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幕間

その日妖精王は視察に訪れていた亜人の国最南端の都アシュクマイヤで北東の空を駆ける無数の光を目撃した。

その方向には魔族の国があり、まさしくクロノスがレークォ・キィの殺害命令を全魔族に飛ばした光景だった。クロノスの使い魔は魔王城を中心に放射線状にまるで流星群のように広がり非常に幻想的な光景なのだが妖精王はそれを鋭い目で睨みつけている。

「…まったく、あれの中心が魔都ではなかったら私も楽しめたんですがね。」

妖精王は忌々し気に空を眺めその端正な顔にしわを刻む。ただでさえ先日の魔王の来襲で亜人たちがおびえているというのにその上この騒ぎとなるとまた趣味の時間が減ってしまう。

近頃は人間による亜人の奴隷化運動が活発化しておりその対策に追われているというのにその上魔族の問題など頭が痛い。

「ねえねえ、ソフィーが飛んで見てこよっか?」

「俺も行くぜ。この鳥頭だけじゃ不安だしな。」

「あ、ひっどーい!!」

そう言って鳥の翼を持った少女は猫のような耳と尻尾を持つ青年をパタパタと叩く。

「っち!痛くねーけど腹立つっ!!喰うぞ鳥女!!」

ぎゃーぎゃー騒ぐ2人を見て妖精王は深いため息を吐いた。正直このふたりだけに調査を任せるのは非常に、ひっじょーに心配なのだ。しかし実力はふたりとも折り紙付きで、ソフィーはたとえそれが嵐の中であっても方向を見失わぬ天性の才能と強靭な翼がある。

そのソフィーと言い争っているキルロスも野を駆けさせれば右に出るものはおらず、100里を1里にするその走りは亜人の国のみならず世界最速と言っても過言ではない。どうしたものかと悩むも未だうるさく騒ぐふたりのせいで集中力が削がれる。

「……ふたりとも、騒ぐなら魔族の国で騒いできなさい。ただし、必ず情報は持ち帰ること。いいですね?」

「あいあいっ!」

「おう。」

ばさっと大鷲のような翼を広げたソフィーがその大きな足でキルロスの腕をその名の通り鷲掴みにし北東の空へと飛び立った。その姿は瞬く間に小さくなり次第に見えなくなってしまった。

「ああ、嫌な予感がする。これがただの予感で済んだらいいんですが……。」

妖精王はそう言って眉間に刻まれたシワをよりいっそう深めてそう呟いた。



「ね、ね、キルロス!さっきの光なんだったんだろーねぇー!!」

「あん?んなもん魔族の使い魔に決まってんだろばか。」

「あ!ばかって言ったほうがばかなんだよ!ばかキル!」

「じゃあてめーもばかじゃねーか、ばーか。」

魔族の国の最南端に位置する魔都ベルムトートのずぐそばに降り立ったソフィーとキルロスは相変わらず互いにくだらないことで言い争いをしているものの、その間自らの五感をフルに働かせて周囲を警戒している。

「おい、鳥女。」

「わかってるよー…。血の匂いだねぇ…。」

「……この匂いは…人だな。」

魔族の集まる都を避けるように西の海岸沿いを歩いていると潮の香りとともに人の血の匂いがする。最近の人による亜人奴隷の急激な増加のため人にいい感情を抱いていないキルロスは顔をしかめる。

「でもちょっとエルフの匂いもするよー?」

「あーん?……ハーフだな。しかもこの匂い、かなりの出血量だぞ。」

「キル、急ご!」

「わーってる!」

そう言うやいなやキルロスはソフィーの体を抱え匂いの濃いほうへと駆け抜けていった。



そのころレークォは魔王に吹き飛ばされた右腕を抱きしめ寒さと恐怖に震えていた。あの冷酷に笑う魔王のいる城から逃げ出した後、城を中心に八方にまるで蜘蛛の巣のように街が広がる魔都ベルムトートを抜けるまでの間、不気味なほど魔族の襲撃は受けなかった。しかしレークォがそばを通ると皆動きを止めじっとレークォを見つめ、レークォが遠ざかるとまるで何事もなかったかのように直前の動作に戻るのだ。

しかしそんな魔族の奇行のおかげで腕の応急処置ができ、少なくとも失血で死ぬことはなくなった。そこでレークォは案外魔王の影響力なんて強くないのだと安心したのもつかの間、魔都を抜け人間の国を目指し北上し始めた時、数多の魔族が魔都から街道からと様々な場所から一斉にレークォをめがけて襲い掛かってきたのだ。

そこでレークォは残った魔力を使い街道から大きく外れた西海岸に転移したのだが、それでも魔族はどこからレークォの居場所を探っているのか逃げても逃げても逃げても逃げても、ずっとレークォを追って襲い掛かってくる。休む暇もなく常に命を狙われる恐怖にレークォの精神は追い詰められ、もういっそのことこの切り立った崖から海に身を投げたほうが楽なんじゃないかとあきらめかけたその時。

「キル!!いたよぉ!!」

「わーってるっつーの!」

かすかに聞こえた人の声にびくりと身体が跳ね、ものすごいスピードで駆けてくる人影に視線を移して、レークォは今までとは違う意味で顔を青ざめさせる。

鷹のような翼をもつ緑の髪の少女と金の髪に所々茶色の髪が混じる猫のような耳を持つ青年。この二人は見たことがある、妖精王ハインリヒの腹心の獣人だ。

レークォがとっさに残った少ない魔力で顔の造形を作り変えた直後にその二人の獣人がレークォの目の前にとまった。

「キルやっぱ速いねぇー!」

「あん?あたりめーだろ。……で?てめぇ何でそんななりしてやがるんだ。」

血に濡れたネグリジェに肘から先を失った右腕。髪はほつれ絡まり、その儚げで美しい顔はやつれ疲れが見て取れる。その凄惨な姿にキルロスもソフィーも思わず顔をしかめる。

「うわわわっ!!すっごいけがだよ!?だいじょーぶ!?」

「っち…。匂いよりもひでーな。まじで何があったんだ?」

その優しく自分を心配する二人にレークォは、ああこの二人を利用すればいいのだと、ギラギラとその瞳に光を宿らせた。


「私の名前はローチスと申します。実は、魔王に奴隷にされていて逃げ出したの。私を……助けていただけませんか?」

これにて一章は終わりです。


それにしてもレークォさんしぶとい……

レークォの新しい名前のローチスは黒光りGの英語名からとってます。

うーん、しぶといっ!!

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