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16話

チェフの一言から始まった魔界でのお菓子作り。

「で?ユースティアナ嬢はなんか作りたいもんでもあるのかい?」

「お菓子…わから、ない…。」

「そりゃ、普段作ってへんかったらわからんわなー。」

クスクスとわらいながらカトラがユースティアナ用のエプロンをもってくる。

「カトラ、ありがと…。」

「はい、どーいたしましてー。」

カトラの持ってきたエプロンは青を基調としたかわいらしい子供用のエプロンで、ふんだんにレースやリボンがあしらわれている。しかしそれを広げてみて驚いたのはユースティアナだ。

「カトラ!これ、こんなきれいなの、汚しちゃう…。」

日本にいたときはぼろのTシャツ一枚だったのが最近ではクロノスがあれやこれやと服も買い与えてくれているので普段着はようやく遠慮なく着るようになったが、それでも白を基調としたシンプルなワンピースばかりだ。それなのにエプロンでこんなかわいいものを着ても良いのだろうかとどうしても遠慮が勝ってしまう。

「ええんよー。ぼくが趣味で作ってるやつやし、それにユースティアナ様はもうちょいかわいい恰好してっもええと思うよ。」

ホブゴブリン一のイケメンと名高いカトラは優し気に顔を緩めてエプロンを握るユースティアナの小さな手を包み込む。

「たぶん魔王様も思っとることやと思うけど、ユースティアナ様はもうちょい我儘になってもいいと思うよ。」

「確かにな!お嬢は人間にしてはちいせーし、子供にしたらおとなしすぎるぞ。もう少したべものとかも好みを言ってくれりゃー俺らも作り甲斐があるってもんだ。」

「そう、なの…?迷惑じゃ、ない?」

根本的に甘やかされることに慣れていないユースティアナに思わずカトラもチェフも頬が緩む。

「迷惑じゃねーからもっと俺らにも我儘言ってくれよ。」

「そうそう。もちろん魔王様にもほかの人らにもなー。」

「うん。がんば、る…!」

「甘えるんに頑張らんでもええんやけどなー。」

手で力こぶを作り宣言するユースティアナに思わずカトラもチェフも苦笑いする。

「とりあえず、簡単なクッキーでも作るか?」

「そうやね。」


あのあと結局カトラからもらったエプロンを着てクッキーを作った。実際に焼いたり混ぜたりしたのはチェフとカトラなのだが、ユースティアナも粉をふるったり型を抜いたりといった簡単な作業を手伝った。

「クロ、喜んでくれる、かな…?」

出来上がったクッキーの入ったバスケットを大事そうにきゅっと抱きしめたユースティアナがほんのり頬をピンクに染めそうつぶやいた。

「おう!魔王様なら喜んでくれるさ!」

「自身持ちやー!」

「う、ん…っ!チェフさん、カトラ、ありがとっ!」

ぶんぶんと手を振ってクッキーをクロノスに渡すために走り去っていった。

「かわいいな…。」

「かわえーなー。」

やはり思ことは一緒なのである。誰に対しても態度を変えず素直に好意を示してくれる割に、他人から好意を受けることに慣れていない幼く控えめな少女を可愛がらずにはいられないのである。


ぱたぱたと走ってやっとの思いでクロノスの執務室につく。乱れた息を軽く整え扉をノックする。

こんこんと軽い音が響いて思わずクロノスもカプリコーンも頬を緩めた。

「入れ。」

言葉だけ聞けばそっけなく聞こえるが、そう言った声は普段よりも多分に糖分を含んだ優しく甘い声だった。

「失礼、します!」

元気よくそう言って入室してきたのは、いつもの白いワンピースにいつもと違いフリフリの青いエプロンを着たユースティアナだった。手に持ったバスケットを両手で抱えなおしてトコトコと近寄ってくる。

「これ、クロとカプリコーンに、作ったの。」

「おや、ありがとうございます。これは…ほぉ、クッキーですか。」

バスケットを受け取ったカプリコーンはバスケットの中身を確認して感嘆の声をもらす。

「む?…これは、よくできておるな。ユースティアナが作ったのか?」

バスケット覗き込んだクロノスも感心したようにつぶやいてひとつつまみ上げて食べてみる。

「うむ、うまくできておるな。うまいぞ、ありがとうユースティアナ。」

こちらをうかがうように見上げてくるユースティアナに視線を合わせるようにしゃがんでその頭を優しく撫でてやる。

「クロ、カプリコーン、お仕事、がんばって…?」

褒められたことがうれしいのかいつもより機嫌よさそうにこてんと首をかしげてそういってからまたぱたぱたと部屋を出ていく。

「しつれい、しましたっ!」

でもちゃんと退室のあいさつを忘れないユースティアナをほほえましそうに見つめる二人。

「かわいらしいですねぇ。」

「そうであろう?ユースティアナは今まであったものの中でも一等愛らしいのだ。」

二人でバスケットに入ったクッキーを食べ英気を養ってから、また山のように積みあがった書類と格闘するのだった。しかしその顔に疲れの色は見えず、しっかりユースティアナにいやされたのは一目瞭然であった。

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