近未来のとある少年の朝
カーテンの隙間から朝日が差し込む、物の少ない六畳ほどの部屋。
そこでは軽やかな木琴のメロディーが響いていた。
「うぅん」
ベッドに潜り込んでいた部屋の主は軽く唸り、寝ぼけ眼で枕元を探る。
やがて彼が捕まえたソレの見た目はおおよそ普通の眼鏡だ。
眼鏡につながっている充電ケーブルを慣れた手つきで外し、それをかけた彼は無造作に腕を振った。
その動作と同時に、先程から響き続けていた目覚ましがようやく止まる。
「シオンおはよぅ……」
誰もいない部屋で彼がそう呟くと、返事はすぐに返ってきた。
「おはようございますレンさん。時刻は午前六時三十三分。今日の天気は快晴。今日の予定は学園祭です」
柔らかく聞き取りやすい音声で淡々とそう告げた【彼女】に軽く返事をして、レンはようやくベッドから起き上がる。
すると、先程までは誰もいなかった部屋に手のひらサイズにデフォルメされた女性が漂っている。この小さな女性こそが汎用アシスタントAI「シオン」のアバターである。
レンが軽く伸びをして再び尋ねる。
「シオン、今日の最高気温はどれくらい?」
「本日の四津川市の最高気温は三十四度です」
「三十四度かぁ」
窓を開けるとまだ七時前だというのに少し汗ばむほどだ。
「うわ、もう結構暑いな」
そう言うとレンは制服に着替えるためクローゼットに向けて歩き出す。
着替えている最中にもシオンとの会話は続く。
「そういえば今日は準備するから早めに行かなくちゃいけないんだったっけ?」
「はい、《委員長》さんから『準備のため七時半には学校に来て下さーい!』とメッセージが入っています。また、同時に『あ、あと、夏服の下にクラスTシャツを着て来てください!』とも」
「あー!そうだった!」
もともと中身の少ないクローゼットだけあって、クラスTシャツは漁るとすぐに見つかった。
「これでよし」
着替えを終えたレンは、階下へと降りる。
すでに起きていたた母親と軽く朝ごはんを食べて身支度を済ませると、レンは急いで学校へと向かうのであった。