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6話

「きれい……っっ!!」

シェンビスクの街を見てまずユースティアナがあげたのは感嘆の声だった。


夜だというのにシェンビスクの街は発光する植物と、宙を漂う光の珠によって明るく照らし出されている。

街路樹も道端の草花も薄く発光しているのだが、中でもくるんと先の丸まったゼンマイのような植物が一際強い光を放っており、地球の街灯のような役割をになっている。その植物は小さいものでもユースティアナの背丈ほどあり、その丸まった中心に光を発する珠がある。

ユースティアナが興味深そうにそれをつついてみるとまるで胞子のようにふわっと離れ、そのまま他の宙に浮かぶ珠と同じように空中を漂い始めた。

自然と調和するような質素ながらに洗練された白い建物たちにその光が仄かに映り、街全体が淡い色彩に包まれ、とても幻想的に見える。


「ユースティアナのお気に召したようで何よりですね。それでは、ようこそ。光と風の街、シェンビスクへ。…………初めての方はこうやって受け入れる決まりなのですよ。」

わざわざ街の入口でそう口上を述べたハインリヒは、柄ではないのか少し恥ずかしげについっとそっぽを向いてさっさと街に入っていってしまう。

ユースティアナ以外は来たことがあるのか特に何も言わずその後を追った。


街を行き交う人々は、褐色の肌を持つものもいれば獣の耳や翼を持つものなど多種多様であった。物珍しさからキョロキョロと視線をさまよわせるユースティアナを皆一様に微笑ましそうに見守る。

「ユースティアナ様、この街は光と風の加護を受けているんですよ。」

特に宙をふよふよと浮かぶ光の珠をじっと見つめるユースティアナに後ろに控えていたキキョウがそう喋りかけた。

「光りと、風?」

「そうですよー!!亜人の国ではそれぞれの土地に神様の加護が残る国なんですよ!!」

「ちょっとぉ、デイジー。魔王様に失礼でしょ?」

キキョウの説明を引き継いでずずいっとデイジーがクロノスの腕に抱えられたユースティアナを覗き込むと、ローズが後ろからそのデイジーの身体を引っ張った。

女も3人寄れば姦しいとはよく言ったもので、既に後ろでは自由奔放なサキュバスたちがキャッキャッとはしゃいでいる。


「まったく……。ハインリヒ様、クロノス様、私の教育が至らぬばかりにお見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ございません。」

額に手を当て深くため息を吐き謝罪するカプリコーンにクロノスは軽く手をあげ、ハインリヒは僅かに視線を送ることで返答とした。

意味を正しく汲み取ったカプリコーンは軽く一礼をし、姦しく騒ぐサキュバスたちと少し後ろに離れ従者の何たるかを永遠と語り始める。

ちらっと後ろを見たユースティアナはそのカプリコーンの演説めいた説教にサキュバスたちが徐々にしょんぼりとしていく様子をしばらく見つめ、会話に戻ってこないことを理解すると自分を抱えるクロノスに視線を向ける。


「?どうかしたのか?」

「ん。神様の加護って、なに……?」

ふむ、と顎に手を当てたクロノスは言葉を探すように視線をさまよわせる。

「おや、魔王が説明出来ないとは。では私が、」

「いや待て、ユースティアナは余に聞いてきたのだ。今整ったからおぬしの出番はない。」

前を歩いていたハインリヒがほんの少し歩くスピードを落とし横に並ぶと、クロノスがその言葉を遮った。


「亜人の国はな、大陸の中でも最も神代の色を色濃く残しておる。かつて神たちがこの土地に暮らしておった時の話でな、ユースティアナにとって魔王城のキッチンや鍛錬場がお気に入りの場所であるように、神にも自分の気に入った場所があったのだ。」

「うん。」

「ユースティアナも気に入った場所には何度も足を運ぶであろう?それと同じように神も気に入った場所に滞在し、そこに長くとどまることで神の魔力が土地に染み付くのだ。魔王城のキッチンにはユースティアナ用の椅子やらエプロンやらが常備されておるだろう?そんな感じだ。そのエプロンや椅子が魔力だと思えば良い。」

「ここは風と、光の神様の、お気に入りの場所?」

クロノスはこてんと首を傾げるユースティアナを優しく撫でて頷いた。

「そうして土地に残った神の魔力がその土地の環境に影響を及ぼし、他にない光景を作り出すことがある。その一例がこのシェンビスクだ。」


「付け加えるなら、」

横で一緒になって聞いていたハインリヒが説明を引き継ぐ。

「光の神の力がこの街の植物を発光させ、」

そう言うと仄かにきらめく街路樹の花を手折ってユースティアナの頭にすっと挿す。

「風の神の力がルスフェトの光珠ひかりだまをこの街の上空に留めています。」

ルスフェトというらしい光るゼンマイの珠を取り、ふわっと宙に投げその珠が宙を揺蕩う様を見せてやる。


「すごい……。」

キラキラと輝く瞳でその美しく幻想的な景色を見るユースティアナに、やはり連れてきて正解だったな、とクロノスは頬を緩ませた。

「……ユースティアナ、時間が許す限り亜人の国に滞在してはいかがです?他にも滝に囲まれた街や炎を内に宿す宝石が取れる街、1年中風の止まない街などきっと貴女にとって物珍しいものも多いでしょう。」

視線を合わせず前を向いたままハインリヒはそう言った。

「……そうだな、ハインツがそう言うなら甘えてもいいやもしれん。」

「…………だからハインツと呼ぶな。」

また地味にいがみ合う2人を交互に見て、きゅっと2人の服を引く。

「どうした?」

「どうしました?」

クロノスの優しげに緩められた瞳とハインリヒの冷たそうに見える澄んだ瞳を見つめる。

「ん。リッヒ、ありがとう。クロ、いろんな所、みたい……。」

遠慮がちに、それでいて恥ずかしげにそう告げるユースティアナの顔は、もう夜だというのに先ほどハインリヒが挿した光る花のおかげではっきりと見えた。

いじらしくも可愛らしい養い子の望みならば叶えてやらねばなるまいと、クロノスはすぐに先の予定を頭の中で調整し始めた。


「……ハインツよ。滞在を伸ばせるか?」

「…………私から言い出したことだ。伸ばさねばならんだろう。あと、ハインツと呼ぶな。」

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