我々ハ猫デアル。
我々は猫である。
団体名は【極東方面軍第08遊撃部隊】である。
「では、本日の議題を始める」
誰も聞く者はいない。勇猛で知られたロビンソンは丸っとした転がる物体に夢中だ。頼れる副官のカールソンは、近くを飛び交う羽の生えた生き物に飛び付こうと跳ね回る。軍の中でも勇猛で知られたハンプトンは、その筋肉質の身体を惜し気もなく陽の光にさらし昼寝と洒落込んでいる。他の一般クルーも同様だ。
「会議は踊る。されど進まず……か」
我は、温かな陽射しの中、一人溜め息をつくのであった。
(=^ェ^=)(=^ェ^=)(=^ェ^=)
「左舷被弾! エンジン出力30%まで落ちます!」
「敵攻撃第二波来ます! 回避間に合いません!」
「……総員、衝撃に備えぃっ!」
激しい衝撃、遅れてやって来る爆音。明滅するアラート。最早、まともな航行は不可能だ。
「艦長! 操作不能です! 近くの星に墜落します!」
まさか、こんな辺境の惑星に不時着する羽目になるとは。死者が出ないだけマシであろう。
「総員、着地の衝撃に備えろ。生きていたら……また会おう」
しかし地上に降りてみれば、空気は馴染むし食べ物も問題無し。原生生物がいる様だが、我々に歯向かう様子を見せるどころか食事や、興味を惹かれる物を差し出す始末。最早母星に帰る事など、誰も考えられない程の天国であった。
一人、また一人と思考が弱まっていく。これは敵の罠では無いかと勘繰っていたのも馬鹿らしくなり始めた頃。なんと、この星に住まう我らが同胞を発見したのだった。
「あー、うん。むかしむかしのことなんだけどねー」
この地区に住まう同胞であるミケランジェロことミケ氏によると、かつて偶然にもこの星に不時着した我々の先祖がいたらしい。今この星に住まう【人間】というものを進化させ、我々が暮らし易い様にしたのだという。なんという先人の素晴らしき所業よ! 辺境の地にユートピアはあったのだ。
「あとはねー。かいねこになるとねー。とてもらくー」
どうやら、人間の住まう建物を居住地と定める事により、定期的に身繕いから食事、さらには適度な運動の補助までしてくれるというのだ。何なのだ、先人の偉業を称えて石碑を立てねばならぬ程だ。早速ミケ氏に礼を言いクルー達に情報を伝えると、皆で街とやらに出撃したのであった。
(=^ェ^=)(=^ェ^=)(=^ェ^=)
「センセー、ご飯ですよー」
手づから我に給仕してくれるのは、我が定めた建物の主である。主自らが食事を供し、さらには丁寧に我が自慢の淡灰色の斑入毛を撫でてくれるのはまさに至福である。ちなみに【センセー】というのは、我輩の呼び名の様だ。学者等の意味であり、我輩の知的な雰囲気に良く似合う呼び名だ。
と、首もとの鈴型の端末が振動し時刻を報せる。食事を済ませ一鳴きすれば主が我に代わって玄関を開く。さて、我は会議に向かうのだ。
「では、本日の議題を始める」
町内で起こった事件、嬉しい知らせ等を各々が出しあい、やれ新鮮な海の幸が堪らない、やれ蚤取りのアクセサリーが素敵だと誉めそやす。
我々は猫である。
団体名は【二丁目空地の会】である。
今日も我々は平和なのである。
たびーさん、そしてたびーさんの娘さんに最大限の感謝を。
たびーさんの娘さんの発言「我々ハ猫デアル。」から膨らんでしまったイメージを書いた作品となります。