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他の思惑

維月は、十六夜と話していた。空には月は出ていないが、十六夜は間違いなく上に居る。それが、維月にはとても心強かった。

《もう気は抑えて大丈夫だ。》十六夜の声が言った。《臣下達は、綾が茶会に行く準備を始めたからな。お前を気に入ったってことさ。よくやったな、維月。》

維月は、ホッと肩の力を抜いて、微笑んだ。

「良かった…本当にあれで良かったのかって、とても案じておったの。これで我の役目は果たせたのね。」

十六夜の声は、しかし少し気遣わしげに変わった。

《確かにそうだが、お前が無事に帰るまでが役目だからな。間違いなく宮の全ての男がお前に骨抜きにされてた訳だから、トチ狂って何をしでかすか分かったもんじゃねぇ。焔も含めて、お前は警戒しなきゃならねぇぞ。とにかく、その気を抑えて皆にこれ以上影響が出ないようにしろ。ま、いよいよとなったら光に戻って月に帰って来たらいいんだけどよ。》

維月は、笑った。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。いざとなったらお父様もいらっしゃる。我が呼んだら、すぐに来て下さるもの。我はそこまで案じておらぬわ。」

確かにそうなんだが。

十六夜は思ったが、さっきの会合を覗き見ていて燐まで何やら落ち着かない事を言っていたのが気に掛かる。燐は、綾に似て焔とはまた、違った形でかなりの美形だった。維月は見た目だけでは絶対に相手に惹かれたりしないが、しかし外見だけで見ると、間違いなく燐は維月の好みの外見だった。それは、十六夜には分かった。

《その…維月。》十六夜は、今のかなり素直な維月に、聞いてみようと口を開いた。《燐のことだが…お前、どう思う?》

維月は、首をかしげた。

「燐様?綾様に顔立ちがとても似ていらして、大変に美しいかただったわね。ですけれど、何か憂いをお持ちのような…なぜか、気に影のようなものを感じたわ。何か思いわずらうことでもおありなのかもしれないわね。」

十六夜は、胸が騒いだ。確かに、燐は焔が生まれて約束されていた王座を剥奪され、ただの臣下に成り下がった。その辺りのことだろうか。

《王族ってのは、どこでもいろいろあるもんだからな。燐だけじゃねぇと思うぞ。》

しかし、維月は納得していないようだった。

「違うの、なんだろう、本当に何か、悲哀を感じるの。維心様のような…。焔様より、気になるぐらい。」

十六夜は、維心の名が出て来たことにいよいよ良くないと思い、急いで話題を変えた。

《とにかく、お前の役目は後は月の宮へ無事に帰ることだ。あと二日、そこで何事も無いようにな。》

すると、後ろの戸が開いて慌てて入って来た侍女が頭を下げた。

「維月様、焔様がいらしておりまする。」

侍女達は、全て事情を知らされていた。なので、本当に維月がここへ嫁ぐのでないことも、維織を騙っているのも全て承知していたのだ。それなのに、個人的な部屋へ訪ねて来ること自体が、大事(おおごと)だった…中へ入れることは、婚姻を承知するようなもの。なので普通なら絶対に入れないが、しかしここでは婚約者なので、入れないわけにはいかないのだ。

維月は、困ったように月を見上げた。

「まあ…どうしましょう、十六夜。」

十六夜の声が、焦ったように言った。

《仕方ない、中へ入れろ。オレがそっちへ行く。》

そう言ったかと思うと、きらりと月から光が現れて降りて来るのが見える。維月は、侍女を見て頷いた。

「では、そちらの応接間へ。」

侍女は、少しホッとしたような顔をして、また頭を下げて出て行った。維月は、緊張気味に姿勢を正した。きっと深い意味もなくいらしたのだろうけれど、そのたびにこのように構えねばならないのは、気が重いこと…。


焔は、少し戸の前で待たされた時、やっとここへ訪ねる意味を思い出していた。いくら客間として自分が与えた部屋でも、個人的な部屋へと訪ねるということは、そういう意味があると思われても仕方がない。維月自身も、なので普通なら中へ招き入れるはずもなかった。だが、此度はそんなわけには行かないのだ。

そんなつもりではなかったが、そんなことを侍女に言うのもおかしいかと思い、焔はあまり期待もせずに待っていた。それなのに、すぐに戻って来た侍女は、どうぞ、と自分を招き入れたのだ。

焔は、維月のあの気を思い出し、体を硬くした。あんな気を、二人きりの席で受けたらきっと我を忘れてしまうだろう。どうあっても、約束を違えるわけには行かぬのに。

そう思いながら、焔が緊張気味に客間の応接間へと入って行くと、隣りの寝室から、維月が入って来た。焔が思わず息を飲むと、その後ろから、十六夜が険しい顔で入って来た。

「…焔。ルール違反だぞ。ここへ来るのを、今の維月が拒めないのは知ってるだろうが。それとも、せっかくみんなが納得したのに、それをぶち壊していいのか。お前が約束を守らねぇなら、こっちだってバラして維月を連れて帰るぞ。」

