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15話

名づけの儀のあと、結局魔族たちは十日ほど酒を飲み踊り歌いそして騒いだ。

さらに一週間ほどは互いが互いの名前を紹介しあう魔族が続出し、ようやく通常業務に戻ったのはそれからだった。

主にカプリコーンの浮かれ具合がひどく、たいていの仕事はカプリコーンがチェックをし魔王に最終確認をとるという流れなのだが、名づけの儀の期間も含め約二週間分の仕事がたまっているためクロノスは朝から晩まで忙しくしていた。

「ところでクロノス様、何故ユースティアナ様を膝に抱えられておられるのですか?」

その言葉の通りクロノスは自らの執務机に向き合いながら右手で書類を処理し、左手でユースティアナを自分の膝の上に抱えていたのだ。

「ユースティアナ様に構っていただきたい気持ちはわかりますが、執務の間くらいは執務に集中なさいませ。」

カプリコーンはいつもの山羊の頭蓋の下で大きくため息をついた。

「何を言う、カプリコーン。ユースティアナには将来余の考えを継いでもらわねばならぬ。これはそのために必要なことだよ。」

「嘘おっしゃい。どう見たってユースティアナ様とくっついていたいだけでありましょう。」

「な、なぜそのような世迷言を。」

「何が世迷言でございますか。事実ユースティアナ様は退屈でお眠りになられているではありませんか。」

そう、ユースティアナは現在よもや自分のことで言い争っているなどつゆ知らずすやすやと眠っているのだ。

「ユースティアナ様も今後クロノス様の考えを継いでゆくと申されるなら小さい今のうちから城の魔族になれるべきでしょう。」

クロノスはそれに何も言い返せずにカプリコーンの勝利に終わった。そしてすやすや眠るユースティアナに申し訳ないと思いつつ起こしてやり城の探索を提案してみた。クロノスは、いやだ、クロのそばがいい!くらい言ってくれないものかとほのかに期待したのだが、

「ん。行き、たいっ!」

キラキラした顔でこういわれてしまっては止めることもできず何とも言えない顔で見送ることになった。


まずユースティアナが出会ったのはローズ、デイジー、キキョウの三人組だ。

「あら?今日はおひとりなの?」

「めずらしいねぇ!」

豊満なボディのローズに抱きあげられデイジーによってほっぺをぷにぷにされる。

ユースティアナがあうあう言っているとキキョウが二人からユースティアナを取り上げ救出するところまでがいつものお約束だ。

「それにしても、本当に珍しいですね。魔王様とカプリコーン様はいらっしゃらないのですか?」

「ん。クロも、カプリコーンも、お仕事。」

「さようでございましたか。ユースティアナ様は今からどちらに?」

「キッチン。お茶と、お菓子…持っていくの。」

少し照れたように下を向き手をいじる様子が幼子らしくとてもかわいらしい。

ローズもデイジーもキキョウもほっこりとし、ほほえましいものを見るようにユースティアナのいじらしい姿を見つめる。

「さようでございますか。今日はチェフさんがキッチンにいらっしゃいますよ。」

「っ!わかった!ありが、とう…っ!」

その言葉を聞くや否やキッチンに走って行ってしまうわれらが主の養い子。

「かわいいわー。」

「かっわいいなー!」

「かわいらしいですねえ。」

言い方は三者三様、しかし思うことは同じであった。


ユースティアナの幼い足で一生懸命走ってたどり着いた城のキッチン。

一部の種類や若い魔族を除き人間や亜人のように毎日食事をとり栄養を補給する必要のない魔族にとって食事とは最高の娯楽である。その中でも魔王城に集うコックやシェフは一流も一流、超一流といえるようなものばかりであった。数いるシェフの中でも特にお菓子作りに並々ならぬ情熱を持つ料理長のオーガは名をチェフといい、そのいかつい顔や筋骨隆々のたくましいからだとは裏腹にとても繊細で美しいお菓子を生み出す。ユースティアナの好きな魔族の一人でもある。

彼はいつもユースティアナのためにお菓子を作ってくれたり料理も主であるはずのクロノスの好みよりユースティアナの好みによせて作ってくれるのだ。もっとも料理はクロノスからユースティアナのために作ってやれとお達しがあったのも理由の一つなのだが。

「チェフ、さん!来たよ…っ!」

キッチンの大きな扉を全身を使い開けると、そこには真っ赤な体がトレードマークのチェフが緑の肌をもつホブゴブリンのカトラと何かを真剣に話し合っていた。

「なんや、ユースティアナ様やん。どないしたん?」

先にこちらに気付いたのはカトラだった。彼は銀の長い髪を後ろで一つに束ねており、とろんと垂れた瞳はいつも優しげに細められている。

「む?おおっ!ユースティアナ嬢じゃねーか!」

ついでこちらに気付いたチェフも声をあげて向かい入れてくれる。

「今日はどうしたんだ?ん?」

チェフがひょいとユースティアナを持ち上げ椅子に座らせ、カトラがクッキーと紅茶を持ってくる。

「クロと、カプリコーンにね、お菓子とお茶、持っていきたい…!」

「あー名づけの儀の後、忙しいってゆーてはったからなー。」

しゃべり方もおっとりしているカトラの話にチェフはなるほどとうなずきしばらく考え、いい考えが思いついたといわんばかりの表情で、

「なら、今日の魔王様とカプリコーン様へのおやつはユースティアナ嬢が作ってみるか?」

そうユースティアナに聞いたのだった。

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