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⦅髪を結う手に力が入らない。⦆

作者: ちなつ。

 心が傾く。

 魂が崩れそうになる。

 自尊心が堕胎した私の精神では、

 もうこれ以上自分自身を支えることが難しいみたいだ。

 嫌いで大嫌いで、好きになれない自分を今までどうやって壊れないようにしてきたんだろう。

 日常に忙殺された気になって、見ないふりでもしていたんだろうか。


 髪を結う手に力が入らない。

 欲しくて買ったはずの服に魅力を感じない。

 何のために、

 誰のために、

 私はお洒落をするんだろう。

 って。

 そう空しくなってしまうから。

 綺麗に着飾ったところで、

 一体、誰が私を愛してくれるというのだろうか。


 心が傾く。

 魂が崩れる。

 私一人じゃあ、止められない。

 誰かに支えてもらわないと、

 私は私を見失ってしまう。

 嫌いな自分をどうしても好きになれないから。

 これはもう自分自身じゃ、どうにもできそうにないから。

 私が私を愛してあげられるような愛をください。

 

 海を見ても泣けなかった私の瞳が見慣れた駅前の情景で潤んだ。

 

 人できらきらしてる。

 繋いだ手と楽しそうな笑顔と嬉しそうな声であふれかえっている。

 寄り添って写真なんか撮っちゃったりして。

 幸せの乱立。

 雰囲気があまりにも心に沁みるから、

 肺が呼吸を拒む。

 胸の浮くような動機が、

 もう克服したはずの感情が、

 再び私の精神に滲んでしまった。


 嗚呼。

 いいな。

 羨ましい。

 私も壊れなければ、

 同じようなことを今頃できたかな。


 みんなとおんなじくらい。

 外に出るときは綺麗にしているはずなのに。

 私の手が空っぽなのはなんでだろう。

 もしかしたら、

 私の心の壊れがばれてたりするのかな。

 そうだっていうのなら、

 私はこの世界にもう太刀打ちできないよ。


 敗北感に似た悲しみを連れてアイスを買った。

 美味しいはずなのに味覚は喜ばなかった。


 寂しい。


 まるでフィクションのようになっていく現実を、

 私にとっても正しいリアルとして取り戻すことは叶うかな。


 駅のホームでぼんやりとそんなことを思った。


 秋の香りのする風が私の指をすり抜けて、

 私の知らないどこかへ去っていく。

 風の行方を振り返ったところで、

 そこに何かがあるわけじゃないんだ。

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