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田井夢 理富…能力『時間遡行』①

「ねえねえ、今度の週末みんなでクレープ食べに行かない?」


 放課後の教室。結愛ゆあがそんな提案を出してきた。


「クレープ? この辺にあったっけ?」

「駅前に新しくできたの、そこにみんなで行こ」


 俺の疑問に結愛が答える。

 結愛はクレープなんて女子力高い食べ物わざわざ選んで食べない。これは新しいものができたからとりあえず食べに行きたいだけだ。この前焼肉店がオープンした時も同じこと言ってた。


「おう、いいと思うぞ」

「駅前……今度の週末……なにかあったような……」


 理富りふが首をひねりながら考える。


「あ、春火しゅんかとケーキ食べに行く約束してた」


 そして思い出したようにそう言った。春火しゅんか、というのはおそらく理富の友達のことだろう。結愛と聖華せいかは知らないが、俺の知り合いではない。このクラスに春火しゅんかとうい名前のやつはいないから、おそらく別のクラスだ。


「そうか、じゃあこっちの予定を変えるか。別に急ぎの用でもないし」


 と、俺が言ったら


「……駅前のクレープ屋。今はオープン記念で少し安くなってる」


 と、聖華せいかが携帯を見ながら言ってきた。


「まあでも、予定があるんじゃ仕方ないだろ。クレープは来週にしよう」


 提案者である結愛の方を見る。別に反論はなさそうだ。結愛もここでゴネるほどわがままではない。どっちかと言うとわがままなのは……


「いや、いいよ。行こうよ、週末」


 こいつ、理富の方だ。


「お前週末予定あるんじゃ……」

「そっちも行くよ。で、こっちも行く」

「いやいや、そっちの春火? だっけ? とケーキ食べに行く約束の方が先なんだろ? ならそっちを優先するべきだろ」

「だからどっちも行くって言ってんじゃん。あ、でも春火とは午後の予定だから、午前中にしてくれると助かる」

「そんな無理して一日で行かなくても……」

「いいの! 私が行くって言ったら行く! 話を聞いてたら両方とも食べたくなったの!」


 うーん、いいのかな?

 結愛と聖華は午前中にクレープ食べに行くのは大丈夫そうだ。俺も大丈夫だ。

 でもその午後一緒に食べに行く子、その子から見ればこれから一緒にケーキ食べに行く友達が、午前中にクレープ食べてきたって言うんだぞ?

