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後悔

維心には、分かっていた。

維月の心が自分に向かなかったのは、自分が維月に興味がないと遠ざけたからなのだ。維月が自分に合わせて一生懸命演じていた神の女というものを、維心は厭い、元の維月を求めるあまり、違う女になってしまったと見向きもしなかった。十六夜は、そうではなかった…自分が遠ざけてしまっている間にも、十六夜はそんな維月もいいかもしれない、と言って、それは楽しげに共に過ごしていたのだ。

恐らく、維月は十六夜のことは慕わしく想っているだろう。

維心は、浅はかだった自分を責めていた。維月にとって、父になってしまった自分。そうして、娘として自分から巣立って行こうとしている維月を、今更に愛していると引き止めようとしている自分…。

どこまでも我がままだ、と、維心はひたすらに維明の部屋に篭って自分を責め続けていた。

「維心?」十六夜の声がした。「入るぞ。」

維心は、そちらを向かなかった。十六夜が、何を話しに来たのか分かっている。炎嘉に、維月を渡せとか言いに来たに決まっている。

十六夜は、いつも維月の気持ちを優先する。炎嘉を愛しているのなら、あちらへ行かせてやりたいと思うはずなのだ。十六夜は、月で維月と繋がっているのだ。何があっても、離れないという自信があるのだろう。

維心は、十六夜のその余裕が妬ましかった。

十六夜は、入って来て維心が窓辺で背を向けたままなのを見ると、息をついてその背に言った。

「維心…維明が心配してたぞ。父上が篭もりきりになられておるって。」

維心は、フンと小さく鼻を鳴らした。

「…良いわ。どうせあれは我の代わりが面倒だとかであろう。」

十六夜は、首を振った。

「気持ちは分かるが、いつまでもそんなんじゃ駄目だ。オレは、維月と話して来たんだ…維心、今お前が頑張らねぇと、本当に炎嘉に取られちまうぞ。維月は、お前の心境の変化を敏感に感じ取ってたんだ。つまりは全部、バレてたんだよ。お前が途中、疎ましく思ってたことも。」

維心は、驚いたように十六夜を振り返った。そして、急いだように言った。

「疎ましいなどと…ただ、違う女になってしもうたと、残念に思うておったことは事実であるが。」

十六夜は、また首を振った。

「維月は月だからな。お前の近くに育って、ずっと身近に見てたんだから、全部バレちまっても仕方がねぇ。オレの目から見てたって、お前は維月に興味がないってすぐに分かった。維月には、もっと分かっただろうよ。」

維心は、観念して下を向いた。

「…確かに、維月が居ると思うと、居間へ帰る足が重くなっておったのは事実。我は、維月がすっかり別の女に育ってしもうたと思うて、それが辛くてならなくて…主のように、変わった維月を、維月だと思いながらも受け入れることが出来なかった。いや、受け入れる努力をしようとしなかった。いずれ、戻るだろうとそんな甘えがあったゆえ…。」

十六夜は、やっと頷いた。

「そうだろうな。維月はそれを感じて、お前に接しないようになっていた。だから、お前を男として見る時間が無かったんだ。あいつも、悩んでた。炎嘉が好きなのは間違いないらしいが、それでもその炎嘉が、いったい何のためにそんなことをしたのか考えたようなんだ。炎嘉からは、深い愛情を感じたと言ってた…お前からは、感じなかったらしいがな。」

維心は、うなだれた。どうして、維月という命を信じなかったのだろう。変わってしまったと思い込んで、維月を蔑ろにしてしまった。全ては維月は維月なのに、以前の維月に固執するあまり、今の維月を見ようとしなかった、自分のせいなのだ。

「分かっている。我のせいなのだ。我が、維月が変わってしまったと、勝手に思い込んで接しずに居た。そんな我に、維月が愛情を感じてくれるはずなどなかったのだ。」

十六夜は、維心の横に来て座ると、肩に手を置いた。

「分かってるんなら、これからどうすればいいのか分かるな?維月に、お前って神を見てもらわなきゃ。お前と維月は、オレと維月と同じように魂から繋がってるんだろう。だから、普通にしていたらきっと、維月はお前を想ってくれる。オレはそう思う。炎嘉が、せっかくオレ達のことを思って維月を置いてったんだ。お前も、努力してみろ。ま、今までのお前のままで居ればいいんだ。ここ最近のお前でなくな。」

