22話
「ユースティアナさん。ちょっといいかしらぁ?」
「……はぃ。」
あの日からもう一月たったが、レークォはたびたびユースティアナを呼び出していた。
レークォの性格を知る者たちはみなユースティアナに無理をする必要はないと言ってくれるのだが、長年染みついた習慣ともいえるのか、ユースティアナは母によく似たレークォに反抗することができないでいた。
「ねえ、ユースティアナさん。あなたからも魔王様に言ってくれないかしらぁ。わたくしを魔王妃にするようにって。」
魔王城の庭園にあるガボゼでレークォと2人、お茶を飲んでいると唐突にレークォがそう切り出した。
「あ、でも…。」
「はっきりしなさいよ。」
「ぃうっ!」
ユースティアナが口ごもっていると机の下で足をけり上げられる。
「わたくしがうじうじしたの嫌いってしってるでしょぉ?第一、これはお願いじゃなくて命令よ。」
少し離れたところでこちらを心配そうに見るキキョウやローズたちにバレないように美しい表情は繕ったままレークォは憎悪を宿した瞳で冷たくユースティアナを見る。レークォは2人で会うたびに他人からは見られない服に隠れた部分を抓ったり蹴ったりしてきた。きっと自分に甘いクロノスは自分がレークォを義母にと望めば叶えるだろう、そうしたらきっとこんな風に虐められることもなくなる。わかっていても自分の大好きなクロノスに他の子をお嫁さんにして欲しいなんて言いたくないという幼い独占欲とクロノスに対する思慕の念が口を噤ませる。密かな幼子の拒絶にレークォはイライラを募らせていた。優しく言ってもだめ、命令してもだめ、ならばもう後は痛みを持って教え込むしかないと抓ったり蹴ったりしてみてもだめ。まだあざがつく程度の暴力で済ませてやっているがこのまま言うことを聞かないなら身体を欠損させることも考えばければならない。
「っいたいっ!!!」
ユースティアナの太ももに手を伸ばしその尖った爪で抓る。
「ねえユースティアナさん?わたくしが優しくお願いしている内に聞かないと、酷いわよぉ?今日は許して差し上げますけど、次わたくしが来る時までにきちんと魔王様に言っておいてね?」
そう言うとレークォはユースティアナをガボゼに残したまま自分だけさっさと帰っていった。
この世界にはあまり風呂文化が浸透していないので日本のように毎日入ることはないのだが、ユースティアナが来てからというもの風呂好きの彼女のためにクロノスは2、3日に1度は一緒に風呂に入るように心がけているのだが……。
「ユースティアナ、今日も風呂に入らぬのか?」
「……はいら、ない。」
「だ、だがもう10日以上入っていないだろう。」
「…………や。」
あの倒れた日からユースティアナはクロノスと微妙に距離をとるようになり、クロノスはひとり理由もわからず戸惑っていた。
「しかしだな、風呂に入らねば汚れが取れぬであろう。」
この世界は元の世界と構造が違うのか四季による気温の変化がほとんどなく、魔王城のあるあたりは暑くもなく寒くもないという好立地なのだがそれでも何日も体を清めなければ汚れはたまる。正直身体中気持ち悪いがお風呂に入ってしまえばきっと体についたあざの理由を聞かれるだろう。そのあざの理由を話せばきっとクロは悲しむ、自分が黙っていれば済む話なのだ。母の時がそうであったように自分が我慢さえすれば済む話なのだと見に染み付いた習慣は中々抜けない。しかしそんなユースティアナの気持ちを知らないクロノスはこれが噂に聞く反抗期かと気分が沈む。
「ユースティアナ、余が、余が嫌いになったか……?」
「ちがうっ!!!」
食い気味に否定されたことにほんの少し気持ちを持ち直したクロノスはユースティアナを自分と向き合う形で自分の膝に乗せた。
「ユースティアナ、余はおぬしの嫌がることはせんがそれがおぬしの健康に関わることなら話は別だ。きちんと理由が話せぬなら風呂に入れる。」
そう口ではいいながら決して無理やり入れようとしないクロノスはユースティアナが口を噤めば噤むほど悲しそうに眉尻を下げる。ついにユースティアナはその表情に負けお風呂に入ることを了承した。
はいばんざーいと言われ腕を上げると手馴れた様子でクロノスはユースティアナの服を脱がす。そしてその身体を見た瞬間思わず動きを止めた。
「ユースティアナ、何時からだ。」
服に隠れた場所につく無数の虐待の跡……。この幼子はまさかこれをずっと隠していたのか?
「誰にやられた。」
俯き小さく震えるユースティアナ。誰がやったかなんて分かりきったことだがそれでも聞かずにはいられなかった。
「……ユースティアナ。すまぬ、用事ができた。今宵はキキョウたちと風呂に入れ。」
素早くキキョウたちを呼び出したクロノスは自分の娘をこんな目に遭わせた原因を塵一つ残さずなくす為に風呂場を後にした。
次回予告
魔王様激おこ。




