プロローグ
アラグスタ王国の首都ウィンディ、大陸でも有数の大都市である街には多くの人が集まり、繁栄を謳歌していた、しかし繁栄の裏でその恩恵から零れ落ちた人達も多くいた。
地方から一攫千金を夢見て上京してきたものの夢破れた者、犯罪や借金からの逃亡者、元々定住を持たない流れ者、そんな者達の吹き溜まりのような一角が巨大な街であるが故に生まれていた。
これはそんな場所にある一軒のちょっと変わった便利屋の物語。
春とはいえ、初夏を思わせる陽気のなか、一人の少年が頼りなさげな足取りで下町の一角を歩いていた、少年は時々立ち止まっては手に持った地図を見返しまたフラフラと歩き出す、そんなサイクルを繰り返していた、傍から見れがまさにカモネギといったところであろう、一人の男がさも親切そうに話しかけてきた、
「やあ、地図を見ながらどこかお探しのようだけど、どこに行きたいんだい?」
男の口ぶりは親切心に満ち溢れたものであったが、眼は獲物を狙う猛禽の眼そのものであった、その様子を物陰から舌打ちしながら見つめる眼がいくつもあった『獲物は早い者勝ち割り込み厳禁』そのルールを破れば後で袋叩きに合うのがここのルールであり、みなアウトローなりにそのルールは守られていた、
「ああ、ご親切にありがとうございます火の車というお店を探しているのですがご存じないでしょうか?」
「ああ、その店ね知って・・・」
そこまで言ったところで陰から見守っていた男達数名が飛び出して来て、道案内を申し出ていた男を袋叩きにした、この界隈にはもう一つ暗黙のルールがあるのだ『火の車には絶対に敵対するな』というルールが。
目の前で道案内を申し出てくれた男が急に飛び出してきた男達に袋叩きにされる光景をあまりの事に声を失いながら見ている少年に、男達のうち一人が言った、
「ついてきな、あそこの客に手を出すほど命知らずじゃねぇ、連れてってやるよ」
少年は袋叩きにされ痙攣している男と新たに道案内を申し出た男を交互に見ながら、どうしたものかと決断もできず心細げにしていると、男は顎で痙攣している男を示しながら少年に語りかけた、
「こいつの事なら心配いらねぇ殺すまではしねぇ、ちょっとこの界隈のルールを教えてやるだけさ、火の車の客に手を出したら俺も同じ目に合う心配いらねぇよ」
少年は「はぁ」と小さく頷くと、男は「ついて来な」と言い、踵を返すと歩き出した、少年は恐る恐るではあるが、男の後について行った。