因果は果てしなく
この小説には身体障害や病気の描写が出てきます。また、オカルトなこともでてきます。
窓から見える青空を、こんなにも憎々しく思った日はなかった。
歯が鳴るほど歯ぎしりをし、充血し涙をためた瞳で睨む目の前の青空は、誰のもとにも平等に広がる空だった。
暑い夏の日、8月の真っ只中だった。
高校生になって入った吹奏楽部。楽器経験もないのに入部したのはよくある話、「友達が入ったから」。今となっては友達と呼べるかもわからない、中学と通学路が偶然重なった女の子。この頃はそれくらいのことでも気軽に友達と認識していたように思う。
元々器用な私は、初心者ながらコンクールに抜擢もされた。部活動の仲間はみな熱心に楽しく活動を行っていた。趣味の話や恋愛の話、勉強の話に友達の話。どこにでもいる普通の高校生だ。「普通の高校生」だった。
――あの日までは。
その日はとても暑い日だった。帽子をかぶること、水分はこまめに取ること、日陰で休憩をとること。部内でもそのような指導は当たり前のように行われていた。
その日は秋に開催される体育祭で行うマーチングの練習だった。
私は重いバスドラムを抱え、練習に勤しむ。暑い・きつい・けど楽しい…
頑張って挑む本番も楽しみでしょうがなかった頃。初めての高校の体育祭、素敵なものにしよう…
そんな思いを抱えて張り切る私の手が、唐突にしびれだした。
まるで正座をした時のような軽いしびれを感じる。手の感覚がにぶくなる。
ちょうど疲れていたのもあり、私は部長にこう言った。
「すみません、少し手がしびれてきて…」
「?そっか。わかった、日陰で休んでて。ごめん、おんぶして運んでやってくれない?」
部長は私の同級生の女の子にそう頼み事をした。わかりました、と優しく微笑んだ彼女は私に一言労いの言葉をかけ、目の前に屈んだ。
「ありがとう、ごめんね」
おぶされるまでもないと考えていた私はそう謝辞をのべて彼女に身を任せた。
――身を任せたはずだ。何も覚えていない、何も思い出せない、その時間が切り取られたかのように、私の記憶には何も残っていない。
思い出せない、覚えていない、何も、何も。
私はこの日、暑い暑い青空が広がるこの日、「普通の高校生」という私を殺された。
少しずつ時間があるときに書いていきたいです。