10話
「ユースティアナ、うまいか?」
「おい、しいっ!!」
カラフルな頭のサキュバスメイドたちが運んできた食事を一生懸命口に運ぶユースティアナ。
始めはこんなに食べてもいいのかとか、こんなおいしそうなものを食べるのは、など困惑していたが、クロノス手ずから食べさせてやるうちに自分でも食べ始めた。
「いやーん。すっごくかわいいわー!!」
もきゅもきゅと必死に口を動かすユースティアナは確かにかわいい。そしてそれに対し豊満なボディをくねくねとくねらせるのは、魔王城で赤のサキュバスと呼ばれる妙齢の女だ。
「確かにかわいいね!あんのことやこんなこといーっぱい教えてあげたいなー!」
こう言うのは橙のサキュバスと呼ばれるキャロットオレンジの髪を持つ女で、赤とは違いスレンダーで、その長い手足を惜しげもなくさらけ出している。短く切りそろえられた髪も彼女の溌溂とした雰囲気にあっている。少々発言が自由すぎるのがたまに傷だ。
そんな橙のサキュバスから庇うようにクロノスがユースティアナを抱き上げ、自分の膝の上に座らせる。
「あれ、魔王様に抱き上げられちゃった。」
そういいながらユースティアナのぷにぷにのほっぺに触れようと近寄ってくる。
一瞬びくっとユースティアナの体が震えたのを見逃さなかったクロノスはぎゅっとユースティアナを抱き込みサキュバスたちから隠してしまう。
「おぬしら、ユースティアナが怖がるであろう。もう少し分をわきまえよ。」
「も、申し訳ございません。魔王様。」
ほんの少し威圧する気持ちを込めてにらんでやればかわいそうなほど怯えてしまう。こういう些細なところでどれだけ加減をしてもほかの魔族と対等にはなれぬのだとクロノスにしらしめるようだ。
「ユースティアナ様。申し訳ございません。この者たちは私のほうからよく言って聞かせますので、どうか食事を続けてくださいませ。」
そういったのは紫の髪を持つサキュバスだ。おっとりとした雰囲気を持つやさしげなサキュバスは、性にも自由にも奔放な他のサキュバスとは打って変わってまじめでふしだらなことを嫌う節がある。
もっともそのせいでサキュバスとしての魔力量が足りず常に貧血のような状態なのだが、紫はそれでもかたくなに性を搾取しようとしないのだ。
「あ、の…ありが、とう……。」
クロノスの懐から顔を出したユースティアナは恥ずかしそうに視線をさまよわせてそう言った。
「いいのよ。魔王様の養女になられたのでしょう?なら私たちの主のようなものだもの。」
赤が嬉しそうに笑う。
「そうそう!奥方様がいない以上私たちの上司はユースティアナ様だもん!」
橙も元気よくそう答えた。紫は仕方なさそうにため息をついてユースティアナに向き直った。
「もう数百年も待ち望んだ魔王様の意思を継ぐ方ですもの。われわれのことはお好きに呼び、お好きにお使いくださいませ。それがわれら魔王様に仕える者どもの喜びです。」
しかしそういわれてしっくりこないのがユースティアナだ。今まで母に使われることはあっても誰かに仕えてもらった記憶などないのだ。だというのに今日初めて会った自分よりよっぽど年上のサキュバスたちは自分を使えと言ってくる。
「とりあえ、ず。お友達、から…。だめ?」
自分に仕えることをあきらめてくれないのならば、せめてお友達からにしてもらおうとそういった。
すると三人のサキュバスたちは信じられないといわんばかりに目を見開いてユースティアナを見て、自分を抱きしめるクロノスはくつくつと喉の奥を震わせる。
「クロ?わたし、なにかおかしいこと、言った?」
不安そうにこちらを見てくる養い子にやさしく向き合い告げてやる。
「われらの世界では力がすべてなのだ。ユースティアナ自身に力はなくとも、余はこの世界最強の個体といってもよい。そんな余の後ろ盾があるにも関わらずさして強くもないサキュバスたちと同じレベルに落ちようとするおぬしの考えは奇特なのだ。」
「だ、め……?」
「いや、そうやって誰にでも対等に話ができるところがおぬしの美徳だ。そういうところに余も助けられたのだぞ。ユースティアナはそのままおぬしの思うままに生きればよい。」
その作られたかのように端正な顔を緩めるクロノスの顔は、何百年と男たちを虜にしてきたサキュバスたちですら見惚れるほどに美しい。そんなクロノスの視線を一身に受けてなお普通にしゃべり続けることのできるユースティアナはやっぱりある意味力を持っているのだろうとサキュバスたちは思った。
クロノスは一通りユースティアナを撫でた後、サキュバスたちに向き直った。
「おぬしらもユースティアナが望むのであれば友にでもなってやれ。さすがに教育に悪いことは聞かせられぬが主従として付き合っていく必要はない。おぬしらの判断で、自然体のままユースティアナとは接してやれ。」
「は、はい!ありがたきお言葉でございます。」
何とかそう返事をした紫をユースティアナはじっと見つめ、
「お姉さんの、お名前、は?」
と聞いた。
やっぱりそんなこと聞かれると思っていなかったサキュバスたちは目を丸くして驚いて、クロノスは今度こそ声をあげて笑った。
魔王様の笑った理由は次話にて説明入ります。