焔は、自分の結界に全く掛からずに、こうしてここに難なく来ている十六夜に驚いた。

「十六夜…違うのだ、我はそんなつもりで参ったのではない。維月の様子をと思うて、こちらへ参ってから気が付いた。」

十六夜は、怪訝そうに焔を見た。月は神より深く、心の機微を捉える事が出来る。焔は一瞬ひるんだが、嘘はついていないので、そのままそこに黙って立ち続けた。

「十六夜、焔様は嘘をおっしゃってはいらっしゃらないわ。」維月が、先に口を開いた。「驚いていらっしゃるだけよ。」

十六夜は、渋々頷いた。

「そうだな。だがここに居させてもらうぞ?気が変わったら大変だからな。」

焔は、予想はしていたのですぐに頷いた。

「そうしてくれ。我とて、自信がないと構えておったところよ。」

そうして、手で座れと合図する。十六夜と維月は、黙ってそれに従うと、二人並んで座った。焔は、その前に座ると、維月を見た。今は、さっき謁見の間で見た時よりずっと気が抑えられている。これぐらいなら抗える、と少しホッとしながら、切り出した。

「まず、綾であるが、主の力添えのお陰で全員一致で外の宮に嫁ぐ事になった。主らが勧めてくれている、西の宮での茶会に出る方向で決まった。」

十六夜が頷いた。

「見てたよ。燐も行くとか言ってたんじゃねぇのか。」

焔は、驚いたように片眉を上げた。

「見ていたと?」

十六夜は、面倒そうに手を振った。

「ああ、オレに隠したいなら月明かりが入るような窓がある部屋で話さない事だ。って言うか、お前の気を知ってる時点でどこに隠れたってお前の目からみんな見えるんだけどよ。で、燐も行かせるんだろう?」

焔は月が思ったより能力が高いのを知って、少し警戒するような顔をしたが、頷いて答えた。

「行かせる。ただ、維月は決して西へ行かせるでないぞ。燐は女には興味もなく来た男だが、それでも維月には興味を持ったようだった。油断がならぬ。」

それには十六夜が、ため息をついた。

「そういう男ほど、維月には執着するんだ。そんな感情を知らずに来てるから、恋愛に関してはガキだってのに、力のある大人だろう。これを逃してなるものかって感じかな。維心を見ろ、維月以外には見向きもしねぇ。お前はなんだかんだ言って、前世の記憶があるから全く女を知らねぇわけじゃねぇ。だから、ちょっとは抑えも利く。だが、維月以外の女に興味を持ったことがなかった男は、いきなりこんな強烈なのに心を持ってかれるわけだから、もう抑えが利かねぇんだよ。これまで見て来て、オレはそう思うね。」

維月は、十六夜を見て咎めるように言った。

「まあ、十六夜。我はそんな…誰彼構わず気を発するわけではないわ。それに、龍の宮から出たこともなかったのに。」

十六夜は、維月を振り返って苦笑した。

「言っただろ、お前は術に掛かって本当の自分を知らねぇんだ。確かに誰彼構わず気を発してたわけじゃねぇが、それでもお前を望む神は山ほど居たんだからな。要はお前、タチが悪いのに好かれやすいから気をつけろってことだ。」

維月は、袖で口を押さえた。タチが悪いって、じゃあ維心様もタチが悪いのかしら。

すると、焔が見かねて呆れたように十六夜に言った。

「そのようなこと、維月に言うても困るだけではないか。まあとにかく、燐に限ってはないとは思う。あれは確かに女に見向きもせぬが、それでも女は掃いて捨てるほど寄って来るのだ。なので、見慣れておらぬわけではないぞ。」

それにも、十六夜は焔を睨み付けて言った。

「あのな、維心がどれだけモテなかったと思ってるんでぇ。あいつはあんまり女が寄って来るから斬って捨てたぐらいなんだぞ?見慣れてるってなら、あいつの方が見慣れてらあ。」

焔が、目を丸くした。

「斬る?!そういえば言っておったの。それはその…やり過ぎではないかと思うが…。」

十六夜は、肩を落とした。

「やり過ぎだよ。だからそんな男でも、維月にはあんな感じなんだ。油断はするな。ここに後二日置くことになるが、燐は維月の側に寄せるなよ。接触すれば接触するほど、維月から離れられなくなるし、忘れられなくなるからな。分かったか、焔?」

焔は、十六夜の何だか分からないが気合の入った様子に、思わず後ろへのけぞりながら頷いた。

「わ、わかった。我が側に居るようにしようぞ。さすれば、燐は近寄れまい?」

十六夜は、それでもあまり気が進まないようだったが、仕方なく頷いた。

「まあ、それでいい。とにかく、頼んだぞ。オレはいつでも見てるが、それでも蒼と話してて気がそれてる時もあるから。」と、維月を見ると、その手を握った。「維月、もしオレの返事が遅かったら、親父を呼べ。すぐに来る、親父の速さはオレの比じゃねぇから。」

維月は、真剣な十六夜に、自分も真面目な顔で頷いた。

「わかったわ。大丈夫。」

焔は、立ち上がって軽く会釈した。

「ではの。まだ日は高いし、こちらでおとなしくしておるが良い。ここには、我以外は礼を失するから訪ねては来れぬ。だがそれでは退屈であろうし、明日は我と庭でも歩くか。」

維月は、立ち上がって頭を下げた。

「はい、焔様。お心遣い、感謝致しまする。」

焔は頷くと、そのままそこを出て行った。

十六夜は、早くあと二日過ぎて欲しい、と心底思っていた。

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