アルト・ビラー物語~月のいたずら~
この国では日本と同じように苗字がさきです。
私の名前はアルト・ビラー。アルトがファミリーネームでビラーが私固有の名前だ。親に
「ビラーとはどういう意味だ?」
と聞いたら
「響きがいいからつけた。特に意味はない。
子供に意味や願いを込めてつけるというのは枷をつけて蜘蛛の糸でぐるぐる縛って自由に泳ぐためのヒレを切り落とす様な感覚が俺にはあったんだ。本人が自分の性格を社会で揉まれ自己を確立させて自分でなりたい自分を決めるべきだ。人間は名前で縛られるべきではない。動物語はわからないが名前をつけようとするのは人間だけであろうしな。」
なんだこいつ。言っている意味は理解できるが、納得できなくてさみしいし悲しい。名前というのは親が初めて子供に送るプレゼントで愛情でもある。
でも言い返そうものなら、この頑固父親子の事だから一言
「お前の考えは否定しないが」 と最初につけて、そのあと私が言った100倍200倍の言葉の量が返ってくるだろう。喋るのも嫌になる。否定から入ってないから良いと勘違いしているが結局は否定していることを彼は気づいていない。そんな環境だったから私は少しだけ人と何気ない会話や議論するのが苦手だ。
名前については別に問題はない。ただ少し珍しいけれども、変な名前という訳ではないのだ。だがやっぱりきちんと自分の名前に理由をつけられた人に私のこの気持ちはわからないだろう。
私の心情を無視する筆頭が父とするならば、私の心情を無視する第2位の存在は隣の家の幼馴染みのリュエンタロウカトウロ。長い名前だ。
「俺は太陽のように熱血で月のように穏やかにって願いが込められてるんだぜぇワイルドだろぅ〜。ワイルドワイルドぉ〜」と騒がしく言って、意味のある名前が羨ましいを通り越して妬ましいと思った。
「お前の名前も良い名前じゃないか」とか
「俺ほどじゃないが、最高にかっこいぜ」とか励ましてきたが、適当にふかしている感がプンプンだ。プンプン匂う。そう言えばあいつ汗が少し臭い。ワイルドな臭さだ。嫌いじゃないけど。
極めつけにそれ以降リマインダーをかけてるのかというくらい、1ヶ月に1回は求めていもいないのに私の名前について慰めてくる!嫌いじゃないけど!
私は嬉しくもうっとおしく、そして恥ずかしいので、もう毎月名前で慰めなくて良いよ3カ月に1回くらいにしてと毎回伝えているのだが、「あ、忘れてたごめん」と毎回言い返してくる。お前は記憶力悪くないだろうに。わざとか? わざとなのか?
でも悪いやつではない、むしろいいやつだ。うざいけど。
あいつのいいヤツエピソードを紹介しよう。ある病気が発症して私はクラスメイト達にいじめられたことがある。
それは小学生の頃、満月がキラキラ光る夜に学校でダンスパーティーが催されたことがあった。
私は外に出てる時にたまたまその病気を発症した。突然の事で私は分からなかった。
運悪く病気で苦しんでる私を見かけたのが別のクラスの悪い噂が立ってる男女5人グループだった。
私は建物の壁を背に半円になって囲まれていてツンツン突っつかれたり、ひたすらくすぐられたり、暴言も言われた。私の病気のこともありくすぐられるのは本当につらかった。
私は「あっ、もう本当に、うっ、止めて止めて」と泣きながら懇願したが止まらない。誰か助けてと祈った。
ワイルド君は遅れてパーティーにやって来た。そして会場内に私がいないので外へ探しに来てくれた。
泣き声とSOSの祈りが通じたが如く、私をイジメている女の子に対してダッシュからの飛び蹴りをやってのけた。一気に2人女の子を吹き飛ばしたのは今でも覚えている。「女の子だったのか……」と言いつつも追い討ちに倒れた女の子に一回づつビンタした。
今度は多勢に無勢。無傷だった男の子3人と乱闘して、倒れた。もう終わりかと思ったが立ち上がって大声で
「お前たちが仮に触れたものを全て溶かしてしまう病気だったとしよう、そうするとお前らは親や友人、好きな子に触れることができなくなるんだぞ! 悲しいだろ! それで虐められたらどう思うんだ? 親に人にいやがることはしてはいけないと教えられなかったのか!? 俺は片親だけれども教えてもらったぞ!お前らは2倍も俺より親がいるのに………わあああんおかあさああん会いたいよおおぉ」
と、よく分からない例えを出して泣いてしまった。
後で聞いたが本人曰く
「お母さんを思い出して会いたくて泣いたのではなくて痛くて泣いた。痛くて泣いてしまったのがばれたら、男としてのプライドが揺るいでしまうので頭をひねった」らしい。
多分母親を思い出したことと、プライド両方だと思う。
私はその時ずうっと感じて苦しんでいたのでその時とその後の出来事はうろおぼえだが。ワイルド君が私を肩に背負って月の光が当たらないところまで運んでいってくれたことは彼の背中のぬくもりと一緒に覚えている。
ありがとうとお礼を言おうと思ったら「なんだかいやらしいな」とか言ってきたのでビンタしてやったことも覚えてる。
やっぱりいいヤツじゃなくて変態なやつなのかも!今度から気をつけなきゃ!悪いヤツめ!嫌いじゃないけど!
