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対策

維心は、目を開いた。横で、十六夜もゆっくりと目を開く。目の前には、眉を寄せた碧黎と、無表情の大氣が立って、二人を見つめていた。

「…このような…ならば今すぐ、維織を滅してしまえば済むこと!」維心は、開口一番言ったかと思うと、立ち上がって隣りの部屋を見た。「そこであろう!我がやる、命を断ち切ればよいのだ!」

十六夜が、そんな維心の袖を掴んだ。

「待て!そんなことをしても…維月が苦しむだけだ。お前、見ただろう?維月は、自分の命を投げ出しても維織を助けた。オレの知っている維月は、自分の子のためなら命だって厭わないやつなんだよ。前世から、全く変わってねぇ!」

維心は、それを聞いて止まった。確かに、維月はそうだった。そんな維月だからこそ、自分は愛して側に置き、生まれ変わっても慕わしくてならなかった…。

碧黎が、息をついて言った。

「我とて、これを見せられた直後はすぐに維織を滅しようと思うたわ。だが、そもそも維月が命を落としたのは、維織を助けるためだった。ならばそれでは、何も解決にならぬ。維月が維織を滅した後どんな反応をするのか、我は怖くなった。だがしかし、実際にこんなことが起こったら我は指をくわえて見ておるなどせぬ。維織が消滅すると決まった時点で、さっさと消してしまう。維月が、己の命を交換する時を与えぬように。」

そう言った碧黎の腕は、小刻みに震えていた。恐らくは、思い出したのだろう。維月が、消滅して行くその未来を。あの後、地は荒れ狂っていた。あれが碧黎の心だとしたら、それは深い絶望であったはずなのだ。

維心は、今立ち上がった椅子へと、また座った。

「ならば…対策を練らねばならぬ!確かに、焔から本日書状が来ておった。しかし、まだ内容は手を出すなということだった。だが、あの先見で見た画像は、遠からず起こることであろう。焔は臣下から押し切られて、こちらへ打診して来るはず。問題は、その後ぞ。」

碧黎は、首を振った。

「違うぞ、維心。その前に、どうにかせねばならぬのだ。維織の記憶を、その前に戻して維月を戻さねばならぬ。十六夜と言い合いになる前に、維織を戻せばあれもまだこちらの話を聞く余裕がある可能性がある。維織は、己の自分勝手さに自己否定をしてああなった。今ならばまだ、そこまでではない。自分の代わりに維月を、などと、まだ言うてはおらぬのだからの。」

十六夜は、まだ心ここにあらずな状態だったが、維心は十六夜をせっついた。

「何をぼうっとしておる!維月の命が懸かっておるのだぞ?あれはただの先見、まだ変えることは出来る!しっかりせぬか!」

十六夜は、まだ維月を失った映像が頭にこびりついて離れなかったのだ。しかし、頭を振って何とか振り払うと、無理に意識を戻して言った。

「…維織が、記憶を戻した時はどんな状態だった?蒼が、あいつに歩み寄って…」

十六夜が思い出そうと眉を寄せると、維心が虚空を見つめて何かを見るようにした。

「…いや、その前から呆然としておったの。主が、何某か維織をなじった時ぞ。維月が維織の身代わりになると言うたことと…大氣がどうの、という(くだり)よ。」

碧黎が、維心を見た。

「そうか、大氣…」と、隣りで黙っている大氣を見た。「維織が思い出したと言うた後も、蒼に大氣が育ててくれなかったとか何とか言うておったの。それか。」

大氣は、居心地悪そうに横を向いた。

「我の名が、維織の記憶を戻す助けになるのやもな。それだけ疎ましく思うておるのではないのか。」

それには、十六夜が首を振った。

「そうじゃないと思うぞ。それだけお前を想ってるってことだ。お前との関係を、オレと維月みたいに構築し直したいばっかりに、あいつは赤子に戻っちまったんだからな。お前の名を聞いて、それで思い出したんだろう。」

維心が、横から言った。

「つまりは、主がその姿を見せれば良いのだ。名を聞くより、ずっと効果的であるかと我は思う。」

しかし、大氣は首を振って後ろへ下がった。

「我はもう、維織に会うつもりはない。生涯の。あれは死んだものと思うておると言うたであろうが。我の中では、もう維織は過去なのだ。」

いつもは黙っている碧黎が、大氣に詰め寄った。

「大氣、此度ぐらい力を貸さぬか。我は維月を、どうあっても失いとうないのだ。姿を見せるだけでよい。後は我らでやるゆえ。」

しかし、大氣は首を振った。

「碧黎、主には分かっておるはずぞ。我が何度も先見した画像を他人に見せること自体、珍しいであろうが。本来、我は何も見てもそ知らぬふりをしておる。だが、此度ばかりは寝覚めが悪いゆえ、こうやって教えたのだ。これ以上、我に何某か求めるでないわ。」

