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茶会の準備

隼が、公青の前で膝をついた。公青は、奏との間の皇子である公明に、まとわりつかれている最中だった。

「隼か。しばし待て。」と、小さな公明を見下ろした。「さあ、父は政務があるからの。乳母の所へ参れ。」

公明は、公青の膝を放れたが、それでも目に涙をためた。

「ちちうえは、われに立ち合いをおしえてくださるともうされましたのに。」

公青は、困ったように公明の頭を撫でた。

「困ったことよ。政務が終われば、我も見てやることが出来ようが、今はいろいろと忙しいのでな。」と、側に控える乳母に目配せした。「さあ、無理を申すでない。」

乳母が進み出て、公明に頭を下げた。

「公明様、母上がお待ちでいらっしゃいますわ。我と、こちらへ。」

公明は、母と聞いてパッと明るい顔をしたかと思うと、公青にぴょこんと頭を下げた。

「ちちうえ。ごぜんしつれいいたしまする。」

公青は、頷いた。公明は、乳母に手を引かれて、弾むようにそこを出て行った。今涙ぐんでいたばかりなのに、と子供の変わり身の早さに隼が感心していると、公青はぐったりと椅子へ沈みながらはーっと肩で息をついた。

「育てかたが悪いのか、我が子供の頃より聞き分けが悪いようぞ。父は絶対だと、我の時には教えられたものなのに、あやつはあのように甘えておるのだからの。」

隼は、苦笑すると答えた。

「それだけ、王のことを慕っておられるのでございましょう。あのようにしておられるのも、あと僅かの間のこと。良いのではないかと、我は思いまする。」

公青は、隼をちらと見て、小さく頷いた。

「ま、そう思うことにする。子守りなど、我には向かぬがの。」と、表情を引き締めた。「ところで、鷲のことか。」

隼も、思わず緩んでいた表情を引き締めた。

「は。お調べ致しました。鷲の王、焔様に於かれましては、月の娘である維織様を妃に娶られるとのこと。それに伴い、宮の中の諍いの元凶であった女が、外へと嫁ぐことが決まったのだとか。」

公青は、眉を寄せた。

「元凶の女と?」

隼は、慎重に頷いた。

「は。前王の正妃で、今は里へと戻っておる、綾と申す女。400にはならぬかというぐらいの歳でございまするが、これがまた大変に美しい女で。また宮へと返り咲きたい望みから、己の息子を王座にと画策しておったようでございまする。しかし、此度焔様のお力を後押しするように維織様が月の宮から輿入れされることが決まり、心ならずも、外の宮へと嫁ぐことを了承したようで、それでは不憫なので、相手を選ばせてやろうと、此度の茶会を計画したようでございまする。」

公青は、なるほどと頷いた。

「合点のいったことよ。月の宮は今王妃が亡くなって喪中であるからすぐには嫁げぬであろうが、婚約を取り付けたとなれば月の宮が鷲につくことになろうし、臣下が反対することもないであろうからの。だがしかし、癖のある女のようではないか。誰に嫁ぐことになるのか知らぬが、面倒なことになるのではないのか。」

隼は、神妙な顔をした。

「は…。しかしながら、見目の良さはこちらでもそうそう見ることもないほどでございました。なので、気に入る王も居るのではないかと。」

公青は、フッと笑った。

「つまり、見た目に騙される王であるな?」隼は、それを聞いて少しバツが悪そうな顔をしたが、公青は笑った。「良い良い、そんな王は多いのだ。少し痛い目を見ねば、そういう輩は病が治らぬからの。我もその女の顔、拝んでやろうぞ。誰が引っ掛かるのか見ものよな。主も楽しめ。」

隼は、慌てて首を振った。

「王、そのような。ですが、見目だけでよいとおっしゃる王もいらっしゃるのですし、良いかもしれませぬが…。」

公青は、笑いながら手を振った。

「良いのだ。面白いことになりそうぞ。」と、声を上げた。「相留!茶会の準備がどこまで進んだか知らせよ!」

途端に、遠くからバタバタと音が聴こえて来る。隼は、公青に頭を下げた。

「王。それでは、御前失礼を。」

公青は頷いた。

「何なら、主も出ても良いぞ?」

隼は、それこそ急いで首を何度も振った。

「我はそのような!恐れ多いことでございます。」

そうして、逃げるようにそこを出て行った。入れ替わりに、相留が息も絶え絶えな状態で、入って来てふらふらと膝をついた。

「お、王。お呼びでございましょうか。」

公青は、頷いた。

「相留。茶会ぞ。準備はどうなっておる?早よう皆を見たくなったのでな。日取りは決まったのであろうの?」

相留は、急いで懐から紙を引っ張り出してそれを見た。

「はい。王から宮の行事と離すようにとのことでございましたので、ひと月後。お呼びするリストの方は、龍の宮に問い合わせて整えてございます。後は、鷲の宮から何人のかたが参加されるのかといったところでございまする。」

公青は、薄っすら笑いながら言った。

「のう相留。翠明と甲斐、定佳も呼んではどうか?安芸はあの妃が恐ろしいゆえ来れぬだろうが、翠明と定佳は独り身であるし、甲斐とて一人おとなしい妃が居るだけであるし。あれらも大きめの宮の王であるし、混ざっても良いだろうが。」