維心は、十六夜を思いつめたような顔で見た。そうして、また視線を落とした。

「…維月は頑固であろう。一度想うたら、きっと簡単には忘れたりせぬ。炎嘉を想うようになったのなら、恐らくは心変わりなどそう簡単にはしてくれぬ。こんな我が、まだ維月に愛されると、主は思うのか。」

十六夜は、すぐに頷いた。

「思ってるぞ。」維心は、驚いたように十六夜を見る。十六夜は、微笑んだ。「維月を愛してるんだろうが。だから、お前は元の維月を忘れられずに、今の維月には興味が湧かなかった。だが、維月は維月だって知ったんだ。今からのお前なら、きっとあの維月にも想ってもらえるだろう。炎嘉のことは、確かに忘れるのは難しいかもだけどな…お前の言うように、あいつはかなり頑固だから。だが、その炎嘉よりお前を深く愛してもらえばいいんだよ。」

維心は、顔をしかめた。しかし、これまでのように、思いつめたような感じではもう無かった。

維心はスッと背筋を伸ばすと、呆れたように言った。

「相変らず、いい加減よな。だが、我も楽天的に考えるようにしようぞ。努力する。それでも維月が我より炎嘉が良いと申すなら、それは仕方のないことぞ。維月が記憶を戻すまで、我は炎嘉に維月を預けるよりない。」

十六夜は、声を立てて笑った。

「なんだ、案外に胆が据わったじゃねぇか。」と、立ち上がった。「さ、じゃあとにかくは政務に戻れ。維明に任せっきりで、こんな所に引きこもってたんじゃお前のいい所を見せようにも見えないだろうが。維月にも、普段通りにしてろって言ってとくよ。お前は何も気にしちゃいねぇってな。」

維心は、十六夜に促されて立ち上がった。そうして、戸口へと足を向けながら言った。

「全て我が悪いからぞ。これから己で何とかせぬと、どうにも出来ぬと思うたから。だが、主のように平気なわけではない。炎嘉に一時でも取られることを思うと、身が裂かれるようぞ。だが…炎嘉ならば、と思う気持ちもある。まだ、他の者に取られることを思うたら、あやつなら、との。」

十六夜は、維心に並んで歩き出しながら、真剣な顔で頷いた。

「炎嘉は、オレっていうよりお前を気遣って維月を置いてったんだと思うぞ。本当は、連れて帰りたくて仕方がなかっただろう。だが、お前の気持ちを思うと、どうしても出来なかったんだ。だから置いてった。」

維心は、少し目を潤ませた。

「全く…あやつは。いつなり我のことばかり案じよってからに。」

そうして、維心は維明の対を出て、政務へと出て行った。十六夜はそれを見送ってから、龍の宮を南へ向かって飛び立ったのだった。


それから、一週間が経過した。

やっとのことで奥宮の、維心の居間と奥の間、それに維月が使っていた瑠維の部屋の辺りは修復が完了し、維心と維月は維明の対を出て奥宮へと戻った。相変らず回りは修復作業中で落ち着かなかったが、それでもいつも使っていた奥宮なので落ち着く。

驚いたことに、維月もそこへ帰ると落ち着くことに気が付いた。小さな姿の時から過ごして、そこが本当に自分の居場所になっていたことを、維月はそれで知った。

そして、維心の姿を見ないと、落ち着かない事実にも気が付いた。維心のことを、父や兄のように感じていると自分では思っていたが、だからこそ姿を見ないと落ち着かないのだろうか。

維月にも、それが分からなかった。それでも、毎日そっと脇から維心を見て、自分の心をホッと落ち着けていた…維心の姿は、十六夜と同じように、維月に安らぎを与えるのだった。

そんな毎日の中、炎嘉が、維心を訪ねてやって来た。しばらく留守にしていた十六夜が、その炎嘉の隣りに立っている。

十六夜が、炎嘉を連れて来たのか。

維心はそれを気取ったが、現実と真正面から対峙しようと、自分の居間へと炎嘉を通したのだった。

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