1話
部下の山羊頭に飛ばされた魔王は魔法陣の光が収まったのを感じ、眩しさに閉じていた目を開けた。
「む?ここは、広場か…?」
目を開けたそこにはいくつかの金属でできたカラフルなオブジェクトが置いてあった。そして幼い人間の子供がそれを使い遊んでいる。
ある者は箱のフレーム部分のみをいくつも積み上げたような山に上り、ある者は階段と坂が一体になったようなものを繰り返し滑っていたり、またある者は長い板の中心を支点に二人組で上下運動している。
「ふむ…。この世界の子供向けの遊び場、というわけだな?」
ふと、こちらに来る前に山羊頭が言っていた言葉が頭によぎる。
ここが異世界なのであれば自分を魔王と恐れるものはいないのではないだろうか?となれば養子を探すことも夢ではない。
それによく子供を見てみると、顔の堀こそ浅いものの髪は自分と同じ黒い色をしている。前の世界では黒い髪というだけで魔王とばれ、闇の化身だと蔑まれた。しかしこの世界では、自分と同じ赤い瞳のものはいないものの、この髪のせいで逃げられることはない。
さて、誰を養子に勧誘しようかと遊び場で遊ぶ子供を吟味する。
「おっちゃん、何やってんの?」
ふいにそばにいる子供に声をかけられる。短く刈り上げた頭によれよれのシャツと半ズボン。
「ふむ。余の子となるにはいささか品格が足りぬが、まあ良い。余の子となるものを探しておるのだ。」
「ふーん?なんでそんな変な服きてんの?」
「へん、だと…?」
その日の魔王の格好はドラゴンの鱗でできた足鎧で隠れた黒い細身のパンツ、ノースリーブの詰襟はぴったりと上半身に張り付いており、魔王の筋肉質な肉体を強調している。裾は太ももの中程辺りまであるものの、へその少し上まで入ったスリットによって動きは制限されていない。さらに、世にも珍しい二頭氷狼の毛皮を襟にあしらった光沢のある漆黒のマント。言うまでもないがどの装飾もすべて一級品であり、妖精王も、ましてや人間王などには到底揃えられぬものだ。
変な服と言われて少し自尊心の傷ついた魔王はありのままを少年に語ったのだが、
「おっちゃんそんな歳になってもまだドラゴンとか信じてんの?だっせー。」
そういって走り去っていった。大丈夫だ、泣いてない…。
その後もめぼしい子供に目をつけて話しかけるのだが、
「母さんが知らない人と話しちゃダメって言ってたから!」
そう言って走り去っていく子供の背を何度も見送った。なるほど教育がよく行き届いている。
しかし、この世界の子供はみなこのように教えられているのだろうか?だとしたらいささか面倒くさいな。
すると少し離れた女たちからひそひそと話す声とこちらをうかがう気配がする。
「何あの格好。変な人。」
「今はやりのコスプレかしら…?なんでこんなところに…。」
こすぷれとやらが何かはわからぬがいい話ではなさそうだ。
それよりこの格好はそんなにひどいのか?ほんの少しめげそうになる。
その後もちょくちょくチャレンジするが一向に成果はない。しまいには、
「おぬし、なかなかいい目をしておるな。どうだ、余の息子にならぬか?」
「ちょっと!私の息子に何するんですか!近づかないで!!」
そういって母親が連れて行ってしまいさらに、
「ちょっとお兄さん、お話しいいかな?」
青い服をきたケイサツとやらに声をかけられた。
その後名前を聞かれたので、名前がないことや、職務を聞かれ魔王だと答えていると心底かわいそうなものを見るような目をされ、
「お兄さん…何があったかは知らないけど気を確かに持ちなよ…。」
そういってベンチに共に座り、缶に入った苦い飲み物を一緒に飲んだ。正直亜人と人間の国で心は傷ついていたのでうるっときてしまった。このケイサツとやらは随分優しい。
とりあえず子供に声をかけるのは止めたほうがよさそうだと思い、おとなしく遊び場から離れ、奥まった人気のない場所に生えている木の根元に膝を抱えて座り、休息をとる。
魔族なので食物を摂取する必要はないが、一人でいるのはいささか寂しい。
抱えた膝に顔を埋めて寂しさをやり過ごそうとしたその時。
「おにいさん…なに、してるの?」
高い小さな声でそう呼ばれ視線を上げると、そこには薄汚れた格好をした幼女がたっていた。
幼女ちゃん登場!