ところで、最初に私の名前について語った私の父親も嫌いではない。酒、タバコ、ギャンブル、たぶん風俗も全部行っていない。
「そんな金があるなら、ビラーに服やら靴を買って笑顔を見たい」とかいってくれる優しっあっはぁはぁんっんっあんっ
あんっ……
あっ、あっ
はっぁあんんっんっ
「あっ、んっう…...あっはぁはぁんあっ」
言うまでもなく突然この飾りっ気のない部屋に響いている音を発生させているのは私の肺からの空気が声帯を震わせている音である。とどのつまり、私の声である。
あっ、……この「あっ」は気づいたときの感嘆表現の「あっ」だ勘違いするなよ。カーテンを閉め忘れていた。ベットから窓までは1.25m
「はぁん、はやくぅんしめないとぉ……あっ」
今日はそう言えばおそらく彼が名前を慰めてくれる日
窓に近づく度に喘ぎ声も指数関数的に大きくなっていく。
窓も開いていた。………これは非常にぃっまずいっあっう「あっあっあっ」
気合いで閉める
「「ガタッ」」
私は閉めたが、隣の家の二階の窓はリュエンタロカトウロは逆に開ける。恐らく一連の私の声を聞いてびっくりしたのだろう、こんな失態はあのパーティーの時以来だ。
「ワ、ワイルドだろぉ〜」
私は彼の口癖を口ぱくで気合いで言ってやり根性でカーテンを閉めた。
何故こんなことになってしまったのか、それは真っ暗な空間だった部屋が雲が晴れた月に照らされてその光が私に当たってしまったからである。
後天性過敏性満月光性喚起症候群
簡単に言うと満月、或いは月の隠れている部分が数%以下の時、月の光の粒子が私の肌へ入り込み神経が興奮し信号となって脳に渡る。そうすると性ヒトツキ脳内ホルモンが分泌され、脳粱が異常に反応してしまう病気である。
人によっては頭が痛くなる痛ヒトツキ脳内ホルモン、笑いがとまらなくなる笑ヒトツキ脳内ホルモンなど月病の患者は結構多い。10万人くらい発症が現在確認されている。「月の光のある粒子」というのはよくわかっていないらしい。太陽から出る光が月に当たり反射するので「太陽の光の粒子」一部が正確だろうとか色々学者が対立している。そこは私にはわからない。
こう思う人もいるだろう。
「部屋になら月の光が当たらない位置くらいあるはずだからそこにベットを配置すれば良い」
「いっそのこと月の当たらない部屋に変えればいいじゃない。寝る場所だけ変えるとか。」と前者も後者もよくある誤解。
月の光に直接あたらなければ良いわけでない。 その不可解な粒子は 照らされた部分からもさらに反射しているのだ。なので月の光が部屋に入った時点でその部屋には乱雑にスーパーボールのように跳ね回っていると考えてくれれば良い。
そして後者は窓のない部屋で寝ればよいと同義である。あなたの家に窓のない部屋はあるだろうか?屋根裏くらいだろう。
ということはカーテンやシャッターを閉めなければどこの部屋も一緒と言うことだ。
と病気の説明して現実逃避オペレーションは終わりだ。
あぁもう「絶対に聞かれた…………あっ。んっっ。」
私はベットに顔を押し付けて顔を赤くしながら満月を憎みながら病気と戦うのであった。