大氣は、本当に嫌なようだ。十六夜は、その様に僅かな間にかなり離れてしまった大氣の心を知った。もう、本当に維織のことには関わりたくないのだろう。

「もう、いいよ。」十六夜が言う。碧黎と、維心が振り返った。「大氣にとっちゃ、他人事なんでぇ。金輪際維織と関わるなと言ったのはオレの方だし、オレが何とかすらあな。」

維心が、眉を寄せて十六夜を見た。

「なんとかって、主どうするつもりよ。また言い合いになどなってはならぬぞ?案じられるの。」

碧黎は、頷いた。

「そうよ。主は何事も行き当たりバッタリであるから。」

十六夜は、鬱陶しそうに手を振った。

「あのな。いくらなんでも、考えてらあな。オレの外見は、大氣に似てる。誰かに似せた体を作るのにも、大氣なら簡単なんだ。オレが大氣のフリをして、維織の枕元にでも立って見せるよ。そうしたら、思い出すかもしれねぇ。」

維心は、感心したように言った。

「何ぞ、主にしては考えたことよ。では、それで参るか。」

すると、大氣がスッと浮き上がった。

「我は去ぬ。後は主らが考えることであるから。」

碧黎は、大氣を見上げた。

「我が宮へ帰るか?」

大氣は、首を振った。

「いいや。主とて忙しいであろうが。我は…ま、適当にぶらぶらしておるわ。どうせ我は本体にでも戻っておるのが良いのであろうからの。」

碧黎は、同じように浮いた。

「我も行く。」と、維心と十六夜を見た。「主らは、己の良いように対策を立てよ。我は、最後の時に手を下す。どこに居ても見ておるゆえ、案ずるでない。あの先見の我のように、油断して安穏としてはおらぬ。」

最後の数語を発する時、碧黎は険しい顔をした。どうやら碧黎は、自分の不甲斐なさのせいで維月を黄泉へ逝かせてしまったと、かなり自分に腹を立てているようだ。

「待て、主とて考えてくれるのではないのか。」

維心が言ったが、碧黎は首を振った。

「主に任せる。ではの。」

碧黎は、大氣と共にパッとその場から消えた。維心は、不機嫌に十六夜を見た。

「何ぞ、主の父は。中途半端な…此度こそ、手を貸してくれるのかと思うたのに。」

十六夜は、維心を見て首を振った。

「親父は、大氣を心配してああ言ったんだ。大氣は独りだし、どこへ行くのかもわからねぇ。独りにするのが、不憫なんだろう。」

それを聞いて、維心は碧黎も一応、大氣のことは考えているのか、と感心した。ああいう命の気持ちは維心には皆目分からなかったが、それでもやはり、孤独というのは苦しいのかもしれない。

維心は、十六夜を見た。

「して、どうするのだ。維織は寝ておるのだろう?明日の朝にでも、思い出させるのか。」

十六夜は、頷いた。

「お前に知らせてからにする。何が起こるかわからねぇし、維月だって少なからず影響を受けるんだからな。維月の記憶が戻ったら、二人で維織をフォローするよりない。それでうまく行けばいいが、それにしても焔のことが気になるな。こっちが何とかなっても、その後あっちへ誰を嫁にやるんだよ。やっぱり瑠維か?」

維心は、それには頷くよりなかった。

「維織が否となれば、瑠維より他ない。だが、我も他に手はないか考えてみる。焔とて、本意ではないのだ。これで我に妹でも居ったら、喜んで焔に嫁がせるのだがの。格から言うても、釣りあうのだし。将維は我だけしか子を産ませなんだからのう…。前世瑤姫の相手が炎嘉しか居らんで、それは難儀したのだ。炎嘉は別にどっちでもいいとかぬかしおって、瑤姫はそんな所へ行きたくないとダダをこね、臣下もほとほと困っておった。主ら月の眷族が現れて、蒼が来た時にはホッとしたものよ。瑤姫がやっと嫁ぐとな。」

十六夜は、その時のことを思い出して、苦笑した。

「大きな宮の皇女ってのは、大変なんだな。嫁ぎ先にも困るんだからよ。ま、今日のところは、これで寝るか。」と、立ち上がった。「どっちにしても、焔がまた嫁をくれって言って来てないんだから大丈夫だ。明日は、一緒に維織の記憶を戻そう。維月を、元に戻すんだ。」

維心は、頷いて立ち上がった。

「やっと維月が戻って参るか。我は、先見のような未来は、絶対に来させぬと誓おうぞ。」

そうして、それぞれの思いを胸に、その日は床についたのだった。



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