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12話

「そして神々にはそれぞれ特色がある。地水火風闇光の神々に作られたはそれぞれの魔法を得意とし、それぞれの特色に根差した土地に住みついた。言わずもがな真実の神に作られたおぬしは世界の真理につながっておるのでその目で真偽を見抜くことができるであろう?正義の神に作られた人間どもは、立場によって移ろう正義感と同じように、その性質も移ろいやすい。しかし、本質は純真な命の色である白と、移ろう正義の透明なので魔力は澄んでおり美しいものなのだ。」


そう言いながら、自分の膝の上に座るユースティアナをなでる。ユースティアナにとって神々の話は少々難しかったのかこてんと首をかしげてこちらを見上げてくる。

まさしく人間の本質ともいうべき白く澄んだ魔力が心地いい。


ユースティアナは幼いころから本来自分の庇護者である親から否定され続け、極度の自己否定に陥っている。望んでも満たされなかったユースティアナの心は他者を愛することで満たし、暴力や暴言に対する極度の恐怖が人を恨むことから遠ざけた。

人格が形成される前から蓄積されたそういった行動が、ユースティアナの魔力を本質のままにとどめたのだ。


クロノスはユースティアナの過去を憐れむ気持ちとともに自らの守るべき象徴である白い魔力を生み出したその奇跡のような偶然に顔が緩む。



「今の人の魔力が濁っているからと言って亜人の支配下に置くのを認められんのだ。たとえおぬしがどれだけ人を憎んでいようとな。」


その言葉にハインリヒは悔しそうに顔をゆがめる。

「そこに神々の意思があるならば、我々がどうにかできる問題ではないのでしょう……たとえそのせいで、亜人がどれほど搾取されようともっ!!」

真理につながれ意思をもち活動を始めるまでに長い時を要したとは言え、亜人最古の唯一種であるという自負から長年亜人を守るために戦い苦汁をなめてきたハインリヒにとってどれほどもどかしく耐えがたいことであろうが。

そのこぶしを指先が白くなるほどぎゅっと握りこんだ。


その様子にクロノスは腕の中のユースティアナを見ながら口を開いた。

「なぜ、余が亜人達と友好関係を築こうと思ったかわかるか……?」


訝し気な視線をこちらに向けてくるハインリヒに、クロノスは自嘲的な笑みを浮かべる。

「はじめ、魔族も人間も亜人も分け隔てなく生活していただろう。だがそれが崩れたことがある。人も亜人も魔族も入り乱れた戦争が起こった。」


「世界の三分の一を焦土に変えた世界大戦ですね……。もうこの大戦を覚えているものはほとんどいないでしょうが……ここアコルハイトも、この太守館も、危うく燃えてしまうところでした。」

じっとクロノスの言葉を聞いていたハインリヒが言葉を引き継いだ。当時のことを思い出しているのか、その顔は今までにないくらい真剣な表所を浮かべている。


「あの日まで、余は世界の均衡などどうせもいいと考え、自由気ままに生きておった…。ゆえに人の心に巣くう闇に気付けなかった。その結果があの大戦だ。」

悔いるように顔をしかめ俯くクロノスの顔にそっと細い指がふれる。


「クロ…、だいじょう、ぶ?」

心配そうに見上げるユースティアナにふっと表情を緩めると、頬に当たるユースティアナの手に自分のそれをそっと重ねる。

「……余は大丈夫だよ、ユースティアナ。…あのあと、余は後悔したのだ。余の怠慢で多くの命が失われたことにな。……その後に大魔王の復活と銘打たれ、神代に封印された世界最古の魔族が目を覚ましたことは?」

気持ちを切り替え真面目な顔でハインリヒを見やる。


「…ええ覚えていますよ。急に大陸中にいた魔族が東大陸に集まり……、魔王が、東大陸にいた亜人も人間も皆殺しにし、その後も世界各地で魔族による殺害や誘拐がおこった。」

一瞬ユースティアナを気にかけたがそれでも話を進めるためにハインリヒが答える。

「そうだ。さて、ここで問題だ。なぜ魔法も魔石も発達していないあの時代に魔族の悪評だけが広まったと思う?」

「…まさか、あれは魔族の自作自演だったとでもいうのですか!?」

ハインリヒの言葉にクロノスはほんの少し愉快さを顔に浮かべた。



「外に敵がおれば内では団結するであろう?」



にやりと不敵にわらうクロノスにハインリヒは溜息をついた。


「……それが私たち亜人と協力関係を築こうとする理由ですか…。なぜ、かつてとは違う方法を?」

こめかみをもみながらそうハインリヒが聞くと、クロノスは優し気な表情でユースティアナの頭をなでる。

「この子のためだよ。魔族が厭われたままではこの子が外の世界で生きにくい。……我が子を思ってより良い世界を築こうとするのは親として当然のことであろう?」



ユースティアナは途中からクロノスとハインリヒが何について話しているのかわからなかったが、それでもハインリヒがわからずとも聞くことが後のためになると言っていたので必死に耳を傾ける。

