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23話

『キキョウ、余の代わりにユースティアナを風呂に入れてやれ。』

魔王様から使い魔が届き急いで風呂場に向かったキキョウはユースティアナの痛々しい姿を見て愕然とした。

「ユースティアナ様……これは。」

「…………。」

聞いても俯いたまま何も応えようとしないユースティアナにキキョウは心を痛めると同時に激しい憎悪の気持ちが湧き上がる。絶大な力を持ちながら平和を愛する我が主の為に不遜な態度を咎めずに生かしておいてやったというのに我ら魔族の至宝たるユースティアナ様になんという仕打ちかっ!!!!!

「ユースティアナ様。早く湯浴みを済ませてしまいましょうか。」

「……ん。」

きっとその体についた傷以上に心は傷ついているのだろう。安心させるように優しく微笑んで身を清めていく、その一方で城の魔族共すべてに使い魔を飛ばす。


『鈍色が白珠を傷つけた。』


その言葉は瞬く間に城内に広まり魔族たちは俄にざわつき始めた。ユースティアナはその白い魔力と愛らしい姿から密かに魔王の白い至宝、白珠の姫と呼ばれ城の者のみならず魔王クロノスを崇拝する市井の魔族たちからも慕われ愛されている。それを傷つけたものがいるとなれば黙って見過ごすわけには行かぬと皆が武器を取った。

「我らの白珠を穢すものは何人たりとも許しはしませんわ。」

欲深い人間には珍しい純白の魔力を持つ優しい少女。

愛情の色に染まることはあっても決して憎しみや恨みの色には染まらない綺麗な心を持つ新しい主。それを傷つけたんですもの、その身をもって償う覚悟はあるんでしょう?ねえ、レークォ様?



魔王城の一室、絢爛豪華な装飾品は真っ赤な血を被り月明かりを受け、てらてらと光っている。部屋の主であるレークォはついさっきクロノスによって吹き飛ばされた右腕をかばいつつ少しでも距離をとろうと窓際まで這って行く。

「なあキィよ。余の、魔族の宝を傷つけてよもや平穏無事に暮らせると思うておったのか?」

「ちが、違いますわ。」

今まで一度も見たことのない魔王クロノスの静かに燃える怒りにレークォは身体を震わせる。光を宿さないクロノスの瞳に心臓を鷲掴みにされたような心地に陥り息も次第に苦しくなっていく。

暑くもないのに汗が滲み出てき手足の末端からじわじと感覚がなくなっていく。意識のすべてが目の前の美しくも恐ろしい男に捕らわれていたのだがふと耳にざわめきが入ってきた。

助かる、誰かがこの惨状をきっと止めてくれると僅かに希望を抱いたレークォにクロノスはふっと笑った。冷たく残酷な笑のなんと美しいことか、その感情を伴わない微笑にレークォは思わずゴクリと唾を飲み込み凝視する。

「このざわめきが何かわかっておらぬでおろう?」

「な、ん。」

「キキョウはのユースティアナを一等大切に思っておる。そんなキキョウがおぬしにつけられたあの子の傷を見て何もせぬはずがないだろうに。直におぬしを殺すために城中の魔族がこのに来るであろうな。」

「あ、や……たすけ、」

レークォは引き攣る喉を必死に震わせ許しを乞う。

「おぬしが余の魔法に抵抗せねばもっと楽に死ねたのにな。余は優しいからな、おぬしの末端からじわじわと殺してやろうと思うたのに。生きながらに自分の身体が徐々に死んでいくのを感じるのは確かに恐ろしいかもしれんが痛みは無かったというのにな。お主が望むならこの場ですぐに殺してやっても良い、が、」

そう言うとレークォがその身を預けていたバルコニーの扉を魔法で開けてやるとそこに身を預けていたレークォはそのまま後ろに倒れ込み身体を床に打ち付ける。

その途端まるで金縛りが解けたように今の今までピクリとも動かなかった体が動くようになったのだ。

「優しいユースティアナはな、自分のために余が他者を殺すのを厭う。そこで余興だレークォ・キィ、余とゲームをしよう。余は今からこの城だけではなく世界に存在する全ての魔族に使い魔で白珠を傷つけた鈍色を殺せと遣いを出し、おぬしは殺されぬよう逃げる。おぬしが天寿を全うできればおぬしの勝ち。途中で死ねば余の勝ちだ。せいぜい死ぬその時まで恐怖の中で息絶えろ。」

その言葉にとっさに魔法で髪と顔の造形を変え、すでに死んで動かない手足を必死にを引きずりながら無様に逃げようとするレークォをクロノスは嘲笑う。

「姿を取り繕っても無駄だぞ。我ら魔族はおぬしの薄汚れた鈍色の魔力が見えるからな。せめて余を楽しませるくらいには生き残ってみせよ。」


その夜この世に存在する魔族たちは実に数百年ぶりとなる魔王クロノスの言葉を聞くことになる。もちろん若い魔族たちにとって初めての出来事は俄に魔族たちをざわつかせた。


『鈍色の魔力を持つ人とエルフの間の子が白珠の姫を傷つけた。方法は問わん、殺せ。』


魔王城を中心に四方八方へと飛ぶ使い魔を確認した後クロノスは自らの私室に戻った。そして既に寝台で眠るユースティアナを見やり自分の不甲斐なさを呪う。

何が父親だ、何が魔王だ。ユースティアナの頬に走る既に乾いた涙のあとをそっとなぞり、悔しげに顔を歪める。必ず守ると決めたこの人間の幼子の心の一つも守れずに何が世界最強だっ!!!

「クロ……。」

気配を察したのかユースティアナが寝言でクロノスの名を呼び、何かを耐えるように眉を潜めていた顔をふっと緩ませ微笑む。

「ユースティアナ。二度と、おぬしを傷つけさせはせん……。」

そう言ってクロノスはユースティアナを起こさないようにそっと寝台に滑り込みユースティアナの身体を抱き寄せた。

白珠=真珠です

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