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2話

ゆらゆらと揺れ動くエメラルドグリーンの水面が光を受けキラキラと輝き、透明度が高いおかげか海の底を泳ぐ色とりどりの魚たちも目視で確認できる。そんな美しい海岸線を臨むように赤青黄色のかわいらしい建物たちが立ち並び、普段そこの市場は人間の国や魔族の国の特産品などでにぎわっている。そう、普段は。

「魔族の長が何の用だ!!返答次第では貴様らへの攻撃も厭わんぞ!!!」

今しがた港から船で入港したクロノスたちをおそらくこの街の警備隊なのであろう、同じ赤い軍服のようなユニフォームを着た亜人たちに囲まれ武器を向けられている。

「クロノス様、先ぶれはお出しになられたのでしょう?」

「う、うむ。一週間ほど前に出したはずなのだが…。」

「な!何を話しているんだ!!!あまり怪しい行動をとるんじゃない!!!」

クロノスとともに来ていたカプリコーンは衛兵たちがあまりにもこちらに警戒してくるので思わずクロノスにそう聞いたのだがその発言すらとがめられた。この亜人の衛兵たちを倒すことは簡単だがあまり騒ぎを大きくしたくない魔王の意向で同行しているキキョウやデイジー、ローズも船の中で眠ってしまったユースティアナを抱えたまま動こうとしない。そもそもなぜこんなことになっているのかというと一週間前にさかのぼる。




「ユースティアナよ、一週間後に余はアシュクマイヤへ行かねばならぬのだがおぬしはどうする?」

夕飯時にクロノスが思い出したかのようにそういった。ユースティアナは給仕をしてくれているデイジーに取り分けてもらった肉をほおばりながらキョトンとした顔を向ける。もぐもぐと口を動かしほおばった肉を早く呑み込もうとするユースティアナにクロノスは苦笑いし、急がんでもいい、と言われたのでユースティアナはしっかり五十回きちんと噛んでから飲み込んだ。

「しかしクロノス様、ユースティアナ様はまだベルムトートの城下ですら見に行ったことがないのに先に異国のアシュクマイヤに行くのですか?」

「あしゅくまいや、亜人の国?」

「む?そうだ。勉強もしっかりできておるようだな。……余のいないところでユースティアナを街に出すくらいならば異国だろうと余の目の届くところにおいておいたほうが安心だ。」


勉強の成果がきちんと出ているユースティアナの頭をなでてやりながらカプリコーンの質問に答える。前回のレークォの件以降クロノスはことさらユースティアナに対して過保護になり極力自分のそばに置きたがった。視察や政務などでそばに置いておけない場合はカプリコーンかキキョウ達をそばにつけたが、それでも用が終わればすぐさま飛んでくる溺愛っぷり。


いまだにレークォの殺害成功の使い魔が飛んでこない以上あの欲深い女がどこかで虎視眈々とユースティアナの命を狙っている可能性もある以上世界最強の個体たる魔王クロノスのそばは世界で一番安全な場所であると言えるであろう。

「それで?ユースティアナはどうしたい?おぬしがここに残りたいのであればそれでも良いが、もしおぬしが望むであれば余とともに来ればよい。」

「行きたいっ!!クロたちと、一緒……!!」

食い気味で答えたユースティアナをその場にいた魔族たちはみな一様にほほえましそうに見守った。ここまでストレートに好意を示されて嫌な気分にはならず、むしろ自分たちもそれ以上に愛してやろうという気持ちさえも芽生えてくる。

「ならば妖精王に飛ばす先ぶれにもユースティアナについて書いておかねばならぬな…。カプリコーン。」

「かしこまりました。」

一言そう告げたカプリコーンは恭しく礼をし、妖精王への先ぶれの手紙の用意をするために下がった。


そこからの一週間はあわただしく、一時期ユースティアナの勉強は中断された。魔族からの正式な訪問となるのでユースティアナもいつもの簡素なワンピースというわけにはいかずわざわざ城にお針子を呼びつけ、普段着とパーティードレスを作ることになった。

「ご機嫌麗しゅう白珠姫様。本日はお会いできて大変嬉しゅうございます。」

白髪交じりのグレーの髪をひっつめた二本の角を持つ老齢の女魔族は恭しく腰を折り挨拶をする。

「あ、ユースティアナ、です。よろしく、お願いします。」

ぺこりと会釈をするユースティナに大変結構!と頭をなでるとぽかんとした表情のユースティアナを優しく見つめる。

「お話は伺っております。他者から与えられた心の傷はあなた様を憶病にも傲慢にも、時には非道にもしてしまうでしょうに…。まっすぐ育っていらっしゃるようで安心いたしました。」

さあさあさっそく測ってすぐに洋服を作りましょうと朗らかに笑う。今日初めて会ったものの、まるでクラスメイトの話に聞いたおばあちゃんのようなその魔族にユースティアナは心が温かくなるのを感じた。

そしてユースティアナはもはや魔王城では恒例となるある質問を女魔族にした。


「あの、お名前、なんですか?」

「はい?」

ユースティアナの衣装全般のおつきを務めてくれているローズは真剣な瞳で質問するユースティアナとその言葉に驚く女魔族を懐かしそうに、ユースティアナ様らしいわぁと眺めていた。

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