すくなくともこの三年間私が一緒にやってきたクロノスという男はそういう男ですよ。」