 まあでも当の本人が行くって言ってるし……。

 ………………。

 まあいいか。うん、行こう。


「じゃあ、今度の週末。午前中にみんなでクレープ食べに行きますか」

「「「はーい」」」


 俺が言うと、三人は元気よく返事をした。


 話も纏まったところで帰宅準備。俺は理富と雑談しながら、準備をしている。


「欲しいものが二つあったら二つとも手に入れる! それがマイポリシー!」

「二兎を追う者は一兎をも得ずってことわざがあってだな」

「私の辞書にそんなことわざはない!」

「そうか、じゃあ新たに書き加えろ」


 準備が整い今から帰ろうとする。そのとき、


 ガクンッ


 理富の動きが止まり、下を向いた。俺らは慣れたように少し待つ。


「…………ッ!!」


 理富がこめかみを抑えながら目覚める。そして、


「……今、何時何分?」


 と、言ってきた。


「ええっと……」


 俺が現在の時刻を答えると理富は


「そっか、ありがと」


 と答えた。そして


「ちょっと歩斗と私は用事があるから、二人は先に帰っててくれない?」


 と、言った。

 結愛と聖華。先に帰っててと言われた二人は理富の言葉に若干戸惑いつつも、


「うん……分かった。……じゃあね」

「……また明日」


 と、去っていった。


「で、俺はなんで残されたんだ?」


 俺は素直にそう尋ねた。もちろん用事なんか俺は聞いてない。


「もうちょっと待って」


 理富はそう言いながらなにやら携帯を操作している。


「ーーよし、送信っと」


 操作を終えて、


「これから、今私が呼んだ奴と私と歩斗で、ある男を探すの」

「ふむ」

「範囲は学校中。探して欲しい男はこれ」


 そう言って自分の携帯の画面を見せてくる理富。


「ふむ」

「以上!そんなとこかな。何か質問は?」

「はい。えっと……なんでその人を探すんだ?」

「その辺はごめん、聞かないで!」

「あ、はい」


 聞かないことにする。


「他には?」

「えっと…」


 ない……かな……。いや、一応聞いとくか。


「なんで俺なんだ?」


 俺は理富に質問した。すると理富はいい顔で、


「あんたが、手伝うって言ったから。それともなに? あの言葉は嘘だったの?」

「いや手伝うなんか言ってない」

「そうだね、まあ細かいところはいいじゃない。手伝って」


 なんだ? わけわからん。まあ手伝えと言われれば手伝うけど……。

 そもそも目的を教えてくれないものに手伝うのは、なんかモヤモヤするな。


 俺がそんなことを考えていると、


 ガラッ


 教室の扉が開いた。開いた先には一人の少女。俺らと同じ制服を着ている。同学年かな。

 少女は教室の中を見渡し、俺らの姿を見つけるとこちらに向かってきた。


「理富ちゃん! あれはどういうことなの?」


 理富に向かって話している。この子が理富が呼んだ子かな?


「どうもこうも、メールで送った通り。もう少ししたら始まるの」

「相手は?」

「あれ……えっと……昨日の」

「そっか……」


 二人だけで会話が進む。完全に蚊帳の外だ。


「えっと……それで……」


 少女がちらちらとこちらを見てくる。

 理富は、


「また紹介するのか……えー、こっちが伊藤いとう 春火しゅんか、こっちが不知火しらぬい 歩斗ほと


 と、簡単に紹介した。春火しゅんかってこいつか。


「不知火 歩斗だ。よろしくな」


 俺は改めて自己紹介する。


「あ、はい。伊藤 春火です。よろしくお願いします」


 こちらを向き丁寧に自己紹介する春火。


「不知火くんは理富ちゃんの友達なんだよね? で、この場にいるってことは不知火くんも能りょーー」

「あー、いや、春火。こいつは違うの」

「え!? じゃあなんでここにいるの? 危険だよ」

「前に言ったことあるじゃん。事情を知らなくても追及せず、私の為に命を張ってくれる便利な駒がいるって」

「おいちょっと待て理富。それってまさか俺のことじゃないよな」

「アッハッハ、何を言ってるんだい、コマちゃん」

「誰がコマちゃんだ!?」


 コマちゃんなんて可愛く言っても、そのコマは駒だろ。恐ろしい。


「冗談はさておき……、そろそろスタートだ」


 理富が言いながら軽く準備運動を始める。


「そういや聞き忘れてた、見つけた場合はどうすんだ? 理富に連絡すればいいのか?」


 俺が聞くと、


「いや、大丈夫。歩斗は見つけられないから」


 と、アッサリ答えられた。


「え!?何それ!?」


 じゃあ今までのやりとりは一体……。


「えーっと……歩斗は東棟を探しといて。私達は西棟を探す。探してる男は多分西棟に現れるから」

「ええ……じゃあ俺が探す意味ないじゃん……」

「探してるってことが大切なんだ。歩斗が東棟を探せばあいつは東棟には行かない。だからまあ、そんな真剣に探さなくていいよ。適当に校舎内を歩いてて」

「そういうことは先に言ってくれませんかね……」


 説明不足過ぎるだろ。


「いやさすがに無関係の歩斗をあいつに会わせるわけには、いかんからね」

「会っちゃいけないようなやつなのかよ」

「そう、だから万が一あいつを見つけた場合は真っ先に私に連絡して。そしてそこから逃げて」

「はあ……まあ、分かった」


 なんか俺、思ったより暇な係になりそうだな。


「お互い頑張ろうね」


 春火が優しい笑顔でそう言ってくる。


「おう、頑張ろうな、春火」

「よぉし、じゃあ、スタートだ!」


 理富の言葉と共に俺達は教室から出た。




 〜30分後〜


 飽きたな。


 うちの校舎は大きく言えば西棟と東棟の2つに分けられる。

 他にも部室棟や食堂、旧校舎など小さいものはたくさんあるが基本はこの2つだ。それぞれ3階までと屋上。どちらも似たような構造になっている。


 30分あれば東棟の1階から3階と屋上、全て歩き回って時間が余裕で余るくらいだ。

 真剣に探さなくていい、と言われたから教室の中までは探していない。部活で使っている教室もあるしな。

 だから俺はひたすら廊下を歩いていた。


 さて、飽きたな。なんかすることないかな?

