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19話

鋭くこちらを睨む母のように高圧的なその女性にユースティアナは声にならない声しか出せない。かつて母に虐げられてきた記憶が見えない鎖となりユースティアナの体を縛り、声を奪い、思考能力を低下させる。一度幸せを知ったユースティアナの体が脳がつらい記憶を必死に否定する。しかしレークォはそんなユースティアナの態度を決して許さなかった。

「ちょっとぉ!わたくしが質問してるのよぉ?さっさと答えなさい。魔王様の養女になった分不相応なクソガキを知ってるのぉ!?」

「ひぅっ!あ、ぅ、し、………知って、ます…。」

自分がその子供だと知られれば何をされるかわからない、だがここで嘘をつけばバレた時にどんなひどいことをされるか考えたくもない。気づいたときには知っていると返事をしてしまっていた。

「ふーん…?どんなやつなのぉ?」

途端に不機嫌そうな顔でこちらを見てくるレークォにびくりと身体が跳ねる。ここで自分だと言うのか、言えるわけがない。次から次へと頭の中にあの地獄のような日々が繰り返される。次第に顔から血の気が引き目の前が暗くなっていき、息も早く浅くなっていく。

「…ロ、…。」

「はぁ?なんて?」

「ク、ロ……。たす、たすけ…。」

ついに耐えきれなくなったユースティアナが床に蹲ったまま自らの体を抱きしめてがくがくと震える。

「は?ちょ、ちょっと!!あんた、何なのよっ!!?」

レークォの焦る声ももうユースティアナには聞こえていない。耳の中でガンガンと母親の自分を叱責する声が鳴り響きついに目の前が真っ暗になり倒れこんだ。


「ちょ、ちょっとぉ!!ほんとに何なのよぉ!!!」

これに焦ったのはその場に居合わせたレークォだった。すくなくとも魔王城に逗留を認められているということは、あの噂の養女ではないにしろそれに近しいものである可能性が高い。そんな子供を気絶させたとなると今まで魔王や宰相に媚びを売ってきた意味がない。

「ッチ!このクソガキ、わたくしにこんなことさせるなんて覚えてなさいよっ!!」

仕方がないと抱き上げようにもレークォの細い腕では子供にしては軽いユースティアナの体を持ち上げることも一苦労なので仕方なく魔法で持ち上げ城の医療室に連れていく。

「ちょっとぉ。そこの廊下でこんなの拾ったんだけどぉ。」

面倒くさそうな態度を崩さずに声をかけるとこちらを見た老齢の医務官の顔色がまたたくまに青ざめていく。

「ゆ、ユースティアナ様!!?レークォ様!!これはいったいどういうことじゃ!!」

「はぁ?どうもこうも、この子供が急に倒れて、」

「なっ!ウェブスター!!すぐにカプリコーン様か魔王様をお呼びするのじゃ!!」

「は、はい。クライル様!!」

ウェブスターと呼ばれた鱗を持つ魔族はその生まれ持った身体能力を活かしものすごいスピードで医務室を後にし、クライルとよばれた老齢の医務官はレークォからユースティアナを受け取るとすぐさま診察を始める。

「ち、ちょっとぉ。なんでそいつのために魔王様とカプリコーン?っていう人を呼ぶのぉ?」

困惑するレークォに目もくれずクライルは的確に診察を進めながら片手間に答える。

「なんじゃ?しって一緒に居ったんじゃないのか。ユースティアナ様はあの魔王様の養女様じゃよ。」

「はぁ!!?」

「ああ、カプリコーン様は宰相の山羊頭様の名前じゃ。少々前に魔王様が名付けられたのじゃ。それもこれもユースティアナ様のおかげじゃがなー。」

ほけほけと笑うクライルの言葉に驚いたのはレークォだ。あの他人に興味を持たない魔王様がまさか数万年ずっと名づけをしてこなかった宰相に名前を付けたなど信じられなかったのだ。魔王がダメならせめて宰相をと狙ていたレークォはクライルがユースティアナの処置にかかりっきりになっているのをいいことにその表情を醜くゆがめる。

このわたくしが、あの二人を手に入れたときに名付けようと思っていたのにこのクソガキは魔王様のみならず宰相まで私から奪うというのか!!?!?許さない…許さない、許さない、許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない、許さないっっっ!!!!!!!!!!

レークォの苛烈なまでのクロノスとカプリコーンに対するその思いは形を変えてユースティアナへと向けられることになる。


「ユースティアナ様!!!」

ばたんとけたたましい音を立てて医務室に入ってきたのはあの山羊頭の宰相、カプリコーンだった。

「クライル!!ユースティアナ様のご容態は!!?!?」

「落ち着きなされカプリコーン様。魔王様はどうなさったのじゃ?」

「クロノス様は今日は遠方に視察に出ておられます。先ほど使い魔を飛ばしたので数刻のうちに帰ってこられるでしょう。」

クロノス?今この宰相は魔王様のことをクロノスと呼ばなかったか?ふつふつと怒りがこみ上げそれはどろどろのマグマのような醜い嫉妬となりレークォの腹の底にたまり始めた。

「ところで、なぜここにレークォ嬢がいらっしゃるので?」

「わ、わたくしがここまで運んできましたのよ。」

「そう、でしたか。ありがとうございます。クロノス様に代わりまず私からお礼申し上げます。」

深々と腰を折りお辞儀をするカプリコーンにふとレークォの中に悪い考えが芽生える。


ああ、この妖艶で美しい魔族たちに取り入るためにこのクソガキをつかえばいいんだ、と。

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