相留は、それには顔をしかめた。

「しかし王、あちらから来るのは皆、我が宮と同じ格の王ばかりでございます。翠明様がたは何と申しても我が王の下に属する方々。とても同じ列には加われますまいに。」

その口調には、何やらプライドのようなものが見える。公青は、苦笑しながら相留に言った。

「だが、我が宮を貸すのだからの。我は此度の茶会には主催者として面倒を見るだけで、参加はせぬ。その代わりぞ。良いではないか、どうせ我が他の宮の面倒も見ておるのだし。我が子のようなものぞ。あれらが妃も娶らずに居るのが、案じておったところ。あちらの皇女達ともこんなことがなければ交流出来ぬし、どうにかこじつけてあれらを参加させよ。そうよな、龍の宮には、それを飲まねば宮を貸さぬと申して。どうよ?」

相留は、ますます顔をしかめた。

「王…そのような脅すようなことを龍の宮にするのは、感心できませぬ。分かりました。では、どうにかしてお席を作りましょうほどに。翠明様、定佳様、甲斐様。安芸様は、よろしゅうございまするか?」

公青は、考え込むような顔をした。

「うーん、変な気を起こしても困るゆえ、一応あれも誘ってみよ。我が、別に書を送って、無理なら来ずでも良いと申しておくから。では、左様手配を。」

相留は、頭を下げた。

「は!では、早急に。」

相留は、出て行った。公青は、一人、面白くなりそうだ、とほくそえんでいた。


龍の宮では、維心が兆加からの報告を受けていた。

「そのようなわけでありまして、此度の茶会にはあちらの公青様が統べる神の王達を軒並み参加させたいとのことでございまして。どう致しましょう…格から言うと、やはり外れてしまうのではないかと思うのですが。」

維心は、無表情でじっと考えながら言った。

「…まあ、良いであろう。別に此度は、鷲の女の行き先さえ見つけられれば良いのだからの。こちらの王達とて、見合いの茶会となると浮き足立つゆえ、軽い印象がある。そこで格がどうのという話にはならぬのだ。あのような場では、皆同列であるから。己の宮の格を振りかざす王は、己自身に魅力がないと言うておるようなものであるし、恥とされるゆえな。」

兆加は、困ったような顔をしながら答えた。

「ですが王…。此度は王の格を限定した招待で、いつもの見合いとは違いまする。王もご存知であるかと思いまするが、あちらの王達は公青様の力が無ければそれほどの格でもない方々。同じ列に並べることが、こちらの王達のご不興をかうことになるのではと、案じられまする。」

維心は、深くため息をついた。確かにそれはそうなのだ。誇りばかりが高い王が多く、上から二番目だの三番目だのといつなり前に出すことが多い。自分は最上位でそんなことは気にしたこともなかったが、それでも他の宮の王達には、その格というものが大変に大事なものであるらしかった。

維心は面倒になって、手を振った。

「ああ、ならば三番目まで呼ぶが良いわ。数が多いゆえ、混ざってよう分からぬようになろうが。そもそも西のことは、まだ序列に加えておらぬのだから皆がよう知らぬ神ではないか。公青と同じように思えば良いのだ、あれの臣下か何かのように。数が多ければ、招待されても断りたければ断ることも出来よう。他の王達にも好都合よ。そのようにせよ。」

他人の婚姻の世話など、維心には関係ないことだった。面倒でならないので、さっさと終わらせたい。それが、本音だった。

兆加はそれが分かったので、慌てて頭を下げた。

「は、ではそのように西の宮と調整を。王は、此度はお出ましにはなりませぬか。」

維心はすぐに盛大に首を振った。

「なぜに我が。見物にすら行きとうないわ。」

兆加は、また頭を下げ直した。

「は。ではこちらからは、炎嘉様ということで。」

維心は、面倒そうに早く兆加を追い出したそうにしていたのに、それを聞いて身を乗り出した。

「炎嘉?あれは、参ると申したのか。」

兆加は、顔を上げた。

「はい、我が王は参られぬだろうから、龍として自分が参るとおっしゃっておられました。」

維心は、それを聞いて考えるような顔をした。

「…では此度は最上位は誰が参ると申しておるのだ。」

兆加は、懐から小さな紙を出すと、それを見ながら答えた。

「箔翔様、志心様、炎嘉様。箔翔様は王からの求めをお断りになれぬので承諾せざるを得なかったのではないかと思われまする。志心様は公青様の宮で開かれるので、見合いと申すより公青様とお会いするために参るような感じでおられるのかと。炎嘉様はただ、ご興味がおありであられるのでしょう。蒼様は元より喪中であられるので、華やかな催しものには全て断りを入れていらっしゃいまする。」

維心は、じっと黙った。皆が参るのか。志心と炎嘉は行かぬと思うておったのに。

「…西へ行っても茶会には出ぬという選択肢はあるか?」

兆加は、顔をしかめた。

「王、そもそも茶会のためにお集まりになるのでございまするから、形だけでもその場にお座りになる必要がございまする。ただ…公青様は場をお貸し頂くというだけで、見合いには参加せぬとおっしゃっておられるとか。なので、公青様と別部屋で居られるということが、もしかしたらお出来になられるやも…。」

維心は、そこで大きく頷いた。

「よし、ならばそれで。そのように申し入れよ。我も参る。」

兆加は、慌てた。

「王、もしかしたらと申しただけでございます。まだ、それが出来るとは…。」

維心は、有無を言わさぬ構えで立ち上がった。

「我がそうすると申しておるのだ!そう申し入れれば良い!ではの。」

維心は、サッと身を翻すと、奥へと入って行く。

兆加は、取り残されて深いため息をついた。

前世の王と違って、こういうところは困ったもの。皆が参加されるとなると、そこへ加わりたくてならぬようでいらっしゃるのだから…。

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