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魔法少女 結愛②

 俺バラバラ事件(仮)から翌日。

 今日は土曜日。特にすることのない俺は2階の自分の部屋でダラダラとゲームでもして過ごすことにした。

 昨日のことは深く考えないことにした。過ぎてしまったことだし、今が無事なら、まあいいだろう。

 そういえば、チューリップ石の存在をすっかり忘れていた。月曜日にでも結愛に聞こう。


「まあ、あがってあがって」

「おじゃまします」

「おじゃましますぅ〜」


 外、結愛の部屋からドタドタとそんな音が聞こえてきた。


 俺と結愛は家が隣だ。この辺りは住宅街で家と家が密集している。中でも2階の俺の部屋と結愛の部屋は、設計ミスなんかじゃないかと思うほど近い。その気になれば窓越しにお互いの部屋に行けるレベルだ。だからあまり大きな声で話せば向こう側に聞こえる。


「ーーーーーーー」

「ーーーーーーー」

「ーーーーーーー」


 別に普通に話す分には問題ない。結愛の部屋でなにか話しているのは分かるが、なにを言っているかは分からない。もちろん俺も聞く気はない。女子の話を盗み聞きなんて趣味が悪いからな。

 そういや昨日、結愛が作戦会議……いや、女子会があるって言ってたな。結愛の部屋でやるのか。


「これで残るフラワージュエルはあと3つパポ!!」


 ………もう少し小さい声で話してくれませんかね?聞く気がなくても聞こえるんだが。

 結愛は大声を出したら、俺の部屋にも聞こえること分かってるんだがな。多分言い忘れてるな。


「でもパポが一つ落としたピポ!!」

「あれはピポが悪いんだパポ!」

「人のせいにするのかピポ!」

「パポは悪くないパポ! 全部ピポのせいパポ!」

「なにをピポー!!」

「二人ともけんかは止めるプポ!」


 パポピポうるせえ!! なんかけんかが始まった。声は大きくなる一方だ。


「だいたい結愛があのときああしていれば良かったパポ!」

「な! そもそもパポが落とさなかったら良かった話じゃん!」

「そうピポ! パポが悪いピポ!」

「そう? 話を聞く限りあなたにも少し責任があると思うのだけど、ピポ?」

「あ、あわわプポ〜」

「ねぇ、結愛ぁ〜、これの5巻ってどこあるのぉ〜」


 なんか一人漫画読んでるやついるな。そしてその5巻は俺が今借りてるやつかもしれん。ごめんな。

 それはさておき、これはちょっとなにか言った方がいいかな。さっきから全部聞こえてくる。

 俺は自分の部屋の窓を開け、身を乗り出し結愛の部屋の窓を叩こうとする。すると、


「いいから早くチューリップルビーを探しにいくピポ!!」


 そんな声が聞こえた。

 チューリップルビー?

 なんかとても身に覚えがあるような。そう思い俺は自分の机の上を見る。そこには俺が昨日拾ったチューリップの形をした赤い石があった。昨日持って帰ってとりあえず机の上に置いておいたものだ。

 手にとって見てみると、チューリップルビーという名がしっくりきそうな見た目をしている。


 チューリップルビーって、これじゃね?


 しかも話から察するに、これをなくしてけんかしてるっぽいしな。これは早く言った方がいいかもしれん。

 俺は改めて身を乗り出し、結愛の部屋の窓を叩いた。


 コンコンッ


「ッ!? 今窓をノックする音が聞こえた気がするのだけど……」

「ああ、隣の家の歩斗だよ。ほら、昨日の。家と家との距離が近いから、大きな声出すと聞こえるんだよね。うるさかったかな?」

「初耳だわ。そういうことは先に言ってくれないかしら」

「結愛。開けるぞ!」

「え? あ、ちょっと待って!」


 ガラガラッ

 結愛の部屋の窓を開ける。

 中には三人の少女と三つのぬいぐるみがいた。

 少女の一人は幼なじみの結愛。後の二人は昨日結愛と一緒にいた二人だ。

 ぬいぐるみは昨日見たパポと、後二つは初めて見るものだった。当たり前だがぬいぐるみは動いていないし、しゃべってもいない。じっと座っている。というか少女三人から「絶対にしゃべるな」オーラが出ている。