優し気に自分の頬や頭をなでてくれるクロノスはそれでもどこか寂し気で心配になる。

ふっと顔を見上げるといつも目を細めて微笑んでくれるその表情が好きなのだが、今日ばかりはそれがほんの少し悲しかった。



「それでは、どの情報を使うのかを考えねばなりませんね。神話の話は、舞台や本にして広めましょうか。魔族は世界の均衡を保つために存在していると広めればある程度反発は抑えられるでしょうね。あの魔王復活の話も世を憂いた魔族の自作自演だという物語にすればよいでしょう。」

話のとちゅうから目を輝かせ始めたハインリヒは興奮気味に何やら紙に書き留め始めた。


「ふむ、そろそろ話を詰めるか。ユースティアナよ、これからはもう少し難しい話になる。キキョウ達の所に行くといい。」

「…………ん。」

しょぼんとうつむきながら返事をするユースティアナにクロノスがそっと髪をとく。

「どうした?何かあるのか?」

優しい声で訪ねてくれるクロノスにきゅっと抱き着く。

「クロと、一緒にいちゃ……だめ?」

自分のおなかにもたれかかりそのまま見上げてくるユースティアナ。

「む、余は構わんが……、一緒にいてもつまらんぞ?」

苦笑いをしてそういうが、それでもなおクロノスにぎゅうっと引っ付いてくる。


「そのままでもよろしいのでは?将来あなたの意志を継いで魔族たちを引っ張る立場にあるのでしょう?それをユースティアナが望むのならば一緒にいさせてやればいい。」

ハインリヒの言葉に背中を押され、クロノスはユースティアナがそのままこの場所にとどまることを許した。



「では、具体的には学会で魔族の生誕に対する発表を行う。魔族と亜人との技術交流を行う。神話を本と舞台で世に広める。以上でよろしいですか?」

「うむ。異論はない。」

あれから数刻みっちり話し合ったハインリヒとクロノスは、上記の三点を行うことに決めた。

話し合いの間もユースティアナはわからないなりにもいつかクロノスの役に立つためにと、必死にその頭に刻み込んでいた。


「ふむ。ならばそのために必要な人材を呼び寄せるか…。どうだ?」

「ええ。今すぐ呼びましょう。人間側の動きと、実際この案がどれほどのスピードで広まるかがわかりませんからね。」

そういうとクロノスはすぐさま使い魔を飛ばし、ハインリヒは懐から何やら中で緑のものが蠢く石を取り出し、それに語り掛ける。


「ヴラフォス、ミネルバ。今後の亜人と魔族の件で話があります。」

そう言って空に投げると石が割れ、中に入っていた何かが風となり部屋を駆け抜けた。


「リッヒ。なに、それ?」

こてんと首をかしげるユースティアナにハインリヒは近づき懐から同じ石を取り出して見せてやる。


それは透明なクリスタルのような石で、中には吹き荒れる緑の風が詰まっているようにも見えた。

「これはペリステラと呼ばれる風の魔石です。微精霊のことは覚えていますか?」

「ん。小さな、魔力のつぶ…?」

「正解です。この石の中身はまさにその風の微精霊です。風の加護を受けた土地で、長い年月をかけ石ができる際にその土地にいる微精霊を一緒に石の中に閉じ込めたもので、前回お話しした魔法陣の代わりになります。」

そっとユースティアナの手の上にのせられたその石はキラキラと輝いている。


「魔族の使う使い魔と同じように魔法にも他者に言葉を伝える魔法はあります。しかしその魔力消費量は文章量や相手との距離によって大きく左右されるので容易には使えませんし、いちいち魔法陣を描いていては到底実用的ではありません。しかしその二つをカバーすることができるのがこの魔石です。自らの魔力を消費することもなく、魔法陣も描く必要もありません。……わかりますか?」

うかがうようなハインリヒの視線にこくりと頷く。

「なんと、なく…。」

「それでいいでしょう。記念にその魔石は差し上げます。」

そういうとユースティアナは嬉しそうに石を握りしめる。

「ありが、とう…!」

「よかったな、ユースティアナ。あとでアクセサリーに加工していつでも持てるようにしよう。魔石はただ持っているだけでもおぬしを守る盾になるであろう。」

「……うんっ!!」



機嫌がよさそうにペリステラを見つめるユースティアナにハインリヒは感心する。

正直神話の話も、その後のクロノスとの会話も、途中で放りだすのではないかと思っていたのだが…実際には最後までわからないなりに必死に理解しようとしていた。


「全く、なぜこのような人材が魔族側にわたってしまったのか……。」


向かいのソファでじゃれあう魔族と人間というちぐはぐな義親子を眺め、ぼそりとつぶやく。


今まで……欲にまみれた人間も、本能に忠実な魔族とも協力しようなどとは思わなかった。

それが今回の魔王の訪問と、この幼子との出会いで変わった。魔王が言う人の本質とやらと恐らく一番近いであろう幼子。どんなことにも礼をかかず、謙虚ながらに魔王のためだろうか知識に対しては貪欲。

これが亜人の子供なら間違いなく引き抜いていた。

それほど惜しい人材なのだ。


「さて、今回の協力が吉と出るか凶と出るか……見ものですね。」


亜人を守る妖精王として初めてかけるこの大きな賭けに思わず口の端が吊り上がる。

長い時を生きて久しぶりに味わう高揚感に柄にもなく喜びを感じる。



ああ本当に、



「なんて楽しいんでしょうね。」

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