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異世界研究部①

「君たちは異世界の存在を信じるか?」


 第一声がそれだった。


 放課後。俺、結愛、理富、聖華の四人はセインに言われて教室で待機していた。なんか頼みごとがあるらしい。最初は俺と理富だけだったんだが、結愛と聖華に言ったら、二人とも快く手伝うと言ってくれた。なので四人で教室でセインを待っていた。

 しかし、教室に来たのはセインではなく一人の女子生徒だった。同じ制服を着ているから同じ学校の者なんだが、同学年ではないな。ということは二年生か三年生、どちらにしろ年上の先輩だ。

 教室には俺らしかいない。先輩はツカツカと俺らのそばまで歩いて来た。

 で、第一声があれだった。


『………………』


 俺らは突然の事態に頭が働かず、呆然としていることしかできなかった。


「ちょっ、先輩っ! 待ってくださいよ。おいてくなんてひどいじゃないですか!」


 俺らが呆然としていると、セインが教室に入ってきた。おおっ! セインだ、助かった。というか助けて!


「って、みんな呆然としてるじゃないですか!? 先輩、何したんですか!?」

「何とは失礼だな。私はただ『異世界は存在すると思うか』と、きいただけだぞ」

「そんなこときいたら、普通の人は呆然としますよ!」


 セインと先輩が言い合っている。やはりセインの知り合いだったか。


 言い合いの末、先輩は自己紹介を始めた。


「私の名は夏黄かき 翠星すいせい。三年で異世界研究部の部長をしている」


 異世界研究部。たしかセインもそこに属していたはず。改めてよく見るとこの人、前に俺が中庭見たとき変な儀式してた人だ。


「君たちは異世界は存在すると思うか。私は思う。この部は異世界について日夜研究し、いずれ異世界に行くことを目的とする部だ!」


 夏黄かき先輩が言った。

 変な部だな。名前から変な部だと思ってたが、まさか内容もそのまんま変とはな。


「世の中にはいろいろと不思議なことがある。私はそれは異世界が原因だと考えている。河川敷で人が石化していた事件。放課後の校舎で不審者が瞬間移動していた事件。駅前のガスボンベが爆発した事件。ここ最近だとその辺りが怪しいと私は睨んでいる」


 河川敷で結愛、放課後で理富、駅前で聖華がそれぞれビクッとしていた。俺もなんか身に覚えがあるような。


「他にも異世界が原因と考えられる事件はいくつもある。そもそも……」


 あ、なんか語りだした。話が長いぞ。終わる気配がない。これはあれだ、この人が異世界が好き過ぎる変な人なんだ。

 俺は助けを求めてセインの方を見た。セインは「こうなったら僕でも止められない」という感じで首を横に振った。

 何慣れたふうに諦めてんだ! お前は慣れてるかもしれんが、こちらにしてみれば会って間もない人がこっちの興味ない話を語りだすんだぞ!


 結愛は分かっているのか分かってないのか「ふむふむ」と、先輩の話を聞いている。理富はあれ聞いてるようで聞いてない顔だ。聖華は……あれ? 聖華にしては珍しく目が泳いで冷や汗をかいている。


 仕方ない。俺は素直に疑問に思ったのと、話の腰を折る目的で、


「そういや先輩って三年生ですよね。受験勉強は大丈夫なんですか?」


 と、きいた。すると、


「ふむ、なかなか痛いところをついてくるな。それはさておき、異世界というのはそもそも……」


 あれ? 俺の質問答えてくれないんですけど!? ちゃんと聞こえていたし、反応もしたのにまったく折れずに異世界の話に戻った。すげえなこの人。


「ところで、君からは異世界のにおいがするな」

「…………!?」


 と、夏黄先輩は聖華に向かって言った。

 それまでも若干狼狽えてた聖華が、また一段とビクッとした。


「さては君……」


 言いながら聖華に詰め寄る夏黄先輩。聖華は冷や汗をかきながら目をそらしていた。そらしながらも、夏黄先輩が次になにを言うかに怯えている。


「君も相当な異世界好きに違いない!」


 と言い、嬉しそうな表情をする夏黄先輩。


「なに折岩さんに変なこと言ってるんですか。ごめんね折岩さん、気にしなくていいから」


 セインが夏黄先輩を聖華から引き離す。


「…………ダイジョウブダイジョウブ」


 聖華はホッとしたように息を吐いた。


「そもそも今日は、こっちの用件を手伝ってもらうために待ってくれたんですよ。断じて先輩の話を聞くためじゃないです」

「ふむ、そういえばそうだったな」

「ふう、まったく……。で、ごめんごめん。用件、まだ言ってなかったよね」


 セインが言った。そうだった、そのために待ってたんだった。俺も若干忘れかけてた。


 セインが用件とやらを語る。


「その……ある猫を探していてね。僕と先輩である程度の場所まで絞れたんだけど、最後だけはどうしても人数が必要なんだ。その猫を捕まえるのを手伝ってほしいんだけど…」


 なるほど、猫を捕まえるのを手伝ってほしいか。


「別にいいぞ」


 俺は了承し、他三人を見渡す。三人とも頷いたり表情から了承だということが分かる。


「ありがとう、みんな」

「私からも礼を言おう。さて、そうと決まれば善は急げだ、猫を捕らえる場所に行くぞ。ええと……」


 夏黄先輩が言い淀む。

 そういえば俺らは自己紹介してなかったな。




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