「ど、どうしたの? 歩斗」

「ああ、声が大きいって言いに来た。別に盗み聞きする気はないが、いろいろと聞こえてくるもんでな」


 なんか部屋の中の緊張感がすごい。これはなにかを隠してビクビクしてる緊張感だ。


「そ、それだけ? それならもう」

「もう一つ、これは昨日拾ったものなんだがな。もしかしてお前らの物なんじゃないかと思ってな」


 俺がそう言い、手に持ってたチューリップ石をみんなに見せた時、


「そ、それは!チューリップルビーピポ!!それをどこっモガモガ」


 ぬいぐるみがなにか言いかけたが、途中で近くにいた少女がぬいぐるみの口をおさえた。

 場が一気に静かになった。どうやら人に見られてはいけないものらしい。ぬいぐるみをおさえた少女の目、あれはどうやって誤魔化そうかと考えている目だ。


「……ふ、腹話術! 私、腹話術が得意なのよ! ……こ、こんにちはピポ〜」


 そんなことを言い、ぬいぐるみを顔の前に持ってきて、お世辞にも上手いとは言えない腹話術をする少女。


「へ、へえ〜、そうなのかー」


 俺には気の利いた返事は出来なかった。


「そ、そういやまだ自己紹介してなかったよね」


 結愛が話題をそらした。少々わざとらしい気もするがナイスフォローと言えるだろう。


「えっと……こっちは歩斗。幼なじみ」

「おう、よろしくな」


 紹介を受け、軽くあいさつする。もうちょっと気の利いた紹介してくれないものかね。


「んで、こっちがセキ、こっちが瑠桃るとう

「よろしくね」


 セキと呼ばれた少女が返事をする。さっき腹話術をした少女だ。

 結愛は比較的赤っぽい服が多い。今日着ている服も全体的に赤い。それに比べて彼女……セキは全体的に青っぽい服を着ている。


「よろしくぅ〜」


 瑠桃るとうと呼ばれた彼女は全体的に黄色っぽい。

 イメージカラーが結愛は赤、セキは青、瑠桃は黄色ってところだろう。


 お互い紹介したことでなんとなく場の雰囲気が緩んだ気がする。先ほどまでの緊張感はなさそうだ。この会話を途切れさせてはいけない。


「三人は学校違うよな。どうやって知り合ったんだ?」

「………………」

「………………」

「………………」


 俺のした質問に再び場が静かになる。聞いたらダメな質問だったかー。三人ともめっちゃ目が泳いでるもん。すんごい困った顔してるもん。

 俺が「答えなくていい」と言おうとしたら


「しゅ、趣味が一緒なのよ」


 セキにそう答えられた。今考えた感がすごい。すごい、が、知り合ったキッカケとしてはありがちで妥当なところだろう。


「そ、そうなのぉ〜」


 瑠桃がセキの言葉に乗っかる。明らかに嘘だと分かるが、俺もそこまで興味があるわけではなあ。ここは俺も乗っかるとしよう。


「そうなのか」


 これでこの話題は終わりだな。深く追求しないようにしとこう。俺はそう思い、セキと瑠桃にもそんな感じの空気が流れる。そう思っていたのだが、


「そう、よくみんなでロッククライミングするんだ」


 おおーっと、結愛さん!? 話に乗っかりにきたんだが、これは盛大にフォローミス。

 たしかにここで話に乗っかるなら、具体的な趣味を言った方がいい。だが、ロッククライミングは違うだろ。

 別にロッククライミングが趣味の女子はいないということじゃない。普通にいるであろう。結愛も昨日マイブームと言ってたし、最近テレビでも見た気がする。でも、少なくともこの二人は違うだろう。目で「無理! 無理!」と言っている。

 まあ、これ以上、話が変な方向にいく前にこの辺で終わりにした方が良さそうだ。


「せ、先週もみんなで登ったんだぁ〜」


 あ、やばい。瑠桃が言葉を続けた。嘘を嘘で塗りかため始めた。収集つかなくなるやつだ。

 これは多少無理やりにでも話題を逸らそう。


「先週登った崖はつらかった、うん。つらかったつらかっ……」

「で、結局これはお前らのか?」


 俺は結愛の言葉を遮り、チューリップルビーを再びみんなに見せた。

 そうだよ、俺はこれを渡しに来たんだよ。なのになんで趣味の話とかになったんだ?


「あ、うん。そうだよ、私達のだよ。ありがとう」


 結愛がお礼を言いながら、俺の手からチューリップルビーを取る。


「そんだけだ、邪魔したな」


 俺は窓を閉めて自分の部屋へと戻る。


「ふぅ〜、バレたかと思ったよぉ〜」

「チューリップルビーだピポ!」

「どうしてしゃべるのよ、ピポ! 人前ではぬいぐるみのフリをしてって言ったわよね!」

「これで残るフラワージュエルはあと3つパポ!」

「なんでパポが仕切ってんの! パポが一番の原因なんだから、ちゃんと反省してよ!」

「あわわ〜、けんかはやめるプポ〜」


 窓を閉めた途端これだよ。

 もういいや。

 俺は1階のリビングで休日を過ごした。

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