 俺は3階の窓から中庭を見た。中庭では男女の二人組がなにやら奇妙なことをしていた。

 何かの儀式みたいな奇妙な動きをする女。それを呆れたような顔で見る男。

 ん? いや、男の方は見覚えがあるぞ。というかクラスメイトだ。彼の名前は伊武海いぶかい 瀬院せいん。みんなからは『セイン』と呼ばれている。


 確か『異世界研究部』とかいう変な部に入ってたような。あまりいい噂は聞かない部だ。旧校舎で幽霊をやっつけたとか、部室が爆発したとか、そんな噂をよく聞く。じゃあ一緒にいるのは同じ部活のやつかな?


 あまりじろじろ見るのも悪いので俺は再び校舎内を歩き回る。

 ところでいつまで探せばいいんだ?そこを聞き忘れたな。適当な時間になったら元の教室に戻ればいいのか?それとも何か連絡がくるのか?まあどちらにしてももう少しは歩き回るか。


 理富から「ごめん、忘れてたm(_ _)m もう戻ってきていいよ(*^_^*)」とメールが来たのはそれから30分後のことだった。女を殴りたいと本気で思ったのは生まれて初めてだった。




 〜教室〜


「歯を食い縛れぇ!」

「ちょっ、歩斗、おまっ、え、まっ、へぶッ!」


 教室に帰ってまず最初に理富にチョップをくらわした。


「え、えっと、ごめんね。その、理富ちゃんといろいろあって、その、時間を忘れてたというか。と、とにかく忘れててごめんなさい!お、怒ってるよね……?」


 春火が謝ってくる。


「いや、いいよ。怒ってない」


 俺がそう言うと春火はホッとしたように理富に話しかけた。


「良かった、怒ってないって。不知火くんって優しいね」

「私今チョップされたんだけど!?」


 理富は痛そうに頭をさすっている。


「で、結局見つかったのか?」


 俺が尋ねると理富は答えた。


「んー、見つかったには見つかったんだけど……その……会えないっていうか……なんていうか……」


 よく分からんな。だがそんな変な答え方をするってことは多分詳しくきいても答えてくれないだろう。


「「うーむ」」


 理富と春火が二人してなにか考え事をしている。ダメ元できいてみるか。


「なに悩んでるんだ? 話してみろよ」

「え、えーっと。……例えば、例えばの話なんだけど、校舎内を自由にワープする人がいたとする。その人を捕まえるなら歩斗ならどうする?」


 なにその例え。どんな状況なんだよ。


「えー、無理」

「だよねー。うーむ」


 再び考える理富。

 え? なに? あの例えを解かないといけないの?

 仕方なく俺も一緒に考え始める。


「ワープした先に待ち構えておくとか?」

「それができたら苦労しないんだよ。君、分かってる?」


 こいつ腹立つな。もう一発チョップくらわすか。


「だいたい校舎内を自由にワープってなんだよ? 旧校舎とかにもいけるのか? あの例えを解くにはもう少し情報が必要だろう」

「いや、ワープでいけるのは西棟だけ……ってちょっと待って!今なんて言った!?」


 理富が何かに気づいたように俺に詰め寄る。


「もう少し情報が必要だろう」

「違う! その前!」


 その前ってお前俺の言葉しっかり覚えてるじゃねえか。なんで聞き直すんだよ。


「えっと……旧校舎にもいけるのか……のとこか?」

「それだよ! 旧校舎だ! 春火、行こう! 歩斗、ナイスだ!」

「お、おう……」


 俺は理富のテンションについていけなかった。そのまま理富は春火を連れて教室から出て行こうとする。


「えーっと、まずはあいつに連絡を入れて……それから……あ、歩斗は先に帰ってて! ありがとう! 今度は忘れ物するなよ!」


 大急ぎでどこかへと向かう理富。その後を追う春火。教室に取り残される俺。

 教室にはもう俺以外の人は残っていなかった。「今度は忘れ物するなよ」と言った理富。全く身に覚えはないが、一応気になり、自分の机の中をもう一度見る。

 そこにはノートの忘れ物があった。

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